世界2位となる約12億の人口を抱えるインド。IT産業の発展も目覚ましく、グローバルに活躍する人材を多く輩出しながらも、いまだカーストと呼ばれる身分制度を残すという、いびつな社会構造を持つ国でもある。また、女性蔑視の風潮も根強く、集団レイプ事件のニュースも後を絶たない。

そうしたなか、日本のNGO「Girl Power(ガール・パワー)」がインドの少女を対象に衛生教育や布ナプキンを提供する「Happy Pad Project」が注目されている。Microsoftによる世界的キャンペーン「Upgrade Your World」のパートナーNGOにも選ばれた「Girl Power」が展開した同プロジェクトの概要について、代表理事の池内ひろ美さんに話を聞いた。

インドでは生理や妊娠の仕組みが知られていない

――「女性が自分らしく、自由に生きる」社会を目標に、グローバルな活動をされているGirl Powerですが、インドで展開する「Happy Pad Project」とはどのようなものでしょうか?

池内ひろ美(以下、池内):「Happy Pad Project」は、インド南部タミルナドゥ州の少女たちに生理用品と衛生教育を届ける途上国少女支援のプロジェクトです。Girl Powerが販売しているチャリティ・グッズや、チャリティーパーティーの収益を活動費に充てています。具体的には、現地NGOスタッフが開発・製作する布の生理ナプキンを寄付するとともに、公立学校でワークショップを開いて、11歳から14歳の少女に初潮や生理、妊娠の仕組みを教える活動になります。

「Happy Pad Project」で提供されている布ナプキン

「Happy Pad Project」で提供されている布ナプキン。下着に乗せてスナップで留めるという仕組みで洗浄すれば再利用できる。経血の吸収部分はオーガニックコットンで、石油製品は使用していない。

――今回、「インド」そして「衛生教育」に着目されたのはなぜでしょうか?

池内:インドは女性の地位が低いだけでなく、月経や妊娠の仕組みを理解している女性が極めて少ない状態です。なぜ自分の身体から毎月血が流れているのか、知らない女性が圧倒的多数なんです。たとえば、母親をガンで亡くしたある少女は、初潮を迎えてから月経がある度に「これはガンのせいで、近い将来母親と同じように自分も死ぬんだ」と思い込み続けていました。

――どこかで情報を得られなければ、メカニズムを知ることはできませんよね。日本ではそうした知識を保健体育の授業などを通して身につけますが、インドの学校や家庭で教えることはないのでしょうか?

池内:インドでは学校教育で授業の時間を設けてはいませんし、家庭教育でも伝えられていません。それは、母親自身が月経のメカニズムを知らないまま10代前半で結婚しているからです。月経はもとより、性交渉によって妊娠するということすらも分からないまま出産している女性たちがほとんどで、月経から出産までのつながりを知らないんです。

私たちが現地視察に訪れたとき、ワークショップの最初に「初潮」や「妊娠」を知っているか尋ねましたが、知っていた少女は約30名のうち1人しかいませんでした。認知度の低さを目の当たりにしたことで、ワークショップを地道に続けて普及していく必要性を痛感しました。

池内ひろ美さん

池内ひろ美さん

初潮が始まると学校に行けなくなることも

――これまで、インドで同内容のワークショップを行う団体はなかったのでしょうか?

池内:インドはNGOやNPOが数多く活動する国のひとつですが、生活インフラや教育の向上、女性の職業訓練といった内容がほとんどです。女性の身体のメカニズムを周知させていく活動は少なく、「Happy Pad Project」のような活動は希有であるといえます。この課題に取り組んでいるインドの現地NGOは10団体ほどと聞いていますが圧倒的に少ないですし、規模も小さい。また、欧米日本のNGOでこの問題に積極的に取り組んでいるNGOは、ほとんどありません。そこで、私たちが率先して実施していこうという思いにいたりました。このプロジェクトを必要としている女性は、インド国内だけで2億人いると言われています。たとえば、布ナプキンだけ渡しても、しっかりとした衛生教育が伴わなければ普及しません。両方が必要だということで、このプロジェクトを発足したかたちです。

――今回、生理用品を寄付するのではなく、布ナプキンを開発するという方法を取られたのはなぜでしょうか?

池内:日本で多くの女性が使用しているナプキンは、石油製品です。つまり、廃棄から焼却までがしっかり行われることが前提になります。インドでは、まだインフラが整ってない地域も多いため、処分しきれず不衛生な状態で捨てられる可能性が高くなります。私たちの文化の中で当たり前だからと、異なる文化圏に持って行っても受け入れられません。細かいことですが、布ナプキンの色味や柄などのデザインも現地スタッフが手掛けました。

鮮やかなカラーの布ナプキン

布ナプキン

――女性特有の身体の機能を知らないと、自分をいたわることもできないと思うのですが、そうした知識は不要とされているということなのでしょうか?

池内:残念ながら、インドでは「女性は価値が低い」と考える人も多いです。月経は、命を生み出すための準備ですから、本来は価値が高いことですよね。それが多くの途上国では、ただただ汚らわしいこととみなされてしまう。月経中の少女を家畜小屋に放り込む国もあります。生理に対する理解がなく強い偏見のなかで、初潮が始まると学校に通うことができなくなる少女もあります。そのような少女は二度と学校には戻ってきません。月経によって教育の機会を失うなどあってはならないことです。

日本で寄付などの意識を高めるためには?

――歴史を紐解くと、日本でも女性に教育は必要ないとされていた時代もありましたし、月経も長きにわたって汚らわしいものとして忌み嫌われていましたよね。その辺りの差別や偏見については、いまの日本では払拭されたように感じるのですがいかがでしょうか?

池内:日本でも「女に教育は必要ない」とする文化は、昭和50年代頃まで続いていました。私が高校を卒業した頃でも、女子は四年制大学ではなく短大への進学が当然と考える親世代が多くいた時代でした。その後、男女雇用機会均等法ができて、風向きが変わったと思います。

いまの日本では女性に対する分かりやすい差別や偏見は少なくなったように感じますが、やはり政治や経済などでトップを目指すと風当たりは厳しいですよね。だからといって、女性が被害者だという見方をするのではなく、女性自身も意識を変え、「システムを変える余地がある」と考えるべきだと思います。制度を変えることはもちろん大事ですが、マインドセットを変え、意識や文化を変えることは時間がかかることではないでしょうか。

――意識や文化という意味では、寄付やボランティア活動に積極的に関わる人についても“意識が高い人”ということで、特別視される傾向にあると思うのですが、どのように感じられますか?

池内:たとえば、寄付でいえば以前は「赤い羽根募金」しか日本人は知らないと言われていました。ただ、伝統的に寺院や神社がNPO的な役割をしていた面もあり、そこに対して寄付をすることで弱者救済につなげる文化もあります。神社仏閣の瓦や提灯に名前を入れてもらう寄進やお布施もありますよね。日本でチャリティやボランティア活動を行うのであれば、そうした意識や文化の特性についての理解も必要だと感じています。

たとえば、Girl Powerではオリジナルの時計やTシャツを販売して、その価格のなかに寄付が含まれているというかたちも取っています。この時計は女性に人気ですが、私たちは女性支援団体なので「女性に理解していただき、男性にも支えていただける」活動が大切だと考えています。

Girl Powerで販売する、男女兼用のオリジナル時計

Girl Powerで販売する、男女兼用のオリジナル時計

活動をする側も工夫が必要になるはずです。欧米だとNPOが学生の就職人気企業のトップ10に入ってくるので、日本もいずれはそうした団体が出てくるはずですし、Girl Powerも若い人たちに目指していただける団体となるよう努めたいと思います。

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Girl Power

末吉陽子

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