月額6,800円で、スタイリストが選んだコーディネートが、ワンボックスで届く。返却すればまた次のアイテムが届き、月に何回交換してもいい。そんな夢のようなサービスが、ファッションレンタルサービスの「エアークローゼット」です。2015年の2月にサービスを開始してから、ファッション好きの女性の間で大きな話題を呼んだこのサービスが、どのように生まれたのか。実際、どのように運営されているのか。協同創業者であり、取締役CMOの小谷翔一さんにうかがいました。

服はたくさんあるのに、着たい服がない! を解決する

――エアークローゼットのサービスは、どういった経緯で生まれたのでしょうか。

小谷翔一さん(以下、小谷):きっかけは、ほんの世間話でした。代表の天沼とCOOの前川とカフェにいたときに、2人が奥さんの話で盛り上がったんです。休日に外出しようとすると、奥さんがよく「着ていく服がない」と嘆いている、と。でも、クローゼットにはたくさんの服が入っている。

――わかります。服はたくさん持っているけれど、どれも決め手にかけるというか、その日の気分に合わないということ、ありますね。

小谷:これは、どうしてなのかを考えてみました。おそらく学生時代は、お金がないけれど時間があるから、ファッション誌をチェックしたり、お店を開拓したりして、自分の着たい服を探すことができるんです。でも、社会人になるとそんな余裕はなくなるし、子どもができたらさらに時間がなくなる。

結果、たまに時間ができたとき、いつものブランドのショップを手早く回って、トレンドをおさえた無難な服を買うことになる。いまはネットでも服が買えるとはいえ、試着しないで買うのは不安。ファッションを楽しみたいという気持ちはあるんだけれど、そこに費やす時間がなくて困っているという女性の姿が、はっきり見えてきました。

――解決すべき課題が明確に見つかったからこそ、サービスを立ち上げたんですね。

小谷:そのとき我々は3人で起業しようと、話し合っていた時期だったんです。どんな事業をやるべきか、社会のニーズとお互いの興味をかけあわせて、3つのテーマを決めていました。それは、IT、シェアリングエコノミー、新時代のインフラ、です。ここに、ファッションを楽しみたいけれど時間がない女性のニーズを組み合わせ、ファッションレンタル事業というアイデアが生まれました。そこから、300人ほどの女性にインタビューをして、少しずつ「エアークローゼット」というサービスの詳細を固めていったんです。

スタイリストの提案で、新しい自分を発見する

――コーディネートは、プロのスタイリストが提案してくれるんですよね?

小谷:はい。皆さん、普段はタレントさんなどのスタイリングをされている方々です。そういった方々にお客様のスタイリングを担当していただいています。お客様には最初に好みのテイストや色合い、全身のお写真を送っていただき、それに合わせたアイテムを1回につき3着お送りいたします。すると、それに対してお客様から「これはよかった!」「こんなにフリフリなのはちょっと……」「腰回りがちょっときつかったです」「もうちょっと明るい赤のほうが好き」などのご要望がシステム上で返ってきます。

この回答率が、ウェブサービスとしては信じられないくらい高いんです。ひとつのアイテムに対して、数百文字の感想をいただくこともよくあります。そのご要望を踏まえて、また次のコーディネートを3着提案する、という流れになっています。

気に入ったアイテムは買い取ることもできます。「この色は似合わないと思い込んでいて、買ったことがなかったけれど、今回提案されて着てみたら意外とよかった。家族や同僚にも、『いつもと違うけれど、すごく似合うね』と言ってもらえた」、という感想をいただくことがあるんです。新しい自分を発見していだけるのは、サービス提供者冥利につきますね。そして、その結果として「返さないでずっと着ていたい」と思ったものが、買い取りをしていただいています。

自分に合う服を相談したい人にピッタリ

――ユーザーはどういったタイプの人が多いのでしょうか。

小谷:そうですね、いつもファッション情報をチェックしていて、「このブランドが好き」「こういうスカートを履きたい」という強い意志がある方よりも、「私に似合うスカートってどんなもの?」と相談したい方が、エアークローゼットにはマッチしています。

お客様のなかには、どういうファッションをしていいのかわからない、と悩んでいらっしゃる方もけっこう多いんです。例えば、子育てが一段落したものの、数年くらいファッションからは遠ざかっていて、今さら百貨店の婦人服売り場で一から服を買うのはハードルが高いと感じる方、など。

――年齢に合ったファッションを選ぶのはむずかしいですよね。ひとつ間違えると、もう似合わなくなっているのに、20代と同じような服を着続けてしまう。

小谷:サービスを始める前は、20代半ばから30代半ばくらいまでのお客様がメインになると考えていたんです。でもサービスを始めてみたら、40代の方もたくさん登録してくださいました。

30代〜40代で仕事も家事もがんばりながら、自分に合う服を選ぶというのは、女性にとって想像以上に心の負担になることなんですね。それは、スタイリストさんへの相談内容を見ていると、強く感じます。その悩みに、私たちは真摯に応えていくべきだと考えています。

――スタイリストの提案、そしてそれにまつわるやり取りそのものが、エアークローゼットの大きな価値なんですね。

膨大な数のコーディネートを支えるシステム

――エアークローゼットの提案するコーディネートは、どちらかというとコンサバ系、オフィスカジュアル寄りですね。

小谷:基本的には1着1万円弱から4万円くらいで、百貨店やファッションビルに入っている国内のブランドのアイテムをメインに取り扱っています。ブランドさんに協力をお願いして、毎月、数千着という単位で仕入れをしています。それでもまだ在庫が足りなくて、数千人の方々に有料会員登録をお待ちいただいているような状態です。

――サービスを利用したい、という人が数千人も待機しているんですね! 会員数を増やせるかどうかは、アイテムの在庫量にかかっている、と。

小谷:選べる服が充分にないと、お客様に適切なコーディネートが送れませんから。毎週、在庫を増やした分だけ有料会員になっていただいているのですが、待機する方もまた増えるので、まだお待ちいただいている方がいらっしゃる状況です。

――膨大な量のアイテムを、どのようにコーディネートして、ユーザーに送っているんですか?

小谷:寺田倉庫さんと提携しておりまして、東北にある倉庫にエアークローゼットが所有するアイテムが、何万着と保管されています。それを東京にいるスタイリストさんたちが、システム上で検索して、ユーザーさんの過去データや登録されている好みを考慮して、コーディネートするんです。その指示を倉庫に送り、アイテムを箱に詰め、ユーザーさんにお届けするという流れになっています。

2020年までに、17万人の月額会員を目指す

――コーディネートも発送も手作業ということは、ユーザーがさらに増えた場合、対応するのが大変そうです。

小谷:まさに、そこが課題なんです。私たちは2020年までに、17万人の月額会員を目指しています。1ボックスで1コーデ・3アイテムを送るので、1回の郵送につき17万コーデ、54万着を送ることになります。そして、月3回交換するとなると、月間54万コーデの、162万着をお送りすることになる。

――162万着……!

小谷:162万着を選ぶためには、さらに大量の在庫が必要です。さらに、年間ずっと同じアイテムから選ぶわけじゃなくて、春夏用と秋冬用が必要となります。それはいったいどこに保管するのか。

しかもアイテム管理も、普通のECよりはるかに煩雑なんです。例えば、通常だと同じブランドの同じ型の同じ色のアイテムって、1000着あってもひとつとカウントできるんです。でも、レンタルで扱う場合は、同じブランド・同じ型・同じ色のアイテムでも、レンタル何回目の服かで価値が変わる。すべて個別に管理しないといけないんです。

――たしかに、くたびれ具合が変わってきますもんね。

小谷:アイテムを個別に管理して、お客様にお送りして、クリーニングして、ダメになったら破棄して、というサイクルも、現在は安定してまわっています。でも会員17万人を目指すなら、もっとブレイクスルーを起こさないといけない。スタイリストさんのコーディネートをサポートする機能も、「このワンクリックを省いてほしいんです」といったスタイリストさんからの要望をエンジニアに伝えて、日々改良しています。

エアークローゼットが変える、ファッションの “当たり前”

ーーこれから、エアークローゼットはどう展開していくのでしょうか。

小谷:3つの方向性を考えています。1つ目は、アクセサリーや帽子、靴などの周辺アイテムのレンタル。アクセサリーのレンタル事業を事業譲渡してもらうなど、準備を進めているところです。2つ目は、ラインナップの追加。利用者さんからの要望が多いのは、キッズや旦那さん向けの服、そしてマタニティです。3つ目は海外進出。特にアジア圏ですね。コーディネートもセットになった日本のファッションは、アジアでニーズがあると確信しています。

――エアークローゼットが普及すると、世の中がどう変わると思いますか?

小谷:衣食住でいうと食事っていまや、「ここから徒歩10分以内で、客単価が4000円くらいの、評価がけっこう高いお鮨屋さん」を探すのが、すごく楽になりましたよね。ぐるなび、食べログ、Rettyなど、自分のいま食べたいものを見つけるためのサービスが、いくつもでてきたからです。それに対して、ファッションはどうか。

自分に似合うものを、納得できる価格で手に入れられる場所を探すのは、まだまだ時間がかかります。そういう意味で、ファッション業界はITの力によって、この5年以内に大きく変わるのではないかと思っています。エアークローゼットはその一つです。

今後起こる変化の一つが、消費者がもっとリスクを負わずにファッションを楽しめるようになる、ということ。これまでは、買ってみないと手持ちの服と合わせてみることもできなかったし、長時間の着心地を知ることもできなかった。でも、エアークローゼットで試した上で買い取れば、失敗のリスクを負わずに、気に入ったものだけを買うことができるんです。

他社のファッションレンタルサービスが増えていくことも、私たちとしては歓迎です。業界が盛り上がるということは、ファッションレンタルへの入り口が増えるということ。自分でアイテムを選べるレンタルや、高級ドレスに特化したレンタル、ブランドバックのレンタルなど、サービス内容で住み分けもできると思っています。よいサービスを提供できるよう、お互いに切磋琢磨していきたいですね。

そしてエアークローゼットによってファッションレンタルが当たり前になり、どんな人も手軽に似合う服に出会える世の中になれば、そんなにうれしいことはありません。

(崎谷実穂)

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