柴田英里さん×中村うさぎさん×牧村朝子さんトークレポート(後編)

「子どもを産んだ女だけが社会の役に立っている」という幻想―出産は“自分のため”にすること

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「子どもを産んだ女だけが社会の役に立っている」という幻想―出産は“自分のため”にすること

柴田英里氏×中村うさぎ氏×牧村朝子氏の3名が、女が主体的にいきるとは何か、社会に存在する抑圧とは何かを語り合うトークレポートの後編。少子化が叫ばれる今、「子どもを産んだ女だけが社会の役に立っている」という幻想や産む/産まないで生じる葛藤、また同性カップルが子どもを持つことの是非についてまで話は及んだ。

【前編はこちら】「子どもが欲しくない女性はこの世にいるはずがない!」 多様性を認めない社会の抑圧を考える

「子どもを産んだ女だけが社会の役に立っている」という幻想

日本は現状の少子高齢化を脱するために、とにかく女性には子どもを産んでほしいという流れがあるが、三者は揃って「別に少子化で良い」と考えているという。

牧村氏は「少子化の問題は、海外に対して国の経済的競争力がなくなってしまうことです。自然の摂理で今の人口ピラミッドになったわけだから、その中でどう経済を回していくか考えるべきで、子どもを増やせば解決するという考えは単純過ぎる。同性愛について『自然の摂理が~』と反対する人がいるけど、なぜ少子化だけは自然に逆らうのだろうと思ってしまう」と、少子化も同性愛も都合の良い理論で語られていることについて疑問を呈した。

少子化脱却は、労働力や納税者の減少という観点から、国の最重要項目として捉えられているように見える。だからこそ、子どもがいる人は無条件で社会の役に立っているという考えを持ちやすいのかもしれない。しかし中村氏はこの状況に危機感を持っており、「社会への役立ち度や人類貢献度が、その人の価値を値踏みするのは激しい差別問題を内包している。体が不自由で思ったように働けない人、病気で子どもを産めない人はどうなるのだろうか」と語り、会場からは納得の声が漏れた。

また、「納税者を一人でも多く産むから『子どもを産む女性は正義だ』と言うのであれば、1人で働いて子どもを産んで育てているシングルマザーへのケアの手薄さをもっと疑問に思うべき。彼らが思う“健全な家族幻想”からはみ出した人が批判されている。子どもを産まない女、同性愛、離婚、婚外子を産んだ女などは健全ではないのでしょう。理想の家族を強要し、それ以外を不健全としている」と、「子どもを産んだ母親は偉い」という考えの中に、シングルマザーが含まれていないことを批判した。

セクシャルマイノリティは子どもを持ってはいけないのか

牧村氏は昨年、妻のモリガ氏とともに、唾液から採取したゲノムデータに基づいて、二人の間で生まれるかもしれない娘の姿をCGでシミュレートするという作品に出演した。牧村氏の卵子にモリガ氏から作られた精子が受精した想定、モリガ氏の卵子に牧村氏から作られた精子を受精した想定の2人の娘だ。女性の肌から精子を、男性の肌から卵子を作れるのではないかという論文が発表されるなど、同性間同士の子どもは、倫理的な議論を抜きにすれば、技術的には近い将来可能になることが見込まれている。

関連記事:同性カップルの遺伝子で子どもを作ったら――ドキュメンタリーが問う、人間が“命を作る”ことの是非

この件について牧村氏は「撮影後はものすごく子どもが欲しくなった」と嬉々として語りつつ、「彼女の子どもを私が産みたい、彼の子どもを俺が産みたいと思っていい。法律が追いつくのはもっと先になるとは思うが、生殖技術はあと数年後には実現可能のところまで来ている」と、自身が経験したテクノロジーが同性愛カップルの希望になることを訴えた。

ここで問題になるのは、倫理観だ。中村氏は「生殖と出産を神聖だと思う人たちは、ものすごくたくさんいる。キリスト教の国ではなくても、生命を作る上には愛という概念が付随し、男女が性欲ではなく愛ゆえに合体した結晶で子どもが生まれる……という幻想はつきまとう。批判はしないが、同性愛者が子どもを生殖できたら愛の概念も変わる」と述べ、柴田氏も「肌から子どもを作れるのだから、性器接触が嫌だけど子どもが欲しい人は救われるだろうし、愛もセックスも概念も変わる」と、人々の価値観に多大な影響を及ぼすことを言及した。

その話を受け牧村氏は「この技術が認められたとき、“産める身体”からすべての人間が逃げられなくなる。今、女性に向けられている『子どもを産まない女は~』という議論や強制力が男にも働くはず」と、産まない自由を認めにくい抑圧が全人類に生まれる可能性を語った。中村氏は「誰でも産めるようになるなら、男女とも産みたい人が産み、産みたくない人は産まないという、より自由な世界になれば理想」とまとめた。

子どもを産むも産まないも「自分のため」と主張していい

ここまでのトークを踏まえ、柴田氏が「そもそも産まない女は、産んだ女に見合うような特別なことをしなくてはいけないのか。免除されるために何かをすべきなのか。やはり、山口智子さんの批判は社会貢献という点に帰結しているのでは」とトークイベントのテーマに再度触れると、中村氏は人が生きる意味について語り始めた。

「全ての人間が社会の役に立つべきという考え方は、そもそも人の人生において結果にのみ重きを置いている。社会に貢献したのか、何者かになったのか、死ぬまでに何かをやったのか。人が生きることは結果を出すためという考えは絶対に間違い。だいたい人生とは、自分自身にとって価値のある人生だったのかという判断基準しかないはず。他人にとっての価値のみを見出すなら、ノーベル賞を取った人しか生きていけない。それが結果として誰かのためになることはあるけど、誰かを傷つけたり貶めたりしなければ、人は一生懸命自分のために生きていい。私も文章は自分のために書いている。子どもを産むのも産まないのも、その人が自分のためにすること。誰かの役に立つのではなく、自分の役に立たないと」(中村氏)

この話を聞いた観客からは、すすり泣く声も聞かれた。柴田氏は「中村さんのようにナルシズムと自己愛を肯定することは、今の女性にとってとても大事。物事は社会性や貢献性に傾きがちだが、私たちは1人の人生の追求を明確にして良い」と賛同。牧村氏も「自分の母親が『あなたを産んだのは社会貢献のためよ』と言ってきたら気持ちが悪い。結局、社会の役に立ちたいと言っている人は、自己実現のために人を使っている。子どもを産むのも産まないのも自分のためだと言っていい」と、自分の人生の選択を自分が肯定する必要性を主張した。

人間は自分のために生きている。当たり前のことなのに、子どもを産まない人生を選択した女性に対する視線は依然として冷ややかだ。すべての人間が、自分らしく生きる権利を持つ。その認識を広めなければ、日本のジェンダーギャップ指数も底辺を脱することはなく、この国で子どもを産みたいどころか生きていきたいと感じる人も減っていくばかりではないだろうか。

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