みなさんは「裸」と聞くと何を思い浮かべますか? おそらく恥ずかしいもの、いやらしいものというイメージが一般的なのではないかと思います。しかし、そんな裸体へのイメージを変えようと興味深い試みが行われています。その名前は「ららあーと」。年齢・性別・職業・障害の有無にかかわらず誰でも参加することができるバリアフリーのヌードデッサン・ぬり絵のイベントです。「裸(ら)を楽(ら)しむ」ことをテーマにした「ららあーと」は、もちろん初心者の参加も可能。そんなイベントの様子を取材しました。

誰でも参加できるヌードデッサン会「ららあーと」

すでに開始から6年がたつという「ららあーと」の開催は2か月に1度。今回は1月31日に杉並区のあるスタジオで行われました。会場に足を踏み入れると、あたたかい照明の光のなかで参加者の方々が歓談中。デッサン初心者の方から絵の経験がある方まで、年齢や性別も異なる様々な人たちが「デッサンを楽しみたい」という気持ちをもって集まってきました。

「裸というと恥ずかしいもの、いやらしいものだと思われがちですが、本来は美しくて尊重すべきもの。今日はそんな裸体のデッサンを行いますが、誰かと比較するのではなく自分自身が楽しいと思える時間を過ごしてくださいね」

そんな司会者の方のアナウンスに続いて、いよいよモデルの登場です。「ららあーと」の特徴は、参加するモデルも素人であるということ。登場した女性モデルの方の顔は最初少し緊張気味でしたが、スタッフの方と言葉を交わしながらポージングを決めていくうちに、自然とやわらかい表情になっていきます。

ヌードデッサン会ららあーとにて

ヌードデッサン会ららあーとにて

デッサンの時間は1回15分。開始の合図が鳴ると、みな真剣な顔をしてデッサンに取り組み、会場には鉛筆の音だけが響きわたります。本格的にデッサンを行う人もいれば、マンガ風に描く人もいますし、単色で描く人、色づかいが鮮やかな人、とその描き方はまさに千差万別。一人ひとりが感じた「裸体」をキャンパスの上に表現していきます。

ヌードデッサン会ららあーとにて

終了の合図を区切りに会場の空気は再び和やかなものに。終わったあとは、お互いの絵を見る鑑賞タイムも設けられています。

「この絵は立体感があっていいですね」
「どんなことを考えてこの色を使っているんですか?」

そんな感想が飛び交う交流の場には、先ほどまで描かれていた側のモデルも加わり、

「私、こんな風に見えているんですね!」

と会話が弾みます。描く側と描かれる側の距離が近くて垣根がないのも「ららあーと」の特徴です。

ヌードデッサン会ららあーとにて

ヌードデッサン会ららあーとにて

また、通常のデッサン会は1人の人物を何枚にもわたって描くスタイルをとることが多いですが、ここでは1回のデッサン会で複数の人物を描くかたちをとっています。より多くの人の体の美しさを感じてほしいという主催者の方の思いを感じます。取材した日も男性モデル5名、女性モデル3名が参加していました。

裸体を描くことで性的な欲求を健全に昇華する

そんな誰でも参加することができる「ららあーと」ですが、いったいどのような経緯で開催されるようになったのでしょうか。主催している一般社団法人ホワイトハンズ代表の坂爪真吾さんにお話を伺いました。

「ホワイトハンズは、全ての人が『性の健康と権利」』を当たり前に享受できる社会にしたいという思いから、これまで重度の身体障害をもつ方に対して射精介助というサービスを提供してきました。『娯楽』や『性欲の処理』という観点ではなく、『人生の質の向上』という観点から、自尊心のケアを行っているんですね。

しかし、射精介助はあくまでも身体障害の方向けの性サービスだったので、知的障害、発達障害、精神障害などをもつ方々のために新しいサービスをつくれないかという思いがずっと心の中にありました。そのとき、たまたま裸婦デッサンというものを知り、これをそういった方々の性教育に応用できないかと思いついたのが開催のきっかけです」

実際に参加者の2~3割の方は、精神疾患や軽度の身体障害、発達障害などなんらかの障害を持っている方だそう。

そんなバリアフリーのデッサン会である「ららあーと」ですが、そこには以下のような目的があると言います。

まず「芸術美」「機能美」という視点を通して、客観的に人間の裸体を観察する機会を設けるということ。それによって、性に対する間違った幻想や偏見を払拭することができます。さらに裸体を描きアートにすることによって、性的な欲求やストレスを健全に昇華する機会をつくるという意味もあります。

「裸体というとパソコンに向かって個人で見るものであるというイメージが一般的ですから、『ららあーと』のようにみんなで見てそれを描く機会は少ないと思うんですよね。こうした機会を持つことによって『性をオープンに扱っていいんだ』と感じてもらうことができると考えています。参加するだけで性への価値観が変わっていくのを感じることができると思いますよ。

また、参加した女性の感想として多いのが『色々な体の人がいることが分かって、自分の体へのコンプレックスが消えた』というものです。たとえ同性同士であっても裸の姿をじっくりと見る機会は少ないため、「こういう体でなくてはいけない」という思いこみを持っている人が多く存在します。でも、体つきが人それぞれ異なるのは当たり前のこと。

男性側にも同じことが言えて、女性の体というと理想的な幻想を持っている人がいますが、現実はそうではありません。『ららあーと』はそういったことを伝える場になっているのではないでしょうか」(坂爪さん)

描く側も描かれる側も精神的に対等

モデルをつとめる方も素人の方だということですが、どのようなきっかけからヌードモデルを始めたのでしょうか。参加したモデルの方は次のように話します。

「本当に何も身にまとっていない状態で自分の体が第三者からどのように見えるのかということに興味がありました。私の場合、『自分の記録を残す』といった意味でも参加しているんですね。モデルをすることによって、その時々で第三者目線というのを取り入れることができる。それによって自分の外見や内面を捉えなおし、新たな発見をすることができると思うんです。

もちろん裸になるということに緊張はしますが、その緊張をほぐしてくれるようなやわらかい雰囲気が『ららあーと』にはあります。デッサンというと堅苦しいもので、敷居が高いイメージがあると思いますが、ここは本当にアットホームで参加しやすい場所。モデルであっても、描き手であっても気軽に参加できると思いますので、ぜひ一度来てみてほしいと思います」

このように、性をオープンに扱うことでさまざまな気づきをもたらしている「ららあーと」ですが、今回の取材を通して感じたのは男性も女性も、そして描く側も描かれる側も精神的に対等であるということです。男性も女性もモデルとなり、またその体を描きあうことで、お互いの性の素晴らしさを発見し、尊重し合う場となっています。

また描き手だけでなくモデルの方も、デッサンという場を通して自分の外見や内面を捉えなおしたり、参加者との会話を楽しんだりするなど、モデルとなることを楽しんでいる様子が伝わってきました。

性をオープンに語り、楽しむということが難しい日本社会ですが、こうした場が少しずつ広がっていけばその風潮も変わっていくのではないでしょうか。

(岡本実希)

岡本実希

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