絵本作家・のぶみさんインタビュー

『ママがおばけになっちゃった!』作者・のぶみが語る、32年越しの母との和解

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『ママがおばけになっちゃった!』作者・のぶみが語る、32年越しの母との和解

「母親の死」を取り上げた絵本『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)が2015年7月の刊行以来、異例の大ヒットとなり現時点での累計部数は38万部を超えた。「ママは、 くるまに ぶつかって、 おばけに なりました」という衝撃的な一文で始まるこの絵本の著者、のぶみさんはこれまでに160冊以上の絵本を手がけ、その累計部数は100万部を超えるという超人気絵本作家。今回はのぶみさんに、永遠のテーマである親子関係、そして32年越しで訪れたのぶみさん自身と母の「和解」について聞きました。

「ママが死ぬかもしれない」から生まれる愛の形

――この絵本では、1ページ目でお母さんが死んでしまいます。「母親の死」をテーマに描くことに躊躇はありませんでしたか?

のぶみさん(以下、のぶみ):躊躇はありませんでしたね。子どもにとって、「お母さんが死ぬ可能性」というのはゼロなんです。考えもしない。一度も「母親の死」について想像したことがない。だからこの絵本の内容はすごくショックなはずだし、嫌がる子もいます。

たまに、「母親を亡くしている子にとってこの内容はツラいんじゃないですか?」といった意見をいただくのですが、実際には「お母さんがおばけになって見てくれているかもしれない。よかったです」といった好意的な感想のほうが多く寄せられます。

――この絵本で母親の死を擬似体験することで、子どもたちは何を感じるのでしょうか?

のぶみ:一度、この絵本でお母さんの死を疑似体験した子は、お母さんを大切にするようになります。「死」を想像することで、生きていることを大切にしようという意識が芽生えるのでしょう。また、意外なことに40代、50代の方がこの絵本を読んで共感してくれているようです。話を聞いてみると、ご自身も母親をすでに亡くされている方が多くて。

『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)

『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)

のぶみさんが描く今の時代の「お母さん」とは

――作中には、主人公のかんたろうがママの手料理のことを「ママのてきとうなおりょうり」と言うなど、笑いどころもたくさんあります。

のぶみ:そうですね。この本のママは、「現代のお母さん」なんですよ。「昭和のお母さん」とは少し違う。料理も掃除もどこかテキトーで、「完璧」ではないんです。みんながみんなそうだとは思ってはいませんが、僕が話を聞いた限りでは、お母さんたちはうまく手を抜いている印象でしたね。子どもを3人育てながら部屋の掃除も料理も完璧に、なんて無理ですよね。でもその分、今のお母さんたちは優しくておおらかな所がいいんじゃないかと思います。

幼少期に抱えていた「かまってほしい」という思い

――子どもの頃のぶみさんとご両親の関係性はどんなふうでしたか?

のぶみ:うちは実家がキリスト教の教会だったんです。1階が礼拝堂で、2階が住居でした。教会って、礼拝だけじゃなくてホームレスの方たちに炊き出しなども行っていて、わりと忙しいんですね。そのせいか、常に「母にかまってもらえない寂しさ」を感じているような子どもでした。遠くの幼稚園にも一人で登園し、帰りは母が迎えに来る日もあったけど、そうじゃないときは一人で歩いて帰りました。小学校にあがって一人部屋が与えられたら、そのまま部屋に閉じこもるようになってしまいました。

――内向的になってしまったのですね。

のぶみ:学校に行くといじめられて、それでも母には「学校に行きなさい」と言われる。その頃から家にも学校にも居場所がなくて、近所の公園にいるようになりました。学生時代はずっとそんな感じで。僕のように幼少期が「寂しい」という感情ばかりで埋まってしまうと、その後どこかで影響が出るのではないかと思います。マイナスを補おうとする、というか。

悪さを繰り返すのは「褒められたい」の裏返し

――ご自身の場合はどうでしたか?

のぶみ:わざと怒られるようなことをしたりして、大変だったようです。例えば褒められることをしたのに、お母さんが見てくれない、褒めてくれない。最初は「お母さん、見て、褒めて」と訴えますが、何をやっても見てもらえないとわかると、今度は悪さをするようになるんですよ。そうすると怒られるわけです。でも、子どもにとっては「怒られた=見てくれた」なんですね。だから悪さがどんどんエスカレートしていってしまいます。

――「悪いことをするとかまってくれる」と認識してしまうんですね。

のぶみ:僕がインタビューで「子どもの頃は母にかまってもらえず寂しかった」という話をするたびに、母からは「そんなことない」ってずっと反論されていたんですけど、最近になって「そうだったかもしれない」とメールが来ました。母はきっと「忙しいなりに工夫して子どもと遊ぶ時間を作っていた」という認識なんでしょう。でも、子どもは全然そうは思ってないんですよね。

――子どもたちの「寂しさの感度」は親よりずっと強いのかもしれませんね。

のぶみ:別れ話がこじれたカップルにもありがちですが、とにかく自分を「見てほしい」という気持ちが先行してしまうと、関心を引くための手段は何でもよくなってしまう。それって怖い話だと思うんです。特に子どもにとっての「寂しい」「かまってもらえない」という感情は、すごく強く心に残ります。

母の「ごめんね」で訪れた“和解”

――その後、お母さまとの関係性に変化はありましたか?

のぶみ:僕も家庭があるので会うのは年に数回ですが、僕がテレビ出演しているのを見てよく連絡をくれるようになりました。母とやりとりをするうちに、最近では「よく考えたらあのときは寂しくなかったかも、お姉ちゃんもいたし!」と妙に納得したというか、長年自分のなかにあった「寂しさ」がなくなった気がします。

――それは何かきっかけがあったのですか?

のぶみ:母親から「寂しくさせてごめんね」と直接謝られたことが大きいかもしれませんね。あと、僕から「産んでくれてありがとう」と感謝を伝えたのも影響しているかも。

親子の長年のわだかまりを解いたひと言

――「産んでくれてありがとう」は本心でも、なかなか口には出せませんよね。

のぶみ:僕が32歳のとき、ふと思い立って電話で伝えたんです。母は「へ? どうしたの?」みたいな感じだったので、「まあ、そういうことだよ」って言って電話を切ったんですけど。その夜、母はうれしくて眠れなかったみたいです(笑)。みなさんもお母さんに「産んでくれてありがとう」って伝えてみると、自分のなかで何かが変わるかもしれないですよ。

子どもにとって「怒れる親」は倒すべき敵

――読者からはどんな声が寄せられますか?

のぶみ:男の子のご両親から、よく「育児が大変だ」という話を聞きますね。その理由は「怒っても言うことを聞かないから」なんだそうです。でも子どもからすると、怒られているときは単に「ガミガミ言われている」としか思わないんですよね。以前、息子が「仮面ライダーになりたい」と言っていたので、「仮面ライダーになったら誰を倒すの?」って聞いたら「怒ってるママ!」って言うんですよ(笑)。

――怒っている親はもはや「敵」なんですね。

のぶみ:すべての子どもが同じように感じているかはわかりませんが、親が一生懸命に怒っても、「怒っている意味」なんて伝わっていない場合がほとんどですよ(笑)。最新の児童心理学では、本当に危険な場合だけ「それはダメなことだよ」と諭して、あとはスルーしたほうがいいとされているそうで、妙に納得しました。たしかに、怒られてばかりだと「いいところ」だけ見せようとしてしまうかもしれないな、と。

――のぶみさんが親御さんたちに一番伝えたいことはなんでしょう?

のぶみ
:特別なことはしなくていいから、できるだけちゃんと子どもたちを見てあげてください。それが何より大事だと思うんです。

(木村衣里/プレスラボ)

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