「実母や姑が子育てに時代遅れのアドバイスをして困る」と親世代から悩みが寄せられる一方で、祖父母世代からは、「子育てを手助けしようとしても煙たがられる」という声があがっている。――そんなよく聞かれる悩みに対し解決の糸口を示す無料冊子を、さいたま市(埼玉県)が配布して話題になっている。その名も「さいたま市祖父母手帳」。2016年1月の配布開始以降、ネットニュースや新聞で取り上げられ、じわじわと認知度が上がっているという。さいたま市は、この冊子にどんな思いを込めたのか? 発行までのいきさつや、市民からの反響を聞いた。

昔と今の子育ての違いを分かりやすく

妊娠すると母親がもらう「母子手帳」には、妊娠中から産後を通して子どもの成長を記録するページに加えて、子育てのヒントやアドバスも掲載されている。「さいたま市祖父母手帳」は、まさに「母子手帳」の祖父母版といったもの。「孫の誕生の記録」として生年月日や体重・身長を記入するページに始まり、「孫育て」のヒントが書かれている。なかでも注目したいのが、「ここが変わった! 子育ての昔と今」というページだ。

「ここが変わった! 子育ての昔と今」

「ここが変わった! 子育ての昔と今」

時代の移ろいとともに、子育ての常識も変化している。例えば、昔は「よし」とされていた「うつぶせ寝」は、今では「乳幼児突然死症候群」の危険性が指摘されている。離乳食についても、昔は大人が噛み砕いて柔らかくしたものを子どもに与えることがあったが、今では虫歯菌が移るためNGだ。箸やスプーンの共有も避けるというのが常識となっている。

世代間ギャップで悩む親たちへの手立てに

こうした子育ての常識をめぐる世代間ギャップは、トラブルにつながることもある。「昔の常識を振り回して自分の子育てを批判してくる」「説明しても、“私はこうやって育てた”と反論され、わかってもらえない」など、祖父母との関係に悩む親も少なくない。「さいたま市祖父母手帳」は、こうした「子育て・孫育てあるある」を解決するきっかけとなる有力なサポーターとなりえるものだ。

SNS上では、「公的機関から発行されているという点が、祖父母世代に効果的」「この冊子が子育てについて話し合う材料になればいい」と賞賛する声のほか、「(自分から渡すのはためらわれるので)各自治体で無料配布してほしい」「『母子手帳』と一緒にもらった、と言えば渡しやすい」などのコメントが見られた。

祖父母世代を「地域での子育て」の担い手に

これまでありそうでなかった「祖父母手帳」。かゆいところに手が届くサービスといえそうだ。発行の経緯を、さいたま市に尋ねてみた。

――発行のいきさつについて教えてください。

さいたま市:共働きの父母が増えているなか、核家族が多いさいたま市には、「家事や育児の協力者がいない」という声が多く届いていました。一方で、祖父母世代には時間的・経済的にゆとりのある方もいる。そういった方々に地域における子育ての担い手となってほしいと考えたことが発行のきっかけです。

祖父母世代「現代の子育てがわかって嬉しい」

――今年1月からの配布後から、どのような反響がありましたか?

さいたま市:最初に1万部発行したところ、1ヵ月で在庫が不足してしまい、急きょ2万部増刷しました。各種メディアや新聞に掲載された直後は1日約100件の問い合わせがあった日もあり、電話を切るとまたすぐに電話が鳴るという状況で、そのおよそ8割が市外の方からでした。「さいたま市祖父母手帳」は市内の方向けの冊子で、郵送や書店での配布は行っていませんが、市外の方でもさいたま市のホームページから電子書籍版やPDF版をダウンロードできます

――祖父母世代、親世代からはそれぞれどのような反応が届いていますか?

さいたま市:冊子は、祖父母世代の方にも父母世代の方にも、手に取っていただいています。祖父母世代の方からは、「まさに今、現代の子育てがどのようになっているのか気になっていたので、こんな冊子ができて嬉しい」という声をいただきました。親世代の方からは、「直接言うと角が立ってしまうことでも、この冊子を祖父母に手渡せばいいので助かる。スムーズに伝えられてよかった」という声がありました。

「感覚の違い」を知ることで二世代の相互理解にも

「さいたま市祖父母手帳」には、親世代が読んでもメリットがある。昔の子育ての常識がどんなものだったのかを知ることで、祖父母世代との感覚の違いを理解できるようになるからだ。また、冊子には祖父母と親の「上手な付き合い方」を紹介するページもあり、それぞれの立場から「嬉しかったこと」「気遣いがほしかったこと」が具体的に書かれている。

さいたま市祖父母手帳

互いに何を感じているかを知り、上手な付き合い方のコツを参考にすれば、子育ての連携もうまくいきそうだ。祖父母と協力体制を築くことができれば、育児の負担を減らせるばかりか、子どもにとってもよりよい環境づくりができるのではないだろうか。

内野チエ