結婚、妊娠、出産にはどのくらいお金がかかるのか。今の仕事のままで貯蓄はできるのか。将来、年金は貰えるのだろうか……毎日一所懸命仕事をしていても、お金にまつわる不安や悩みは尽きない。

ライフネット生命の代表取締役会長兼CEOの出口治明氏が上梓した『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』(ポプラ社)は、戦後に生まれ、京大卒業後に保険業界の第一線で活躍してきた氏が、若い世代に向けて「お金づきあい」の極意を説いている1冊だ。

今回は出口氏に、「お金がない…」「給料を上げたい!」「将来が不安…」といったお金の悩みをぶつけてきました。

損をするのは、お金リテラシーがない人

お金に対して漠然と不安を持っている人の共通点は何か? それは、お金に関するリテラシーが低いことです。僕は歴史オタクなのですが、5500年前に興ったメソポタミア文明の粘土板にも「商人の言うことを聞いていたら騙されるだけ。騙されないためには自分で勉強するしかない」という趣旨のことが書かれています。これは全世界、どの時代でも共通で、賢い消費者になるためには勉強しなければいけない、ということです。物事を知らない人に高く売りつけるのは世界の常識ですし、ちょっとでも儲けたいと思うのは人間の本性ですから。

何事も、知っていることは得で、知らないことは損です。例えば合コンに行っても、一度も恋愛した経験がなかったら、失敗してしまう可能性が高いと思いませんか。でも、合コンで失敗するのが怖いからと家に閉じこもってばかりいては、少しも賢くなりません。恋愛で一番良い方法は、毎日でも合コンに行って、騙され、貢がされ、「恋愛はこんなに怖いんだ!」とわかった上で賢くなること(笑)。恋愛はコスパが悪いという風潮もありますが、若い人は恋愛にはいくらお金を使ってもいいと思います。恋愛して辛い思いをすれば、お金の価値も良く分かります。何事もラン&テスト。お金についても、使いながら知識を成熟させていけば良いと思います。

今の時代、お金リテラシーを高めるのは簡単

今の時代はインターネットがあるので、お金リテラシーを高めることはとても簡単です。昔に比べて情報が開示されていますから、自分で調べる気さえあれば、どのようなことでもあっという間に調べることができます。例えば、日本銀行が上場企業や中小企業に対して行う業況調査「日銀短観」(企業短期経済観測調査)の内容は、誰でもすぐに見ることができます。昔は日銀に行って短観のペーパーをもらってきたものです。

データや数字で「今の経済はこうなっているんだ」と知っておくだけでも、リテラシーは簡単に上げられます。一般論ですが、メディアは不安を煽ってお金を稼ぐ商売という側面もあるので、煽るような記事で物事を判断せず、自分で元の情報にアクセスし、自分のアタマで考えていけば良いのです。

それに、今の若いみなさんが生き抜くことは、実は楽勝だと思います。日本は2030年までに800万人の労働力が不足すると見込まれています。どの経済学者も、この分析は同じ。800万人という規模は、北欧の一国の人口より多い数字です。それだけ労働力が不足するということは、元気で働く意欲さえあれば、飢え死には絶対にしないということです。

さらに、女性はもっと有利です。世界の女性の社会的地位をランク付けする「ジェンダー・ギャップ指数」(世界経済フォーラム/2015年版)においても、日本は調査対象145カ国のうち101位。先進国としては、これ以上落ちようがないほど低い。だから今後、女性の地位は上がる一方です。「昔の人に比べて自分たちは不幸だ」なんて思う必要は全くないのです。

お金は使う時以外は何の役にも立たない

アメリカ草創期に一世を風靡した社会批評家アンブローズ・ビアスによる『悪魔の辞典』(岩波書店)は、さまざまな言葉を痛烈な皮肉やブラックユーモアで説明したパロディ辞書ですが、同書では、お金を「使う時以外は何の役にも立たないもの」などと説明している。僕もその通りだなと思っていて、お金って使う時が一番楽しいものですよね。素敵な服を買ったり、美味しいものを食べたり、使うことにこそ喜びや価値があります。

本にも書きましたが、お金というものは、蛇口から出て風呂桶に溜まり、下水に流れて出ていく水のようなものです。つまり、働き続けていればお金は、蛇口から水が出てくるようにどんどん入ってくるので、たくさん溜めなくても困りません。何か起こった時のために貯金するというのであれば、手取りの半年分ほどあればそれで良いと思います。手取りが20万円ならば100万円くらいでしょうか。豪華な結婚式や旅行など具体的な目的があるのならその分貯金すればいいですが、とくに何もないなら、お金を溜めることに固執する必要はないのです。

それに、何かあったときが心配という不安には保険でカバーできますから。生命保険は本来、貯金が少ない若い世代のためにできた商品です。生命保険に入っておけば、たとえ貯金がなくても病気やケガ、あるいは亡くなった場合にお金が入るので、安心していろいろなことにチャレンジができます。

給与を上げてもらうためには自分に投資しよう

給与を上げてもらう簡単な方法があります。それは、自分に投資していろいろなことをできるようになること。それだけです。もしみなさんが企業の社長だったら、どのような人に高い給与を払いたいか想像してみてください。日本語しかできない人より英語や中国語もできる人、外国人のお客様をもてなせるような日本文化に精通している人、壁を塗ることしかできない人より屋根瓦も敷ける人ですよね。どの世界でも同じです。そして、その「いろいろなこと」は、自分の好きなことから始めれば良いのです。そうやって自分に投資をしていくことが給与を上げてもらう一番の近道です。反対に、スポーツ選手や芸術家のようにひとつのことに注力し、プロフェッショナルとして仕事のクオリティを上げ、給与アップを目指すのも手でしょう。自分の向き不向きを考え、好きなほうに向かっていけばいいと思います。

貯金よりも自己投資のほうが、将来的に得をする

スキー場では2通りの楽しみ方があります。ひとつは「雪山をガンガン滑る」。もうひとつは「雪山やスキーヤーを見る」ことです。滑れる人は、自分の気分でどちらも選ぶことができます。でも、滑れない人は見ることしか選べません。スキーのスキルは1つの資格と同じ。持っているだけで、希望の会社に入ったり、給与を上げてもらったり、新しい仕事を選べたりする可能性が高まるのです。だから若いみなさんは、貯金を100万円増やすよりも、その100万円を使って何かの資格を1つ取る方が、5年後10年後を考えたら絶対に得だと思います。

また、例えば旅行先で、1000円の入場料で広い敷地を巡れる観光スポットがあったとしましょう。若ければ足腰も強いので「こっちにも行ってみよう、あっちにも行ってみよう」と、たくさんの景色が見られて、その分だけ経験が積めます。しかし60歳くらいになると「もう、このあたりでやめようかな」とすぐに疲れてしまう。同じお金を使っても、若い人と60歳の人とでは、行ける範囲や見える範囲が違う。要するに、「お金の価値」が違うのです。人はだれしも、明日、明後日よりも“今日”が人生の中で一番若い。自分への投資を、今から始めてみましょう。

「自分のやりたいことがわからない」と劣等感を抱くのはムダ

もうひとつ若い人たちに伝えたいのは、他人と比べて劣等感を抱くのは時間のムダだということ。「他の人と違って私は自分のやりたい仕事が何なのかわからない」なんて思いは、今すぐ捨ててください。やりたいことがわからないと悩むのも、リテラシーの低さが原因です。

歴史を学ぶと、自分のやりたいことが本当にわかっている人なんてほとんどいないことがわかる。今までの歴史を見ると、人間の99%は偶然で選んだ仕事のままで一生を終えています。僕も、最初から保険会社の経営者になろうと思っていたわけではありません。だから、やりたいことがわからなくても心配しなくて大丈夫です。今の仕事も何かのご縁。目の前のことを一所懸命にやって、空いた時間に自分に投資をし続ければ、そのうちに何かが身につきます。そして、そのプロセスで違う何かに出会ったり、やりたいことがみつかったりする。

私は、「済んだことを悔いる」「人を羨ましいと思う」「人に褒めてほしいと思う」という3つは人生をムダにするだけだと思っています。済んだことは戻ってこないし、自分は自分でしかないのだから、人に褒めてもらおうなんて考えず、自分を信じて自分が好きなことや楽しいと思うこと、そして正しいと思うことをひたすらやっていきましょう。

それが人生を楽しくするのです。

石狩ジュンコ

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