メディアジャーナリストの渡辺真由子さんが取材・執筆した『リベンジポルノ』(弘文堂)では、リベンジポルノの定義を「恋愛(プライベートな関係)に起因するもの」と「性産業(ビジネスでの関係)に起因するもの」に大別している。

後者の例として同書の中で挙げられているケースは非常に衝撃的だ。16歳の女子高生だったカナさん(仮名)は、バイト先の近くでレイプされた。その模様を撮影したビデオを元に脅され、1年半にわたって強制的に売春させられていた。組織的な売春だった。

【前編はこちら】裸を撮らせた子どもを叱ってはいけない リベンジポルノから考える「性情報リテラシー」

強制売春被害、なぜ警察に言えない?

――カナさんのケースは非常に悪質で言葉を失いました。こういったことが日本で起こっているなんて、信じられない人も多いと思います。

渡辺真由子さん(渡辺):日本人がこういった人身売買の被害に遭うとは思われていないんですよね。どこか外国の女性が連れてこられて、そういう目に遭っているというイメージはあるかもしれませんが。実際、日本人の女子高校生がこういう被害に遭っていて、誰にも言えず、救われることもなかった。これは日本社会が知るべき事実です。

――このケースは「この女子高生は絶対に誰にも言わない」とわかっていないとできない犯罪ですよね。そういう風に支配できてしまうことがすごく怖いなと思います。

渡辺:犯人側は、支配するためのポイントをすごく押さえているんですよね。保険証や学生証、携帯電話をチェックして、親の職業や通っている学校、友人関係を把握する。その辺りを全部抑え込んで、バラしたら他の人にも危害が及ぶことをちらつかせる。そうすればこの子は何も言わないだろうとわかっているし、これまでにもそういうケースを何度も成功させてきたんでしょうね。

――カナさんが警察に行かなかったのはなぜだと思いますか?

渡辺:カナさんの場合は、親に伝わるのが怖くて警察に相談できずにいました。警察って、未成年から相談があると本人の親に伝えるのが基本的なスタンスなんです。でも、それだと子どもは相談したくてもできません。もっと被害者の意志を尊重して、たとえば親に言うかどうかは被害者に決めてもらうといったスタンスを取るべきだと思います。そうしないと、今回のような水面下の声はなかなか救い上げられないですよね。

性被害に遭うことは「恥」ではない

――性やリベンジポルノの話を発信していく上で、伝わりづらいと感じることはありますか?

渡辺:繰り返しになりますが、「被害者は悪くない」という部分は、かなり強調しないと伝わりません。世間の人は性被害に遭うことを恥だと思っています。世間がそういう意識を持っている限り、被害者は声を上げにくい。小林美佳さんが『性犯罪被害に遭うということ』(朝日新聞出版)という本を出したとき、某大手出版社の編集者の方が「こんな本を書かせるなんて発行元の出版社はなんてひどいんだ、彼女がかわいそうだ」って言っていたんですよ。その編集者さんの中では、性犯罪に遭うことはすごく恥ずかしいことで、「世間に向けて言うべきじゃない」という意識を持っているわけですよね。でも、そういう意識を持っている人がほとんどだと思います。そうなると、性犯罪の被害者女性は口をつぐまざるを得ない。

――被害者が悪かったわけじゃないのに、隠すべきものとして扱われますね。

渡辺:そうですね。本来は被害者が加害者を堂々と批判していいのに、それがすごくしにくいのが現状です。

性犯罪被害が報じられない理由

――メディアの伝え方について、思うことはありますか?

渡辺:私がテレビ局にいたとき、1人暮らしの女の子のマンションで性犯罪事件がありました。女友達が泊まりがけで遊びに来て、朝方友達が鍵をかけずに帰ったのを狙ってストーカーが押し入り、被害者を暴行したんです。こういう手口があることを、ぜひニュースで取り上げたかった。でもテレビ局の場合は、映像がないとニュースにならないんです。特に性犯罪は現場の映像が撮りづらいんですよ。普通は事件現場を撮影しますが、被害者のマンションを映したら特定されてしまうからそれは絶対にできない。そうすると映像がないので、その時点でニュースにできないということでカットされてしまう。そういうケースが今もおそらくたくさんあって、ひどいことが起きていてもテレビで報じられることは少ないのではないかと思います。

――警察の対応で良い思ったこと、もしくは悪いと思ったことはありますか?

渡辺:良いなと思うことは残念ながらあまりないのですが、悪いなと思うのは深夜の繁華街で女の子が警察に駆け込んだとき、その子が何か被害に遭っているかもしれないのに、不良少女と決めつけて対応することがある。事情を聞く前に「何やってんだ、こんなところで」って頭ごなしに言ってしまう。そうなるとその女の子は「実はこういう目に遭ってる、助けてください」って言いづらいじゃないですか。街を徘徊してる少女は不良少女だと頭から決めつけるやり方は問題だと思いますね。

あとはリベンジポルノに関して、警察が今とっている方法は、被害に遭わないためにという観点から「撮らせないでください」とポスターなどで呼びかけることが中心なんです。でもそれでは、加害者に向けた対策にはなってないと思います。

所有欲よりも恋人の安全を優先できるか

――撮る側に対しても、「撮ることは相手を危険にさらす可能性がある行為」ということをもっと伝えていくと良いのでしょうか。

渡辺:ただ、撮る人にもいろんな思いがあります。「純粋に彼女の体がきれいだから、芸術として撮りたい」という男の子もいます。撮ること自体が悪いわけではなく、撮った後にどうするかです。撮ったけれど彼女の将来が心配だからすぐに消すとか、あるいは「一週間以内に消す」と彼女と約束しておくとか。自分の所有欲よりも、彼女の安全を優先できるか、ということだと思います。その自信がなければ、最初から撮らない方が良いでしょう。

渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。元テレビ局報道記者。いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書~16歳の自殺 遺族は何と闘ったか』で日本民間放送連盟賞最優秀賞、放送文化基金賞優秀賞などを受賞。著書に『オトナのメディア・リテラシー』『性情報リテラシー』『大人が知らない ネットいじめの真実』など。

小川 たまか/プレスラボ

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