テレビに映し出される「お笑い」の世界。その中で起こることが、たびたび議論を巻き起こしています。たとえば昨年、アジアンの隅田美保さんがバラエティ休業宣言をしました。婚活を理由にバラエティ番組への出演を休止するという宣言で、理由は「ブスいじり」に納得いかなかったからとも伝えられています。この宣言を支持する意見がある一方で、「芸人ならばいじられてなんぼ」「むしろおいしいと思うべき」といった批判も。

これ以外にも、芸人に課せられる「ビジネスキス」や、オアシズの大久保佳代子さんに対する「ババア扱い」、いとうあさこさんが暴漢に襲われ拉致される様子を撮影する「ドッキリ」の演出などに疑問を感じる声があがり、議論となることもあります。お笑いやバラエティの世界のタブーとモラルの線引きとは……? お笑い評論家のラリー遠田さんに聞きました。

タブーを公言したら「笑えなくなる」

――アジアン隅田さんの宣言は驚きました。ラリーさんも注目してらしたそうですね。

ラリー遠田さん(以下、ラリー):『FRIDAY』のインタビューで隅田さんが「漫才はやるけど、それ以外はしないで婚活に集中したい」みたいなことを言ったという記事を見てから気になっていました。事務所は「それはそれでおもろいやないか、漫才はちゃんとやれよ」と言ったらしいんですね。で、それ以外の仕事はセーブすると。

――どう思いましたか?

ラリー:個人的にはポジティブなことと捉えています。昔は「女芸人は女を捨てなきゃダメ」という風潮がありました。だけど女性の社会進出に伴って、世間が持っている女芸人のイメージも年々変わってきている。その影響でお笑い界もちょっとずつ意識が変わってきて、女を捨てていない女芸人も増えているんです。今回のことは、その流れの最先端のできごとだと思っています。女芸人が「ブス」って呼ばれたくないという権利はずっと持っていたはずなんですけど、今までそれを行使する人がいなかったんですよね。

――隅田さん自身の立ち位置はどう変わっていくでしょうか?

ラリー:芸人としては窮地に立たされていると思います。隅田さんが「ブスいじりは嫌」って言ったら、もう隅田さんで笑えなくなってしまうんですよ。それがブスいじりじゃなくても、たとえば隅田さんに寝ぐせが立っていたとしてもそれを指摘して笑ったりしづらくなる可能性があるんですよね。

――女芸人として試練の一歩でもある……。

ラリー:本当は男にだってタブーはあります。男の芸人でも、嫌な仕事ならば陰でNGを出すこともあるんです。虫を食べる仕事だけは絶対にやりたくないです、とか。それが表沙汰になったら「あいつは芸人として度胸がない」って言われるかもしれないから公にはしていないだけで。だから本当は男も女もなくて、お笑いの世界で芸人としてどうあるかという問題。自分のタブーを表に出すか出さないかという。

女を捨てない芸人の歴史

――「女を捨てない芸人」は、どんな方がいますか?

ラリー:歴史的に言うと、その先駆けになったのはオセロじゃないですか。見た目の悪くない二人がコンビを組んでおもしろおかしいことをやっているっていう。彼女たちがタレントとして活躍し始めた結果、「こういうのもありじゃん」となって、ブスとかデブだけじゃない女芸人にも可能性も開かれたんですよね。松嶋さんは、最初は男の芸人仲間としゃべるのは嫌いだったらしいですよ。

――そうなんですか。

ラリー:男の芸人としゃべってると「お前は本当に芸人としてあかんな」とか「今の話のオチは何やねん」とか、いろいろお笑いのことで説教されるから、それが嫌だったらしいんです。でも鶴瓶さんの番組に出たとき、自由にしゃべったらそれを鶴瓶さんが面白がってくれて、「あ、こういうのでいいんだ」って。鶴瓶さんの方も「面白い奴や」って『きらきらアフロ』とかで起用してくれて、そこから自由にしゃべるスタイルであの人の面白さが開花していったんです。だからそれまではお笑い界が抑圧してきた部分もあるんですよね。松嶋さんに限らず、能力がある人は引き出せば良いと思います。オセロが枠を広げた後に、友近さんとか青木さやかさんとかが出てきた。オアシズの二人も、それぞれの仕事の幅が広がっていったのはオセロの登場以降だと思います。

――オアシズはどう思いますか?

ラリー:光浦さんがインタビューで言ってたんです。「よく女芸人は女を捨てなきゃだめだとかって言われるけど、実際女芸人が女を捨てたら誰も笑ってくれない。だから私は女を捨てたことは一度もないし、みんなもない」って。男は腹の底から何やってでもいいから笑わせようとする。でも女芸人ってちょっとあり方が違うんですよ。

オアシズの2人は最初のころは「ただのブス」って思われていたんですけど、今はご意見番みたいにもなったりしていて、同世代にもすごく支持されています。時代の変化とともに生きてきた芸人さんって感じがしますね。

テレビとお笑い業界は保守的で男社会?

――オアシズの大久保さんは「FNS27時間テレビ2015」でランナーを務めた際に「ババアが頑張ってる」って強調されていたのが印象的でした。大久保さんは今、44歳。同じ年齢の男性は「ジジイ」とは言われない気がします。

ラリー:それははっきり言うと、テレビの感覚が世間よりも遅れてるんだと思います。僕も「ババア」は古いと思いますよ。ただテレビ業界やお笑いの人ってまだそういうやり方しか知らないんです。大久保さんみたいな人をどう笑っていいかわからないから「ババア」っていう雑ないじりをしているんです。今の社会の感覚とはズレがありますよね。

――どう笑っていいかわからない、というのは?

ラリー:『めちゃイケ』とか、最初は光浦さんしか出てなかったんですよ。総合演出の片岡飛鳥さんが、「光浦は笑えるブスだけど大久保は笑えないブス」って言っていた。光浦さんはメガネとかもあってマスコットキャラクター的だったんですよね。でも大久保さんはリアルにクラスや会社にいそうな冴えない子みたいに思われていたんでしょうね。

――光浦さんはアイコン的なキャッチーさがあるけど、大久保さんはそうでなかったからいじりづらかったと。

ラリー:そうですね、僕が知る限りテレビ社会、お笑い社会は一番男社会なんじゃないかな。男の論理がまかりとおっているので、そこで女性がバリバリやっていくにはやっぱり男性化しなければいけないんですよ。男と、男の真似して必死になっている女しかいない。結局全員男なんですよね。

【後編はこちら】マツコ、有吉…引かれないギリギリのラインを攻める芸 笑いの本質はタブー破りなのか?

ラリー遠田(らりー・とおだ)
テレビ番組制作会社勤務を経て作家・ライター/お笑い評論家に。お笑いに関する取材、執筆、イベント主催、テレビ・ラジオ出演など、多岐にわたる活動を行っている。主な著書に『逆襲する山里亮太』(双葉社)がある。『ヤングアニマル』(白泉社)に連載中の漫画『イロモンガール』の原作を手がける。

小川 たまか/プレスラボ