相手の感情を読み取ることのできないアスペルガー症候群のパートナーに傷つけられながらも、その苦悩を世間に理解してもらえず、心身ともにボロボロになってしまう「カサンドラ」。そんなカサンドラの人々をサポートしているアスペルガー・アラウンド代表のSORAさんにお話を聞くインタビュー後編。

前編では、これまで注目されることのなかったカサンドラの人々の苦しみについて教えていただきました。後編では、実際にアスペルガーの人と夫婦として共に送る生活のリアルについて聞きます。

【前編はこちら】アスペルガーの夫を持つ妻が悩みを共有する「カサンドラ」の会

アスペルガーの人は浮気をしても背徳感ゼロ?

SORAさん(以下、SORA):アスペルガーの人は、恋愛観も独特です。例えば、浮気。アスペルガーは男性に多いので、ここでは男性に限って話をしましょう。普通の男性は浮気をすると背徳感を覚えるものです。だから、たとえ「俺は悪くない!」と突っ張っていても、どこかに後ろめたい気持ちがあると思います。

ところが、アスペルガーの男性は、複数の女性と付き合っていても背徳感を持てない方がいます。関係性の全体を俯瞰(ふかん)できないため、「他の女性と付き合ったら、奥さんや恋人が悲しむ」と認識できないのです。

しかも、浮気相手全員を100%愛している

SORA:一例ですが、それぞれの女性を100%愛していると言い切る方がいました。二人の女性に会っていても、相手の女性も怪しむことなく私だけしかいないと信じて、満足してしまうんです。あるケースですと、浮気相手の女性が「私は彼からこんなに愛されているのよ!」と奥さんに電話をかけてきて、「うーん、悪いけど、あなたで3人目よ」と返した……なんて話もあります。

――笑えないお話ですね……。

SORA:浮気した当人は何が悪いかわかっていないので、浮気された方はどう決着させていいのかわからず悩んでしまうんです。それもカサンドラにつながっていくんですね。

もっと微妙なのは、「ただの女友達」の場合。「僕、今日は○○ちゃんと食事してくるから、夕飯はいらないよー」とあっけらかんと言い放つんです。自分の発言のせいで奥さんや相手の女性が不安になるということがわからないんです。

「昇進できないよ」のひと言が決め手に

――アスペルガーの人は、あくまで自分のために行動するのでしょうか?

SORA:その通りです。ですから、アスペルガーの方には、損得で説明をすることをおすすめします。例えば、職場でぽっちゃりした女性に「君は太ってる」と面と向かって言っているとします。上司が「そういうことは言っちゃいけないよ」とたしなめても、「でも事実でしょう」と憤慨するのがアスペルガーの方なんですね。ひどい時にはどれくらい太っているかデータまで持ち出そうとします。

その場合、「そういうことを言うと、昇進できないよ」と告げれば、昇進できないのは自分が困るので、黙るんです。でも、彼女を傷つけたということは一生わからない。

でも、カサンドラの苦痛は理屈じゃ解決しませんよね。アスペルガーのパートナーと「心を分かち合いたい」という気持ちは少なからずあると思います。損得で説明して意思疎通ができるようになっても、どんどん「カサカサ感」が増していく。その「カサカサ感」を解消していくことが次の課題ですね。

結婚生活を続けるための2つのルール

SORA:アスペルガーの方と付き合ったからといって、必ずカサンドラになるわけではありません。それぞれのカップルの関係性の問題なんです。前編で話したようにアスペルガーの方には魅力もあります。同じようにその魅力に惹かれて結婚しても、カサンドラになる人もいれば、アスペルガーの特性を理解してうまくやっている人もいます。本当にケースバイケースなんです。

私もアスペルガーの夫を持つ身なのですが、アスペルガーの方と結婚生活を続けていくためには、「覚悟すること」と「自立すること」の2つが不可欠です。夫婦が支え合いながら、思いやりながら生きていくという「普通の家庭生活」をイメージせずに、心理的にも経済的にも自立して、ちょっとヘンでも自分たちらしい生活スタイルを生み出していく覚悟を決めるしかありません。

「通い婚」は比較的うまくいく

相談者の中には、「通い婚はうまくいく」という人がたくさんいるので、別居生活をするのも一案です。なにしろ、他人と一緒に人生を築いていこうという意思のない人たちですから。

例えば、わが家は夫が主夫で、私が稼いでいるのですが、やはり「夫にも稼いでほしい」と思うことはあります。でも、その思いはいったん手放して「どうすれば彼と一緒にいられるだろうか?」と模索しながら特別なスタイルをよしとできる人はうまくいくと思いますよ。

――「普通の家庭」のイメージに縛られるから苦しむのかもしれませんね。

SORA:「ヘンな人と結婚したんだから、ヘンな結婚生活を目指すんだ!」くらいのつもりでいる(笑)。そこに気づければ、少し楽になります。「この人と結婚したら、どんなメリットとデメリットがあるんだろう?」と見きわめた上で対応を考えることですね。

無理に理解しようとしなくていい

SORA:私のセミナーでは「アスペ力を身に付けよう!」と言っています。

――「アスペ力」ですか?

SORA:はい。相手がアスペルガーであれば、こちらもアスペルガーのパートナーのことより、自分が最優先する、「アスペ力」を持っていないといけないんです。アスペルガーの方は「自分が一番」とばかりに自己中心的なことをポンポン言ってくるので、相手を思いやっていると侵食され続けてしまいます。そうではなく、「こっちだって一番なのよ!」と胸を張って対抗することも必要なんです。

理解できないことがあれば、無理して理解しようとしなくていい。カサンドラの方の中には、パートナーがアスペルガーだとわかるとさらにパートナーの特性を理解して、それに合わせる努力をする方がいます。そんな努力をする必要はないと思います。そういう人なんだと割り切って、自分も、同じぐらいアスペルガー的に自分を優先させる「アスペ力」で対応することをすすめています。

アスペルガー症候群は増加傾向にある

SORA:アスペルガーの方と付き合っていると、本当にいろんなことが起きます。頭ではわかっていても、「まさか、ここまで……」と実際には呆然としてしまう事態もありえます。たとえ、私のセミナーに参加して「癒されました!」と帰っていったとしても、出産のようなライフイベントを経るたびにカサンドラの波は訪れます。終わりはないんです。一緒に生きていく限り、本当に何度でも訪れるんですよ。

はっきりとした原因はわかっていませんが、アスペルガー症候群と診断される人は年々増えています。ある調査では「100人に1人」という数字まで出ていて、もはや少数派とは言えない状況です。まわりに「この人、ひょっとしてアスペルガーかな?」と思う人がいたら、このインタビューでお話ししたことを参考に対応してみてください。

小泉ちはる

この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています