日本企業イメージ戦略でLGBT支援に

前編では、企業向けLGBT施策のコンサルティングを行うNPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんと、LGBTの若者支援を行っている「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表の遠藤まめたさんに「LGBTが感じる働きづらさ」「女性が働きやすい職場とLGBTが働きやすい職場の共通点」について聞きました。後編では、企業がLGBT施策に取り組むメリットや、LGBTが生きやすい社会に向けて個人が取り組めることなどにお伺いします。

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LGBTの離職率は60パーセント

遠藤さんと村木さんによると、LGBT施策を推進することは、企業にとって、「優秀な人材獲得」「離職率の改善」「企業のイメージ戦略」などのメリットがあるのだそうです。

遠藤さんによれば、これから日本企業にとって喫緊の問題となってくるのはLGBT人材の「離職コスト」。

「今までの日本では海外と比べ、転職する人が少なかった。しかし、外資系企業は優秀な人材の争奪戦が激しいので、優秀な人材を奪われる危機感から、LGBT施策をやらざるを得ない状況になっています。優秀な人材の中にもLGBTはいて、例えば、現アップルCEOのティム・クック氏もゲイなんです。

日本の中小企業には、LGBT施策をやらないと優秀な人材がライバル会社に奪われる、という恐怖感はありませんが、たくさんのLGBTが転職している現実もある。これはやはり、多くの職場がLGBTにとって居心地が悪いことを表していると思います。職場でカミングアウトしている人が少ないから可視化されていないのですが、時間やコストをかけて育てた人材が辞めることにより、会社は損をしているはずなのです」

前述の虹色ダイバーシティによるアンケートによれば、転職経験が「ある」人の割合は、一般の51.8パーセントに比べ、LGBTでは60パーセント。特に転職率が高いのは男性から女性へのトランスジェンダーの人で、3回以上の転職を経験している人が41.3パーセントにも上ります。

LGBT施策は企業のイメージ戦略でもある

加えて、村木さんは「(LGBTに関するストレスがかかることによる)生産性への悪影響」への対策や、「企業のイメージ戦略」の観点から、LGBT施策の有用性について指摘。

「LGBT施策推進の根底に流れる意識は女性施策と同じ。今、女性が十分に活躍できず、『もったいない』ということで、女性施策を進める企業が増えていますよね。同様にLGBTも、十分に力を発揮できていないのでサポートしましょう、という考え方です。さらに、LGBTイシューは、社会的な認知度が低いという意味でも、倫理的なハードルが高い。そこで、LGBTイシューに取り組んでいる会社は、女性や障がい者、異文化の人たちなど、他のマイノリティー(=社会的少数者)の問題にも積極的に取り組んでいるイメージを打ち出すことができます。これは、当事者だけでなく、人権などに関心のある優秀な若い層を引き付ける魅力となるのです」

この潮流は、すでに欧米諸国では起こっているそう。日本でも外資系企業を筆頭に、今後その流れに続く企業があらわれてもおかしくないと言えます。

LGBTを取り巻く日本の社会状況が変化している

LGBT問題に取り組んできた二人が口を揃えるのは「LGBTを取り巻く環境がここ数年で変化の兆しを見せてきた」ということ。

自身も女性から男性へのトランスジェンダーである遠藤さん曰く、「LGBTの中でも、性別変更によって、服装や使用するロッカーを変更することがあるなど、会社の中でも『見えやすい』存在なのがトランスジェンダーの人。そういった事例に対し、『対応の仕方が分からないのだけれど、どうすればいいのか』と、企業側からアドバイスを求める声が最近すごく多いんですよ」

勤めていた会社を退職し、現在はNPOの活動に専念している村木さんも、退職の背景には、LGBTを取り巻く日本の社会状況の変化を肌で感じたことがあったと言います。

「2012年から2013年にかけて、同性婚に関する日本語のニュースがメディアにあふれました。LGBTのニュースは、今まで一部の人たちが海外のニュースを英語で追いかけているぐらいだったのですが、日本の大手メディアが日本語で報じるようになった――これは大きな変化です。

また、世代交代の影響も大きいと感じています。今の40代は、90年代のゲイ・ブームのときに若者だった世代。この世代のLGBTの人たちが、企業で責任あるポジションにつき、カミングアウトこそしていなくても、企業を内側から変えることができる段階に来ているのではないでしょうか」

さらに、今年7月に施行される男女雇用機会均等法の「セクハラ指針」の改正には、同性間のセクハラの項目も追加されます。この議論の過程で、審議会の委員から「LGBTに関する差別的な言動もセクハラではないか」という発言があり、厚生労働省側がそれを認める回答をしました。このことで、LGBTの問題はすべての企業が取り組まなければいけない問題になったと言えます。

アライ(=LGBTの支援者)としてカミングアウトしよう!

最後に、企業のLGBT施策のコンサルティングが本業である村木さんから、LGBTが働きやすい職場を作るために、読者ができることについてアドバイスをいただきました。

「ぜひ、アライ(=LGBTの支援者)としてカミングアウトをしてください! 『私の周りにはいない』と思っている方もいるかもしれません。しかし、以前私が担当させていただいたクライアントさんで、研修後にLGBTイシューに関心を持ってSNSなどで積極的に情報発信されていた方がいたんです。すると、『実は、私も……』と、周りの人からカミングアウトされるようになったそうです。

LGBTは『見えていない』だけ。日本ではカミングアウトのリスクはまだまだ高いので、当事者がカミングアウトするよりも、支援者がLGBTに対する応援のメッセージを発信するほうが、社会を変える原動力になるのだと思っています」

考えてみれば、子育てにまつわる問題も、一般的に「当事者」とされがちな母親が情報発信するよりも、様々な立場の人が一緒に情報発信したほうが影響力があったりもするもの。様々な人が抱えている問題に対し、当事者だけでなく、みんなが声を上げていく――それによって、よりみんなが生きやすい社会になるのかもしれません。

ケイヒルエミ