「博士だけど無職」を変えたい 理系就職の難しさを取り除く、社員全員が研究者のベンチャー企業

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「博士だけど無職」を変えたい 理系就職の難しさを取り除く、社員全員が研究者のベンチャー企業

自分のキャリアパスに悩む理系の学生や研究者は多い。大学に残り、任期付きのポスドク職に就きながら限られた教授のポストを争うか、企業の研究職に就くか、選択肢が限られているからだ。これが理系女子、いわゆる「リケジョ」ともなると、更に結婚や子育てという大きな問題も絡み合ってくる。

そんな中、注目されているベンチャー企業が株式会社リバネスだ。同社は「科学技術の発展と地球貢献を実現する」という理念のもと、社員が「サイエンスとテクノロジーをわかりやすく伝える」コミュニケーターとなって、次世代の研究者育成やオープンイノベーションの加速、起業家の発掘・育成を通じた新事業の創出などのプロジェクトを行っており、「社会価値を生み出す持続的な経営・組織・人づくりを行っている企業」として日本能率協会が実施している「KAIKA Awards 2015」の初代大賞にも選ばれている。

驚いたことに、約50名の社員全員が修士号・博士号を持つ研究者。今回は、人材開発事業部の上野裕子さん(理学博士)に、リバネスの取り組みについてお話を伺った。

研究者だけのベンチャー企業

――まず、リバネスという企業の概要を教えてください。

上野裕子さん(以下、上野):リバネスは今年で設立14年を迎えるベンチャー企業で、社員全員が研究者というバックグラウンドを持っています。私自身も、立教大学大学院で好熱菌の研究をして博士号(理学)を取得しています。

今の代表たちがリバネスを立ち上げたきっかけとしては2つあります。当時はクローン羊や遺伝子組み換え食品といった科学的な言葉が一人歩きして、「科学は何だか怖いもの」という、わからないからこそ漠然とした不安が世の中にあったということ。「研究者としてはすごく楽しい研究があるのにもかかわらず、それがきちんと理解されていない」という問題意識がありました。もうひとつは、ポスドク問題ですね。博士になっても、仕事がない。いわゆる「博士漂流時代」の中で、「自分達の仕事は自分達で作っていきたい」という想いから、設立に至りました。

――リバネスの事業は、かなり多岐に渡っているようですね。

上野:現在は、教育CSR活動などを通して教育機関と連携した次世代の研究者育成を行う「教育応援プロジェクト」、研究費支援や人材育成など様々な側面から研究開発を加速する「研究応援プロジェクト」、起業家の発掘や育成、事業化支援などによって新たな価値の創出を目指す「創業応援プロジェクト」を中心に、事業を展開しています。

創業当時、リバネスが最初に取り組んだのは「出前実験教室」です。研究者が直接学校現場に出向き、研究の魅力を語りました。

学校現場にサイエンスを届けるもうひとつの方法として、科学雑誌『someone』の発行も行っています。学校の理科の教科書の内容は、最先端の研究から、10年は遅れているんですね。ですから『someone』では、教科書にはまだ載っていない科学を見せていきたいと考えています。毎回切り口を変えた特集を掲載しています。

たとえば「掃除」をテーマにした特集では、「実は細胞の中でも掃除は行われている」「ハチは巣の中をきれいに掃除しているんだ」など、さまざまな科学や研究者を紹介しています。取材する対象は、大学の研究者だけでなく、企業関係者など多種多様です。大学名ではなく、やりたい研究で進路を選んでほしい、という想いもありますから。「今、研究者が一体何にワクワクしているのか?」を誌面で伝えるのが特徴ですね。

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「研究力」を活かせるのはアカデミックな場所だけじゃない

――実験教室や『someone』に触れた子どもたちが研究者になっていくのですね。

上野:私が所属している人材開発事業部では、「研究を活かした仕事をしよう」をテーマに、大学院生のキャリア相談や研修事業、人材紹介などを手がけています。

研究者が日頃行っている「課題に対して仮説を立て、実験して、考察する」というプロセスは、アカデミアだけでなく、社会の課題をも解決できると考えています。各々の専門性だけでなく、そうした「研究力」そのものを社会で活かすことができるよう、研究者自身をトレーニングしたり、研究者が仲間にほしい企業を探したりしています。

――そうした事業を目指しているのは、理系のキャリア選びに難しさがあるからでしょうか? 私の友人の理系男子も、就職するか、大学で研究を続けるかで、かなり悩んでいました。

上野:そうですね。それに、「企業に入る」「アカデミアでポストを探す」という二者択一しかないと考えている人は多いので、もっと他の活かし方があるんだと伝えていきたいです。

今は、あらゆる企業で博士採用などの需要が出て来ていますし、大手の採用情報サイトには出ていない採用があるかと思います。

――上野さんがリバネスへの入社を決めた経緯はどのようなものだったのでしょう?

上野:私の原点は『someone』です。もともと、学部生の頃から「科学の魅力を伝える仕事をしたい」という考えがあったのですが、「その夢を体現できる場所はどこなんだろう?」と迷っていました。修士に進学するかどうかというタイミングで、進学するのか、それとも科学を伝える媒体としてのメディアにこだわって、同じ立教大学にあるメディア学科に進むか悩んでいたのですが、先生から「科学を伝えたい伝えたいって言うけど、あなたは伝える科学を持っているんですか」と問われ、進学を決めたんです。今思えば、学部レベルの研究では到底伝えられるものを持ってはいなかったですね(笑)。

そして、博士課程1年の時に、研究室に置いてあった『incu・be』に出会ったんです。これは大学生・大学院生向けのキャリア雑誌で、その号では「博士にしかできない働き方がある」というリバネスの代表同士の対談が掲載されていたんです。「これだ!」と感銘を受け、まずはインターンとしてリバネスに関わるようになりました。

【後編はこちら】震災直後に“一冊まるごと海特集” 反対意見を押し切って理系編集長が伝えたかったこと

(小泉ちはる)

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