コマチ家具田野口淳子さんインタビュー

和室が貴族のティールームに大変身 インテリア業界の駆け込み寺、コマチ家具に聞く

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
和室が貴族のティールームに大変身 インテリア業界の駆け込み寺、コマチ家具に聞く

ステンドグラス。真紅の壁紙。重厚なアンティーク家具。まるで英国貴族の屋敷へ迷い込んだようで、目が眩む。

田野口淳子さんが専務取締役・インテリアデザイナーを務める英国アンティーク家具専門店「コマチ家具」は、依頼人のスタイルに合わせて家具だけでなく部屋全体をトータルプロデュースする、異色のインテリアショップだ。田野口さんの手にかかれば、狭くて野暮ったい部屋も、居心地のよい空間に変わる。田野口さんの「仕事の流儀」とはいったい何なのか、お話を伺った。

ビフォー。奥が和室の普通の部屋

ビフォー。奥が和室の普通の部屋

アフター

アフター。和室を改装し、豪奢なリビングに

素敵な空間は住む人を幸せにしてくれる

田野口淳子さん

田野口淳子さん

――リフォームを依頼するのは、どんな方ですか。

田野口淳子さん(以下、田野口):単身のお客様が多いですね。若い方ですと、20代後半からいらっしゃいます。今は昔と違って結婚するもしないも自由、子どもを産むも産まないも自由ですから、自分の終の棲家を選びに来られます。30代のお客様の中には、「結婚しない」と宣言される方もおられますね。

リフォームには少なからずお金がかかるのですが、「貯金では足りないから、ローンを組んでお願いしたい」と、それほどの強い気持ちを持ってお越し下さる方も多いです。リフォームを依頼するのは裕福な層だというイメージがあるかと思いますが、決してそうではありません。

この世界では、「お金をつぎ込んだのに満足できない」というのは、実はよくある話。当店は、そういう方の駆け込み寺のようになっています。

――部屋全体をプロデュースするというのは、かなり大変だと思います。細かい部分まで、作り込んでますよね。

田野口:すごく手間暇がかかりますね。お客様一人一人のスタイルに合わせていきますし、図面にしたって何十枚も引きます。洋服でたとえれば、オートクチュールのようなものです。正直に申し上げれば、ビジネス的には楽ではありません。

では、なぜそこまでするかというと、素敵な空間は住む人を幸せにしてくれるからです。自分好みの自慢できる部屋になると居心地がいいし、癒されます。「帰りたい家」になりますよね。私はこの仕事をしていて、逆のケースを耳にしたことがあります。「家に帰りたくないから、ずっと外に出ている」という方です。嫌いな空間だから掃除もしないし、モチベーションだって下がるんだと思います。

――確かに居心地のよい部屋だと、ポジティブな気分になれますね。

田野口:ファッションと違ってインテリアは外に見せるものではないので、「自分がいかに満足できるか」を物差しにしないといけません。素敵な家に住んでいれば人を招きたくなるし、自分に自信が持てます。いわゆる豪邸でなくとも、胸を張って生きていけます。

そうした「いるだけで幸せな空間」というのは、意識して目指さないと実現できません。しかし、ほとんどの人は、「広くて新しい家こそが素晴らしいんだ」と思っているんです。では、古くて狭いところでは幸せになれないんでしょうか? 一生気に入らない住まいのまま、諦めないといけないんでしょうか? それは違います。「古くても狭くても、自分の身の丈に合った形で変えていけばいい」ということに気づいてもらいたいんです。

多くの人は知らないんですよ、本当の家の心地よさというものを。素敵な家になった時に、それがどれほど素晴らしいかということを、経験していないから分からない。だからこそ、手に入れようなんて夢にも思わないんです。

「いるだけで幸せな家にしたい」という思い。それが、私の仕事の原点にあります。

病気をきっかけに、安家具屋をチェンジ

――どういうきっかけで今のお仕事をされているんでしょうか。

田野口:よく驚かれるんですが、最初はアンティーク家具を生業にしようなんてこれっぽっちも考えていませんでした。
そもそものきっかけは、27歳の結婚して半年後に、病気で入院したことなんです。

それはもう怖かったですよ。体調を崩したことで真剣にこれからの人生のことを考えることになりました。同時に、「幸せになりたい」って思ったんです。

27歳まで、病気らしい病気をしたことがなかったから、命に限りがあるなんて、思ったことがなかったんです。病院で過ごしたことによって、今とは真逆のところこそが、自分の居場所だと思いました。家は要ですから、まずは自宅を最高の場所にしたかったんです。

病気になってから7年が経った頃に店を手伝い始めたんですが、「好きなものに囲まれて、自分の美学の中で生きる」というのが目標になっていました。

――その後は目標をかなえるために、どういうことをされたのですか?

田野口:最高の住まいを求めて、ずっと図面を引き続けていましたね。ほとんど妄想の世界でした(笑)。ところが当時の「コマチ家具」はごく普通の安物家具屋だったので、いいと思える家具がなかったんです。そんな時、手にした『私のアンティーク』という雑誌に見たことのない家具が掲載されていました。

その折、近所の駐車場にビルを建てて1~3階を店舗、4階を住まいと倉庫しようと計画していたので、4階の住まいにアンティーク家具を設えたいと主人に相談したところ「売れないモノを使ったらまずいよ」と言われたんです。生まれた時から家具屋の主人にとって、アンティーク家具は「いい商品」ではなかった。当時の「いい商品」の定義とは、「よく売れる」「他社と競合しない」「よく回転する」というものだったんです。

お客様を招いた時に、販売している商品と異なる家具が置かれていたら顰蹙を買うだろうというのが主人の言い分でした。ですから、私は「分かった、誰も呼ばない」ときっぱり言ったんです。私を幸せにするための住まいなのに、そのために必要なものが商売の障害になるんだったら、誰も呼ばなければいい。

判断基準は他人じゃなくて自分なんです。あくまで、自分がどうしたいか。それが私の考えるインテリア選びの基準であり、「自分の居場所を最高にしたい」という思いが根っこにあるように思います。

【後編はこちら】日本人はインテリアを諦めている ちゃぶ台と座布団の呪縛を解く、家具の思考術

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

和室が貴族のティールームに大変身 インテリア業界の駆け込み寺、コマチ家具に聞く

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています