坂爪真吾氏×木下大生氏 対談

風俗で働く女性に、福祉は何ができるか? 「辞めさせる」だけではない支援のカタチ

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風俗で働く女性に、福祉は何ができるか? 「辞めさせる」だけではない支援のカタチ

風俗で働く女性たちの中には、さまざまな困難を抱えている人もいる。特に低価格帯の激安店や熟女店では、貧困や借金による生活苦をはじめ、精神的な疾患や障がいを持つ女性も少なからず存在するため、憂慮するべきことは枚挙にいとまがない。こうした実情について、昨今は社会問題として認知も広がっているが、彼女たちを支援するためにどのような手立てが考えられるのか、具体的に語られることはこれまで少なかったように思われる。

そこで今回は、風俗に従事する女性への社会的な支援を推進している、一般社団法人ホワイトハンズ代表理事の坂爪真吾氏と、風俗の現場でのソーシャルワークの必要性を訴える木下大生氏の対談を実施。風俗で働く女性が本当に必要とする支援について、福祉にできることは何かなどを語ってもらった。

これまで風俗と福祉が繋がることはなかった

――坂爪さんは、デリバリーヘルスの事業者と連携して、店舗の待機部屋に弁護士や社会福祉士、臨床心理士を派遣して、女性たちに無料で生活・法律相談サービスを提供する事業=『風テラス』を運営されています。風俗で働く女性たちを支援する重要性について、どのように感じられていますか?

坂爪真吾氏(以下、坂爪):風俗の世界の中でも、激安店や熟女店という領域は、いわゆる表世界のセーフティーネットからこぼれ落ちた方、あるいは生活保護などの支援制度を利用していても、障がいや病気などの理由で、それだけでは生活が立ち行かない方などがたくさん集まっている世界です。それは何十年も前からずっと変わらないことですが、そうした現場に福祉従事者が入ることはありませんでした。なので、今回の「風テラス」の実施によって、硬直的な福祉の現状に対して一石を投じることができたのではないかと考えています。

木下大生氏(以下、木下):これはとても画期的な取り組みだと思います。構造的、役割的な問題でもあるのですが、ソーシャルワーカー(※)というのは病院や役所、福祉機関などで、その機関や施設が準拠している法律の枠組みに収まる人を対象に支援することが多いです。支援が必要な人を、さまざまな機関に紹介することも役割のうちですが、一組織の人間である場合はその後どうなったかまでは追いかけられないことが多い。結果的に、どの支援にもつながらなかったという人たちが少なからずいると認識しています。なので、支援が必要にもかかわらず支援が行き届いていない人たちを、積極的に探し出して支援していくことが重要。風俗も探しにいくべき現場のひとつだと考えています。ちなみに、このような動きを「アウトリーチ」と呼んでいます。

(※)ソーシャルワーカー(社会福祉士):生活に困難を抱えている人や、社会的に疎外されている人と関係を構築し、問題解決につながる援助を提供する専門職のこと。

風俗で働く女性の一部は「人とうまくつながれない」

坂爪:風テラスを実施するにあたって、ホワイトハンズでは激安風俗店「デッドボール」と連携しています。実施前は、ここに集まってくる女性たちは福祉から排除された人々なのだと思っていたのですが、実際は生活保護を受給していたり、障がい者手帳を持っていたりする人が多く驚きました。ただ、制度的なものと一応は繋がってはいるのですが、「人とうまくつながれない」という印象を受けました。ケースワーカーや訪問看護の方としょっちゅうトラブルを起こしてしまうとか、お金を受給しても飲み代やホスト、パチンコでパッーと使ってしまうというように、人間関係や金銭的なことでトラブルを抱えている人がとても多く見受けられました。

木下:そこをどうサポートしていくかは難しいところですよね。ただ、だからこそソーシャルワーカーという仕事が持つ役割が効いてくると思うんです。ソーシャルワーカーはその人に本当に必要な支援を見極める力や、相手の話をじっくり聴く力を技術として身につけています。そうした力を活かすためにも、ソーシャルワーカーの支援の対象となる人たちが、少なからず性風俗の現場にいることを知り、目を向けることが大事だと思うんですね。

ソーシャルワーカーによる支援の難しさ

木下:でも、いざ風俗で働く女性が支援の対象となると、なかには「何でこんなことやってるんだ」とか「早く辞めた方がいい」と自分の正義や価値観を振りかざしてしまうソーシャルワーカーもいて、それはちょっとまずいなと思います。ソーシャルワークという仕事が誕生したのは、1900年代前半なのですが「自分たちは専門家臭を漂わせすぎているんじゃないか」ということを何回も問い直し続けている専門職なんです。長く専門家という立場にあると「自分たちの方が、あなたたちよりもよくわかっているんだ。なぜなら専門家だから」と考えるようになってしまう。しかし、自分のことを一番わかっているのは、当然ながらご本人たち。ソーシャルワーカーが彼女たちの支援に携わる場合は、取り巻く環境を改善するために働き掛けることが重要だということを忘れてはいけないと考えています。

坂爪:内面的なことは結果としてついてくることであって、まずは当人の外側を構成する環境を整理して、足りない社会資源を補うということが大事ですよね。「風テラス」では臨床心理士の方にもご協力いただいていますが、個人の心の問題に還元しないで、あくまで社会的な問題として解決する方向を目指した方がいいと思います。

木下:臨床心理士の協力を得ているところも、すごいと思います。支援対象者のなかには、社会的な見地に立ったときの善悪を歪んで認知している方もいます。ソーシャルワーカーはそうした方の「認知の歪み」を正しくすることの教育までは受けてきていないので、その専門家である臨床心理士の方との協同が必要だと思います。

ただ、個人でラボを開設している心理士の方は、セラピーを通して得る費用で生計を立てている場合が多いので、なかなか貧困層がクライアントになりにくいのも事実です。また、ソーシャルワーカーもどこかの施設に所属せず、独立している人は全国で400名近くいますが、彼らも食べていかなくてはいけないので、風俗の現場に対する持続的な支援を可能にしていくためには、どうしても支援活動のための資金は必要になってくると思います。

男性従業員や男性客の支援も必要

――「風テラス」では、ソーシャルワーカーと臨床心理士、弁護士の三者が、相談者の方たちに対応されています。資金はどのように確保されているのでしょうか?

坂爪:「風テラス基金」を設けて、そこに店舗や一般から寄付を募る形で費用を捻出しています。行政と連携して公金に頼ることもできなくはないと思いますが、一般の支援者から集めた方が自由度も高く、効率的に動けると思っています。なので、寄付金をいかに広範囲から集められるかが重要だと考えています。現在は、イベントや研修・出版の収益や、風俗で働く女性や事業者からも寄付も受けて活動しています。

――「風テラス」を運営するなかで、どのような変化を感じますか?

坂爪:これまで5回実施していますが、単発ではなくて毎回に来てくれる方もいて、年齢層も10代から60代まで幅広い方が来てくださるようになりました。また、現在「風テラス」は2つの事業者のグループと連携して実施しているのですが、大きなチェーン店をはじめ他店からもオファーがきています。ただ、もう少し慎重に進めていきたいと思っているので、いま連携している2つのグループで事業内容をしっかり固めてから展開してきたいです。事業者の方も、困窮している女性を救いたいという思いと、店舗のイメージアップを図りたいという思い、両方を持っていらっしゃると思いますが、どちらにしても結果的に支援に繫がればいいと思っています

――自分から支援を求めることが難しい女性の場合、事業者の協力は欠かせないですよね。

坂爪:例えば、路上は可視化されやすいのでソーシャルワーカーが入り込む余地がありますが、女性は路上ではなく風俗の待機部屋に身を置くケースが多いので、入り込むには事業者から理解を得ることが必要です。特に最近は店舗型が縮小して、無店舗型化=デリヘル化してしまったので、悪質な事業者のもとで働いている女性を、どうにかして優良な事業者のいるホワイトゾーンに引っ張ってこれるような仕組みを作りたいと思います。

あとは、「風テラス」を運営してみて、男性従業員や男性客の支援も必要だと思うようになりました。なかには、戸籍をどこかに売ってしまったため、住民票も出せないという従業員もいました。また、風俗に足を運ぶ男性客は、女性を見下してモノ扱いする「買いに行く男」、娯楽や癒しを求める「遊びに行く男」、そして本気で恋人を探しに行く「逢いに行く男」の3パターンに分かれると思います。「買いに行く男」と「逢いに行く男」には、何かしら問題を抱えている人が多い印象ですね。

風俗は「差別や偏見があるからこそ稼げる商売」だが…

――風俗で働く女性に対する偏見や差別は、どのように克服すればいいと思われますか?

坂爪:これは難しい問題です。風俗は、差別や偏見があるからこそ稼げる商売であるという矛盾をはらんでいます。近年、風俗のデフレ化が進み、働いても以前ほど稼げなくなっていると言われているのは、店舗や女性の供給過剰で風俗で働く敷居が下がり、差別や偏見がある程度、緩和されたからだとも考えられます。なので、働く女性の生命や身体の危機に関わるような過剰な偏見や差別を緩和させるためのマクロな啓発活動と、社会福祉の観点からのミクロな個別支援を同時進行でやっていくことが大事なのではないかと思います。

木下:実際に、風俗で働く女性がソーシャルワークの対象であるとの理解が進んでいないようにも感じています。また支援の方向性が定まっていない。そのため、いざ生活相談の場面になった際に、何よりもまず「いかに風俗から抜け出させるか」という観念に立ってしまうことが多い。そうすると、本人の意向はなおざりにされ、またあれもこれもダメというように、予防拘禁の発想になってしまうんです。「社会通念上こうでなければならない」という個人的な考えを支援現場に持ち込みすぎる、あるいは自身の価値観に客観的になれていないと本人の意向を無視した威圧的な支援になってしまうと思いますね。

木下大生氏

木下大生氏

坂爪:支援を予防拘禁の発想につなげてしまうのは、現行の制度にもよく見られることです。例えば、社会福祉制度のひとつとして、売春防止法に基づく婦人保護施設というのがあります。売春や風俗で肉体的にも精神的にボロボロになった人を保護する目的で設けられていますが、今はどの施設も定員割れ状態で、性産業の世界で働く女性の保護施設としてはあまり機能していないんです。入所者の女性の中には「刑務所と同じような場所」だと語る人もいます。携帯は全部没収されて外部とのコンタクトができないし、働けないしお金も稼げない、彼氏にも会えないので、仮に入所してもまた出ていってしまう、と。そこが支援の難しさでもあると思います。

支援の障壁は「風俗に足を踏み入れた時点でアウト」という通念

――風俗に足を踏み入れた段階で、“普通の人”とは一線を画す存在として考えられ、それに基づいて支援が組み立てられていくということでしょうか。

坂爪:社会通念としてそういう部分があるのではないでしょうか。以前、ある大手メディアから「風テラス」の取材を受けたときのことなのですが、風テラスを取り上げるにあたって、そのメディア内部でも賛否両論があったそうなんです。とくに、女性のディレクターからの反論が大きくて、「風俗の道に入ってしまった時点でアウトなのだから、入る前になんとかしないといけないのでは」という意見が出たそうです。風俗の世界に入ったら即アウトという通念があり、それが本質的な支援の障壁になってくるんじゃないかという気がしています。

風俗で働く女性本人が、支援を拒むケースもある

木下:あと難しいのは、本人が支援を必要だと思っていないケースですよね。適切な支援関係を構築するうえで大事なのは、「否定性の共有」だと思います。つまりよくない状況を支援者も被支援者も同じようによくない状況であると同じように感じている、ということです。それがないと支援関係が成り立たない。社会という枠組みのなかで、「どう考えても今あなたの人権が侵害されていますよ」という周りからの客観的な視点を当事者にもたらすということですが、明らかに人権が侵害されているような状態であるにもかかわらず、自分ではそれが普通な状態だというふうに思っていたとしたら、こちらが支援したいと思っても、拒否されてしまいます。例えば、雇い主から暴力を受けていたとしても、「私が悪いのだから殴られて当たり前」と考えてしまう。ご本人が納得できるように、打つ手を多角的に伝えていくっていうことが必要かなと思います。

第三者の目が、問題を抱える女性を救う

坂爪:相談するためには、まず「自分が問題を抱えている」と自覚することが必要ですが、その自覚がない人もいるんですよね。激安風俗店で働いている女性のなかには、毎日ネットカフェを転々として暮らしている人もいます。客観的にみたら明らかに問題ですが、本人は全く異に解していない。これが普通だよね、って思っている。もちろん変な被害者意識を持ってほしくはないですが、問題を正しく認識してもらうための働き掛けは必要ではないでしょうか。

そういう意味では、ホワイトハンズが連携しているデリヘル店「デッドボール」では、女性のケアスタッフがいらっしゃって、その方がいろいろコーディネートをしてくれて、問題を抱えているのだけれども、そのことに自覚的でない女性たちを「風テラス」まで連れてきてくれるケースが結構ありました。そういう第三者の存在があるといいかなと思います。

木下:それは、重要な仕組みですよね。デッドボールのOBの女性が相談に乗ってくれたり、事業者であり店舗の代表が不動産を一緒に回ったり、お金を散財しちゃうから貯金を提案したりと、まさしくソーシャルワーカーの働きをされていますよね。

「どのみち辞められないのであれば、支援したほうが絶対にいい」

坂爪:とはいえ、やはり支援があってもなくても風俗を辞められない人もいます。結果としてどのみち辞められないのであれば、支援したほうが絶対にいいわけです。とくに、熟女店で働く40代50代の方などは、風俗を辞めて自立できるケースは皆無に等しいそうです。10代20代であれば、まだ可能性があるのですが、30代半ばを過ぎると、なかなか辞められなくなる。だったら、どうやってリスクを減らすかということを考えた方が現実的なんじゃないかなと思っています。

木下:坂爪さんがおっしゃるリスクというのは、病気なども含まれますよね。それは非常に大事な考え方だと思います。ハームリダクションという考え方なのですが、例えば違法薬物をやっている人に対して、薬物をただちにやめさせるのではなく、まずは薬物を使用するプロセスの中にある害をできる限り少なくする。注射器の使い回しなどで招くエイズなどの大きな健康被害を防止していこうというものです。それと同じ考え方だと思います。

坂爪:性風俗に関する議論はどうしても0か100になりがち。働く女性を「自由意思」として全肯定するか、「搾取の被害者」として全否定するか、になりがちですよね。しかし大多数の女性は、わかりやすい被害者でもなければ、自由意志で何の迷いも不安もなく働いているわけでもない。こうした0でも100でもない中間層を支援しようという考え方が、なかなか生まれなかった。まずは「風テラス」を通じてもっと中間にいる人たちの支援を厚くしていきたいです。

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