「世界の死刑統計 2015~死刑とテロ 終わらない報復の連鎖~」レポート(後編)

日本の仇討ち文化と死刑制度の関係性 

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日本の仇討ち文化と死刑制度の関係性 

4月6日、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本の主催で開かれた「死刑とテロ 終わらない報復の連鎖」講演会レポート後編。前編では、欧州連合代表部公使参事官のファビアン・フィエスキ氏が、EUの死刑をめぐる取り組みを紹介し、「死刑は深刻な犯罪の抑止力とはならない」と断じました。

【前編はこちら】「死刑は人権侵害以外の何ものでもない」 世界140カ国で廃止、取り残される日本の課題

講演会の後半では、アムネスティ・インターナショナル日本事務局長の若林秀樹(わかばやし・ひでき)氏が、死刑に関する2015年の統計報告と、モンゴルのにおける死刑廃止の歩みを説明。さらに若林氏にインタビューを行い、今後、日本でどのような議論が必要かについて伺いました。

2015年の死刑執行数は前年の1.5倍

2015年の統計報告について若林氏は「世界全体としては、死刑廃止の潮流は続いていると言える」と結論づけた上で次のように語りました。

「現在、死刑を全面的に廃止している国が102カ国、通常の犯罪に対してのみ廃止している国が6カ国、事実上の廃止国(10年以上、国家としての意志をもって執行していない国)は32カ国となっています。すべてを合わせた140カ国を、アムネスティは『死刑廃止国』と発表しています。

しかし、2014年の死刑執行数が中国などを除き1061人だったのに対し、2015年は1634人と急増しています。死刑執行数の推移に関しては足踏み状態のように考えられるのですが、一方で、死刑執行国の数は2014年に22カ国だったのが、2015年には25カ国と、さほど増えておらず、ここ10年ほど大きな変化はありません。つまり、統計をとっている約200カ国のうち、1割程度しか死刑を執行していないのです」(若林氏、以下同)

アメリカでも死刑判決は激減

死刑執行数の内訳を見てみても、イランで977人、パキスタンで326人、サウジアラビアで158人、この3カ国だけで全体の死刑執行数の89%を占めると若林氏。つまり、あくまで一部の国で死刑が増加していると説明します。また、中国に関しては、統計はとれていないものの、年間数千人が死刑に処されているのではないかと推測されています。

「アメリカでも死刑判決は激減しています。2015年の死刑執行数は28件。この数字は、1991年以来最低です。執行している州も、50州のうちわずか6州。これまた1割です。18州では死刑を法律で廃止しています。アメリカでさえ死刑廃止に舵を切っているのに、日本では第一次安倍内閣以来、合計26名を死刑に処し、今年3月25日に2人の死刑を執行するなど、世界の流れと逆行しているように感じられます」

「2万人を処刑した国」から死刑廃止国になったモンゴル

モンゴルは政治的なリーダーシップに基づいて死刑廃止を決めた国です。そのモンゴルから日本が学ぶことは多いのではないかと若林氏は語ります。

「モンゴルはかつて中国の支配下にありました。親ソ時代の社会主義政権下に、大勢の僧侶がスパイ行為などさまざまな反逆罪に問われ、1932年から1940年にかけて2万人以上が処刑されています。モンゴル国民も、死刑制度が国家権力により異分子排除に利用されていることを理解していたのではないでしょうか。

しかし、1990年に社会主義を放棄して1992年に「モンゴル国」となると、政治体制が大きく変わります。民主化が目指され、新しく制定された憲法の第6条で国民の生存権が認められるようになったのです。そして、凶悪な犯罪以外は死刑を廃止する運びとなりました。大統領に謝罪文を提出した確定死刑囚は懲役30年に減刑となり、2009年にエルベグドルジ氏が大統領に就任してからは、正式にモラトリアム(注:死刑執行を停止すること)が決定されました」

モンゴル大統領の演説

モンゴルでは、あらゆる犯罪に対して死刑を廃止するべく2015年に刑法が改正され、2016年9月から施行される予定だといいます。

「エルベグドルジ大統領の講演の中では、死刑を廃止すべき理由が次のように挙げられています。『死刑を廃止することはその罪をも赦(ゆる)すことではない』『無実の国民を処刑する国は、国民の信頼を求めることはできない』『国連の加盟国として、死刑制度を廃止すべきだ』……。このように大統領が宣言することで、死刑廃止の流れが作られてきたのだと思います」

日本の「仇討ち文化」と死刑制度

――日本の死刑制度の現状について、詳しく教えてください。

若林秀樹さん(以下、若林):先進国クラブと呼ばれるOECD加盟国34カ国のうち、死刑制度を維持しているのは日本とアメリカだけなんです。先に述べた通り、140カ国が死刑を廃止しており、また国連から幾度も働きかけがある中で死刑制度を維持することは、国際社会に背を向けることに他ならないのではないかと感じています。

世界の流れに合わせて、死刑制度を廃止するよう努力するべきなのですが、その努力すらしていないのが現状だと思います。

――日本にはもともと「仇討ち」という「応報文化」があり、凶悪な犯罪が報道されるたびに「死刑にせよ」という声が高まりますが、こうした風潮が足かせになっているのでしょうか?

若林:個人的な感情の問題と、「国が人を殺す」ことの是非は、本来無関係です。国家による「新たな殺人」は許してはなりません。そのあたりの区別がついてない人が多いように思います。

死刑による贖罪を望まない遺族も

また、若林氏は「被害者の遺族全員が、加害者に対して死刑による贖罪を望むかというと、決してそんなことはない」と続けました。死刑で失われた命が返ってくるわけではないのだから、むしろ加害者には反省して正しい道を歩んでほしいと考える遺族も少なくないのです。

穏やかな日常の中で普通に暮らしていると、自分とは無関係に感じられる「死刑」。しかし、自分や周囲の人が当事者になってしまう可能性はゼロではありません。死刑は何のために、誰のためにあるのか―—廃止すべきか否かを、世界の動きを理解した上で考えていく必要があるでしょう。

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