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父親として自閉症の娘・リカちゃんを育てる『リカと3つのルール 自閉症の少女がことばを話すまで』(新潮社)の著者、東条健一さんに、育児、そして自閉症児と向き合うことについて聞いた。

>>>【前編はコチラ】「育児をしない男は損」自閉症の娘と向き合った父親が語る、部下10人のマネジメントに相当する子育て

時間当たりの労働生産性が低い日本

――前編の最後に、「育児をして仕事に戻ってきてからのほうが、圧倒的にパフォーマンスがよくなる」というお話を伺いました。私は働くお母さんたちに取材をすることが多いのですが、ほぼ全員の方が「復帰してからの方が効率的に時間を使えるようになった」と仰います。時短勤務の社員は「お荷物」のように扱われがちですが、そうではない一面もあるだろうと感じています。

東条健一さん(以下、東条):本当にそう思うんですよ。ひとつ言えるのは、男性は残業してもいいと思っているんですよね。残業してもいいっていうのは、締切を伸ばしてもいいということです。でも育児中の女性の場合は、たとえば保育園のお迎えがあるから17時に仕事を絶対に終えなければならない。絶対の締切があってそこに向かってやっていくんだから、それは効率が良くなりますよね。自分も昔は残業が大好きで、勤務日誌に「28時」とか書くのが楽しかった。でも、育児を経験して仕事に戻ってきてからは、それまで残業をしてやっていたすべての仕事が午前中に終わるようになりました。

――そんなにですか(笑)。

東条:多くの人はそういう経験をされていると思いますよ。よく日本の企業は労働生産性が悪いって言われますよね。長時間働く割に仕事の効率が悪いって。統計によればイタリアよりも低い(※)。

(※)OECD(経済協力開発機構)が行っている労働生産性の国際比較調査2013年版によれば、時間当たりの労働生産性の国際比較において、日本は34か国中20位で、購買力平価換算すると40.1USドル。1位のノルウェーは86.6USSドル、4位のアメリカは64.1USドル。イタリアは18位で、46.7USドル。

「家事・育児は幸せに直結する。それを夫が知らなければ、妻は失望する」

――父として育児を行ってみて、「育児について、こんな部分は母親より有利」と思うところはありますか?

東条:そういうことで言うと、100%お母さんが有利だと思います(笑)。やはり自分で出産できないので、その生々しさを実感できないというか……よっぽど努力しないとお母さんと同じスタートラインには立てないと思います。たとえば、子どもが泣いていたらふつうのお母さんだとすぐに抱き上げたりすると思うんですけど、ほとんどのお父さんは「え? どうしたの? どうしたの?」って周りをぐるぐる回っている。実行に移せず、様子を見ちゃうんです。それで「泣いてるよー」ってお母さんを呼ぶ。お母さんからしたら、泣いてるのがわかっているならなんとかしてよって(笑)。

――よくそれで苛立つお母さんの話を聞きますが、お父さんも悪気があるわけではなくて、わからないんですね。

東条:わからないんです。でもお母さんと比べてそれだけ不利な状態からであったとしても、子育てに参加した方がお父さんにもメリットがあると思います。育児・家事をしない人がなぜ損をするかというと、育児・家事は幸せに直結するからです。家族のためにそれをすることがどんなに幸せなのかわかることが幸せなんだと思います。お母さんの多くはそれがわかるはず。なぜ妻が夫にがっかりするかといえば、「家庭でこんなに楽しいパーティーを毎日やっているのに、なんでこの人はその楽しさがわからないのだろう?」ということではないかと思います。

マジョリティとマイノリティの間にある「壁」を超えるには

バスにはやがて、十五歳くらいの知的障害児がひとりで乗ってきた。その少年はバスに乗り込むと、大声で歌い始めた。バスの車内には十人以上の乗客がいた。ほとんどの乗客は、見て見ないふりをしている。なかには、あからさまに迷惑そうな表情をその子に向ける人もいる。その子が近くにくると、わざわざ遠くの席に移動する人もいる。かつては、ぼくもそのなかのひとりだった。(同書から引用)

――ハンディキャップを持っている人との間には、まだ壁があるというか、日常的にハンディキャップを持っている人と接する機会は少ないように思います。それについてはどう思われますか?

東条:壁ができるのはある程度しょうがないと思います。娘が今通っているのは特別支援学校というところですが、特別支援のことを英語では「Special Support」と言います。アメリカでは「Special Support」のクラスには2つあって、1つは障害児のクラス、もう1つは天才児のクラスです。天才児も普通の学級ではやっていけないから隔離しているんですよね。サポートが必要だから、そこで守っているということ。壁を作っているというのは、守るためでもあるんですね。

一般社会では健常者の方がマジョリティっていうのはしょうがないんです。ただ、壁を超える責任があるのはハンディキャップを負っている人ではなくてハンディキャップがない人です。障害を持っている人が健常者になる努力はしなくていいと思うんです。健常者の方が、もしハンディキャップを持つ人との間に壁を感じ、壁を超える必要があると感じるのであれば、自分の住んでいる市区町村にある特別支援学級へボランティアをしに行けばいいと思います。何をしたいかわからなければ、そういった活動をしているNPO団体で教えてくれます。

――なるほど。

東条:そういったボランティアをしている人って多いですが、なぜ多いかといえば、やってみると面白いからだと思います。ボランティアを通して、自分より大事なものに出会えたり、幸せになれるヒントをいっぱいもらえたりする。ボランティアは義務ではありませんが、育児・家事の次ぐらいに幸せになるヒントがあると思いますよ。

●東条健一(とうじょう・けんいち)
大学卒業後、マスメディアで金融情報などの営業を経て、大手報道機関の社会部記者として活躍。その後、記者経験などを活かし、PR、ブランディング、マーケティングの専門家として、著名人や企業のコンサルティングを行う。多くのベストセラー作家にアドバイスも行う。新刊の訳書『【決定版カーネギー】道は開ける:あらゆる悩みから自由になる方法』(新潮社)では、自ら鬱体験を克服した経験をもとに、「なぜ心身が壊れるまで悩んでしまうのか」という問いに向き合っている。

小川 たまか/プレスラボ