気になる「ニュースの数字」第5回

「高齢出産だから受けておきたい」が95% 「新型出生前診断」は妊婦を不安から救えるか

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「新型出生前診断」を受ける人は年間1万人

「新型出生前診断」が日本で認められたのは2013年の3月。開始直後は実施する病院の少なさから、検査の予約が取れず混乱が起きたことなどが多く報道されました。それから3年。「新型出生前診断」の現状はどうなっているのでしょうか?

先月末、毎日新聞に「新型出生前診断 異常判明の96%中絶 利用拡大」の見出しが踊りました。同記事によると、新型出生前診断を実施する病院グループ「NIPTコンソーシアム」が昨年12月までに加入施設44施設の実績を調査したところ、これまでに検査を受けた女性の数は2万7696人。

受けられる病院の数は3倍以上に

また、過去の記事をさかのぼってみると、1年目の受診者数は7740人、2年目は1万60人と、「新型出生前診断」を受ける女性が年々増加しているのがわかります。開始直後は15ヵ所だった「新型出生前診断」の認定病院の数も、今では国内で約50ヵ所に増加。「新型出生前診断」は妊娠した女性にとって、この数年で以前よりも身近になってきているのです。

では、そもそも「新型出生前診断」とは何なのでしょうか?
従来の「出生前診断」とはどのように違うのでしょうか?
そして、これほどまでに女性に求められているのはなぜなのでしょうか?
今回は「新型出生前診断」をめぐる疑問について考えていきたいと思います。

採血で調べる方法は2種類ある

「新型出生前診断」とは医学的な用語では「無侵襲的出生前遺伝学的検査」(non-invasive prenatal genetic testing)と呼ばれます。記事などでよく「新型出生前診断(NITP)」という表記を見ますが、「NITP」とは先ほどの医学的名称の略なのです。このNITPでは妊婦の血液を採取し、その血漿(けっしょう)中に混じった胎児のDNAを読み解くことで染色体の異常を調べます。

「非侵襲的」とは、切開など体を傷つけるような手術をせずに調べることで、同じようなテストには一般的に「クアトロテスト」と呼ばれる母体血清マーカー検査があります。

陽性的中率は従来の検査の10倍

NITPで調べられる先天性異常は、ダウン症、18トリソミー、13トリソミーの3つ(トリソミーとは通常、2本で対をなす染色体が3本になってしまう染色体異常のこと)。一方、先ほど紹介した「クアトロテスト」の場合、調べられるのはダウン症、18トリノミー、開放性神経管奇形の3つです。

では「クアトロテスト」という似た検査方法がありながら、NITPが画期的だった理由はどこにあるのでしょうか? 

 ひとつとして挙げられるのが、「陽性的中率」です。陽性的中率とは、検査で「陽性」とされた人が実際にその病気である確率の事で、疾患や母体の年齢ごとにその値は変化します。「クアトロテスト」のダウン症に関する陽性的中率は、母体が40歳で妊娠16週目の場合、9.67%。これに対し、NITPの陽性的中率は、93.66%と大きく差があります。

羊水検査を受ける妊婦は年間2万6000人

しかし、いくら的中率が90%を超えるとはいえ、NITPはあくまで「非確定診断」。陽性が出た場合「確定検査」を受けなくてはなりません。その「確定診断」のなかで最もポピュラーなのが「羊水検査」です。

「羊水検査」では母体のおなかに針を刺し、羊水中にただよう胎児の細胞を採取・検査するもの。「羊水検査」は半世紀以上の歴史を持つ古い検査方法ですが、こちらも受診者数は増加の傾向にあり、2013年には年間2万6000件もの診断が行われています。

的中率が高く、現在はNITPよりも多くの女性が受診する「羊水検査」ですが、ひとつ落とし穴があります。それは安全性です。先ほども書いたように「羊水検査」は母体に針を刺す「侵襲的」診断。流産の可能性が0.3%あると言われています。

受診理由の95%「高齢出産だから」

では、なぜこれほど多くの女性が「出生前診断」を受けるのでしょうか?

実は、NITPが導入された最初の1年で受診した女性の 95.4%が「高齢出産だから」というもの。実際、母体の年齢と染色体以上の関連性は高く、母体が20歳のダウン症の発症頻度が1050分の1であるのに対し、35歳では245分の1、40歳では70分の1とされています。晩婚化が進む現在では、自分の子どもが先天性異常を持って生まれてくるリスクを感じる女性は、もはや少数派ではないのです。

「陽性」のうち96%が中絶

そして冒頭で紹介した記事にもあるように、NITPで陽性と診断された妊婦の96%が中絶をしています。日本では「クアトロテスト」の普及以来、リスクのない「出生前診断」に受診したい女性が殺到し「障害がある人の生存権」を多く奪うことにつながるのを危惧し、新しい「非確定検査」を20年間ほど受け入れてきませんでした。この「命の選別」の問題が、NITPの到来でまた再燃してきたと言えます。

イギリスでは「陽性」のうち10人に1人が妊娠継続

しかし、多くの妊娠・出産、不妊治療を取材してきた出産ジャーナリストの河合蘭さんは著書『出生前診断 出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で「非確定検査が広まると障害が見つかっても産む人が増えるかもしれない」と予想している。今はまだ「出生前診断」で知りたくないことまでわかってしまう危険や、陽性的中率がどれくらいかといった理解が乏しい女性が多いのではないかと思います。医師の数も認定施設も増えてきているとはいえまだ少なく、情報がきちんと伝わってこないという現状です。

非確定診断が日本よりも前に普及しているイギリスでは、妊娠中にダウン症と診断された人の10人に1人が妊娠を継続しているといいます。
 
女性がもっと「出生前診断」についてよく知り、覚悟を持ち、またそれをサポートする病院や医師が増えることで、今では「中絶」と一緒に語られることが多い「出生前診断」が変わる日が来るのかもしれません。

(安仲ばん)

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3組に1組は離婚している? 不妊に悩むカップルは6組に1組って本当? 世の中に溢れる様々な「ニュースの数字」の裏側を読み解く連載です。表に見える数字だけではなく、その背景をしっかりと紐解いていくと、新しい発見や気づきが得られるかも。

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