マドンナ来日公演から考える女の生き方

「年齢で誰かを批判するのは人種差別と同じ」57歳になったマドンナが私たちに語りかけること

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「年齢で誰かを批判するのは人種差別と同じ」57歳になったマドンナが私たちに語りかけること
1982年にデビューし、今まで第一線を走り続けてきたマドンナの生涯を、2月14日に行われた来日コンサートとともに振り返る。戦い続けてきた彼女は、私たちに何を訴えかけているのだろうか。音楽ライターの黒田隆憲さんがレポートする。(編集部)

エロスとタナトス、そして愛

圧倒的な情報量に、未だ全貌を掴みきれず思い出すたび呆然としてしまう。マドンナが10年ぶりに来日を果たし、さいたまスーパーアリーナにて2日間の公演「レベル・ハート・ツアー」をおこなった。様々なアートやカルチャーを取り込み、最新のテクノロジーと気鋭のダンサーによってデコレートした、最高級のエンターテイメント。その奥に流れる抑圧と解放、エロスとタナトス、そしてあふれんばかりの「愛」のメッセージが、今なお筆者の胸を揺さぶり続けている。

初日はなんと2時間押し。女性アーティストとして世界で最も成功したスーパースター、マドンナの面目躍如といった感じだが、筆者が行った2日目は幸いなことに(?)、定刻どおりの幕開けとなった。マイク・タイソンをフィーチャーした映像がバックスクリーンに流れる中、甲冑に身を包み花道を行進するダンサーたち。その厳かでスリリングな雰囲気に圧倒される中、頭上から檻に閉じ込めたれたマドンナが降臨する。

ステージは4つのセットによって構成されており、自らをジャンヌ・ダルクにアイデンティファイした冒頭のセットでは、半裸の修道女によるポールダンスや、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画『最後の晩餐』を模したセットでのエロティックなパフォーマンスなど、過激で挑発的な内容を展開する。

敬虔なクリスチャンの中流家庭で育ったマドンナ

敬虔なクリスチャンの中流家庭で育ったことへの反動や、最愛の母親を幼い頃に亡くし、父親を再婚相手に“奪われたこと”への反抗心と自己顕示欲が、マドンナのクリエイティビティの最初のモチベーションだったことを考えると、今回の「レベル・ハート・ツアー」は、自身のルーツを再確認するものでもあったはず。昨年リリースされた彼女の最新作『レベル・ハート』のジャケットは、マドンナの顔に黒いロープが巻きつけられたショッキングなデザインだったが、これも「アーティストへの抑圧」に対する「反抗」であるという。

振り返ってみれば、これまで彼女は何かを表現するたび、発言するたび物議を醸し、激しいバッシングを受け、叩きのめされながらも勇敢に立ち向かってきた。例えば、女優を始めた当初は散々な評価を受けていた演技も(“ワースト”を選出する「ラズベリー賞」を受賞したこともあった)、気づけばミュージカル映画『エヴィータ』で、ゴールデングローブ賞を獲得するまでになっていたし、「“女”を売り物にしている」とフェミニストから批判されるも、セクシーさを武器にすることでセクシャリティを解放し、女性はもちろん性的マイノリティーたちを常に勇気付けている。そう、『レベル・ハート』に映る彼女の凜とした表情は、そんな彼女の“闘いの軌跡”を象徴するものだろう。

「私はずっと人気者であると同時に嫌われ者で、成功者であると同時に敗者で、愛されると同時に憎まれてもきた。でも今になってわかるの。どちらにしろ、みんな意味の無いことだってね」(『マドンナ真実の言葉』エッセンシャル・ワークス)

エロティシズムへの飽くなき追求

日本人女性2人によるダンスユニットAyaBambiらを引き連れ、フィフティーズ・ファッションに身を包んだセカンド・セット。大ヒット曲「ライク・ア・ヴァージン」を重低音たっぷりにリアレンジするなど、往年の代表曲も常に最新サウンドへとアップデートしている。立ち止まることなく進化していくマドンナの真骨頂を見た思いだ。サード・セットへの導入は、『レベル・ハート』に収録された「S.E.X.」 が流れる中、スティーヴン・マイゼルによる映像がスクリーンに映し出される。92年に出版され、サドマゾヒズムやアニリングスを含む過激な内容が論争の的となった、写真集『SEX』の撮影風景だ。そして57歳を迎えた今もなお、エロティシズムへの飽くなき追求を続ける姿勢は脱帽というより他ない。

「黙れ嫉妬深いビッチども! あんたらが私と同じ年齢になったとき、私と同じように人を愛し冒険し続けていられることを願うばかりだわ。ははははははは!」(instagram 2015/05/20)

「年齢で誰かを批判するのは、人種差別的な発言や、あるいは同性愛者を差別する発言と同じように禁止されるべきよ」(「Access Hollywood」インタビュー)

「私は神よりも有名になる」

終盤は、『マッドマックス』ばりのアクロバティックなパフォーマンスや、アールデコ調のセットがレトロモダンな「マテリアル・ガール」など、カタルシス満載の演出が続く。そんな中、ウクレレ一つを抱えてフランス語で静かに歌う、エディット・ピアフの代表曲でありマドンナのフェイヴァリット・ソング「ラ・ヴィ・アン・ローズ(ばら色の人生)」が心にしみた。アルバム『レベル・ハート』は、彼女の持つ“反抗心”と“内面の弱さ”という、全く異なる二面性がテーマとなっているが、こういうロマンティックな側面が、彼女の意思の強さをより引き立たせているのだと思う。

優秀だったミシガン大学を中退し、ポケットの35ドルを握りしめてタクシーに乗り込んだマドンナは、「一番華やかな場所へ連れて行って」と運転手に告げた。着いた場所はNYのタイムズスクエアで、きらびやかなネオンと行き交う人々を眺めながら、心の中でこうつぶやいたという。
「私は神よりも有名になる」

自分自身を変えることが、世界を変えること

あれから38年。世界で最も売れた女性アーティストとして、女優・監督として、あるいは絵本作家、母、様々なチャリティプロジェクトに携わる慈善事業家として、これまで述べてきたように常に自立した女性であり、恐れを知らない女性であり、立ち止まらずに進化する女性であり続けた彼女は、それゆえ男性ファンよりも女性ファンに圧倒的な支持を集めてきた。そんな彼女の最もコアな部分には、あふれんばかりの愛情が詰まっていることは冒頭で述べた通りだ。

「私たちが世界を変えるには、日々の生活の中でそれぞれが自分自身を変えるしかないと思う。そしてお互いのことを常にリスペクトし合う、それだけが世界を変える唯一の方法だと思うの」(パリ同時多発テロの翌日、ストックホルムコンサートにて)

自分自身を変えることが、世界を変えることだと信じて、常に自己変革を繰り返してきた彼女の生き方から、ますます目が離せない。

Denis Makarenko / Shutterstock.com

(黒田隆憲)

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