『マンガ肉と僕』監督・出演女優、杉野希妃さんインタビュー

男性から嫌われるために太る…女性差別への皮肉を込めた映画『マンガ肉と僕』とは

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男性から嫌われるために太る…女性差別への皮肉を込めた映画『マンガ肉と僕』とは

男性から嫌われるために太ろうとする、恋愛に依存してしまう、恋とは無縁の生活を送る――誰でもどこか共感できそうな女性たちを描く映画がある。2月13日から全国順次公開している『マンガ肉と僕』だ。第12回「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した朝香式の同名短編小説が映画化された。

本作で初メガホンをとったのは、女優兼映画プロデューサーとして世界の映画祭で高く評価されている杉野希妃さん。京都を舞台に、内気な男子大学生ワタベが3人の女性との関係を通して成長していく8年間を、現代における女性差別的な風潮への皮肉も込めつつ描いている。

31歳という若さでありながら7年前に映画制作会社を立ち上げ、映画の第一線で活躍する杉野さん。同作に込めた思いや、作品で描かれている女性像について伺った。

男に嫌われるために太る女、恋愛依存症の女…さまざまな姿を描く

――本作では異なるタイプの女性3人が登場します。

杉野希妃(以下、杉野):サトミは、男性恐怖症で男性から嫌われるために太り続けようとしていて、現在の自分に抗って生きています。自分と普通に接してくれる主人公の青年・ワタベの優しさにつけ込み、彼の家に寄生するようになる。菜子は恋愛依存症で、何かに依存してしまう性格の子で、過去の象徴です。3人目の女性、さやかは恋愛に無縁の弁護士なのですが、ワタベがかつて目指していた夢を実現しようとしている、いわば彼の先を行く女性。彼女の存在でワタベは自分の中の男性性と向き合うことになるため、未来を象徴する存在として描きました。

私は全員の気質を持っているなと感じて全員に共感するのですが、ご覧になる多くの方もそう思われるかもしれません。人って色々な側面を持っていますから。世の中には人をカテゴライズする風潮がありますけど、そうすることで生きにくい社会になっているのではないかという思いも作品に込めています。

――原作は文学賞を受賞した小説ですが、どのあたりに惹かれたのでしょう。

杉野:「女による女のためのR-18文学賞」の候補作をいくつか読ませていただいた中で、これは映画化したら私らしい作品になりそうだなと思いました。男性から嫌われるために食べ続けるけれども、苦しみから一向に抜け出せないサトミという存在がなぜ生まれたのかを考えるにつれて、女性性や自分らしさ、現代って何なんだろうと、常に自分が考えている社会的な疑問や悩みが、この作品で表現できるのではないかと感じたんです。そんなことを考えていたときに、この作品が大賞を受賞し、映画の準備が進んでいきました。

自身で特殊メイクをし、太った女性・サトミを演じた

杉野希妃さん

杉野希妃さん

――太ったサトミ役は杉野さんが演じられています。

杉野:太っている頃のシーンは吉本興業さんの女性芸人さんを使って撮り、体型が元通りになったシーンは私が演じるという案も出たんですが、同一人物が演じた方が説得力があるということになり、特殊メイクで私が演じました。自分の中でサトミは愛おしく思う反面、もどかしい存在でした。だからこそ、自分自身で演じてみたいという気持ちは強かったですね。

――なぜもどかしいと思ったのでしょう。

杉野:すごく共感できるからです。サトミの場合は、ある過去の出来事がきっかけで男性恐怖症になってしまい、男性の欲望に抗うために太ろうとします。同じように私も仕事において、何かの状況を受け入れられなくて抗った結果、別の行動をとるということは多々あって。大抵、その行動のあとに後悔するんです。もっとしなやかに生きられたら楽なのに、と。だからサトミを自分のように思えるもどかしさがあるんです。

20代の頃は、女性が仕事で認められたり、新しいことをしたりするのがまだまだ難しい年代で、「女性であることで舐められたくない」という気持ちがすごく強かった。でも、その呪縛から逃れないと自分自身も傷つくし、疲弊していく。その繰り返しでした。そこから脱却して色々なことを受け入れたり、しなやかに人間関係を構築していきたいなという気持ちがずっとありました。

――本作の監督を経て、そうした感覚や考えが変わった部分はありましたか。

杉野:そうですね。自分が初監督として1本の作品を撮れたことで一つ自信になりましたし、何事にも動じなくなったというのはあります。「女性」ということを強く意識しつつも、以前よりは環境や流れ、起こった出来事に身を任せて、物事を受け入れられるようになりました。それまでは突き進んで、振り返ってから「ああ、もうちょっとこうすればよかった」と省みる日々だったんですが、過去を振り返っても楽に受け入れられるようになったと思います。起こるべくして起こったことだったんだな、と。

相手の理想を具現化する恋愛は、自分を殺すだけ

杉野希妃さん

杉野希妃さん

――本作の内容でもある、女性との出会いで男性が変わるというと、世の中には「アゲマン」「サゲマン」という言葉もあります。

杉野:男女って与えて与えられる関係だと思いますし、同じ人と付き合いながら、ずっと上げ続ける、下げ続けることもない。そういう波の中でお互いをどう受け入れ合っていくのかが一番大事なのではないでしょうか。作品でも、この女性が彼を上げて、この女性が彼を下げるという単純なものではなく、いろんな側面がある人間同士が影響し合っている姿をごく自然に描いているつもりです。

――恋愛において、男性から選ばれることで承認欲求が満たされたり、そこで自分の存在を感じて幸福を感じる女性も少なくないと思いますが、杉野さんご自身の恋愛観はどうでしょう。

杉野:私、選ばれたいと思ったことが無いんです。気になる男性に対して弱気になることもありますが、だからといって、媚を売って選ばれたいと思ったこともないので、「こういう女性にならなければ」と自分を規定したことがないんですよね。自分自身を出して気に入られなかったらご縁がなかったと思うしかないし、相手の理想を具現化するなんて自分を殺すだけなので、そこに幸せはないかな、と。

私の中で恋愛は縁だと思っている節があります。「この人と結ばれないのは運命なんだ」「今好きな人が自分のことも好いてくれているのは、そういうタイミングなんだ」という風に、縁に身を任せるのが一番自分らしくいられるような気がします。無理矢理相手に合わせるのではなく、お互いがお互いに影響し合って、しなやかに変化したり、成長していけたりする関係が望ましいですよね。

■関連リンク
『マンガ肉と僕』
公開中/公式サイト

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