平成25年度におこなわれた犬猫の殺処分は、日本全国で12万8000頭。単純計算でも、毎日、日本中で350頭からの犬猫が殺処分されていることになる。そんな中、殺処分ゼロに取り組む自治体が増えてきた。25年度には、熊本市、札幌市、神奈川県が犬の殺処分ゼロを達成。そして翌26年度、神奈川県は犬猫ともに殺処分ゼロとなった。川崎市や横浜市など数市を除いて県全体を広範囲にわたって管轄している県の動物保護センターが殺処分ゼロを達成したのは、神奈川だけである。

そこには、どんな取り組みがあったのだろうか。神奈川県動物保護センターの業務課長で、獣医師の秋山雅彦さんに話を聞いた。
2016-1-19-kameyama

処分するほうも辛かった

――県として犬猫ともに殺処分ゼロは初めてのことですよね。

秋山雅彦さん(以下、秋山):私たちは、特に「殺処分ゼロ」を声高に訴えてきたわけではないんです。収容数を減らし、譲渡数を増やす努力をした結果として「殺処分ゼロ」となったということです。私も獣医師ですから、殺処分はとてもつらいです。それは、こういう仕事に従事している獣医師共通の認識だと思います。

――神奈川県は、いつからどうやって取り組んできたのですか?

秋山:とにかく、なんとかしなければという思いは職員たちにありました。それが現実にゼロに向かっていったのは、平成20年に「神奈川県動物愛護管理推進計画」が策定されてから。職員全体が本気になっていき、積極的に動物愛護団体と密接な関係を築き始めた。

犬猫への思いでボランティアと協働

――動物愛護団体やボランティアと行政って、相容れないイメージがありますよね。

秋山:それまでは神奈川県でもそうでした。でも犬猫にとっていい環境で過ごしてもらいたい、殺処分をなくしたいという気持ちは同じです。だからお互いに協力し合っていくことが、動物にとっていちばんいいことなんです。

ボランティアとの協働で、われわれが心したことは、とにかく幹部職員も含めて、顔を突きあわせて話すこと、できることはすぐやること、一緒に考えて課題を明確にすること、ボランティアが困っているときこそ親身になること、などなど。結局、いかに信頼関係を築くかということが大事なんですよね。

研修会を開催、合同定例会議も

――ボランティアの方たちと職員が一堂に会することもあるんですか?

秋山:年に一度、みんなで会議をします。あとは法律が改正されたときに研修会をしたり、ときには動物行動学の専門家を招いて勉強会をしたり。

※現在、動物保護センターに登録しているボランティアは、譲渡に関しては個人20名、団体26。譲渡にあたって、シャンプーやトリミングをしてくれる個人が9名いる。また、動物飼養や愛護の心の育成などを啓発する団体が1つ。保護センターでの保護期間は5日。法律上、その5日が過ぎると殺処分していいことになっているが、もちろん、センターではそうしない。

県全体で取り組む姿勢が強まった

秋山:犬猫の多くはボランティアに引き出されていきます。そしてボランティアの方たちが、譲渡会を開いて、県民に犬や猫をもらってもらう。とはいえ、右から左へはいどうぞというわけにはいきません。ボランティアの方たちは、譲り受けたいという方たちに面会し、家庭にも行って飼育環境を確認する。それでようやく譲渡という段取りになります。もちろん、ここ保護センターでも月に1度、譲渡会をやっています。

――県は、ボランティアにどういうバックアップをされているんですか?

秋山:予算がないからお金の支援はできませんが、たとえばある団体が、人の多いところで譲渡会をしたいと言ったことがあるんですね。その話が黒岩祐治県知事に伝わり、県知事が県庁の駐車場を開放してくれた。そうやって、県全体で取り組んでいこうという姿勢が強まっています。

――平成26年度に収容した犬の数は約500頭。10年前の3分の1ですが、そのうちほとんどが引き取りではなく、迷い犬ですね。

秋山:ええ、しかも成犬です。飼われていたけど、何かで首輪が抜けて脱走するケースもよくあります。この場合は、飼い主に戻すために、保護センターがホームページで呼びかけています。どこへ連絡したらいいかわからないという飼い主さんもいるんですが、警察、保健所、動物保護センターのどこかでわかるようになっていますから、とにかく連絡をいただけるとありがたい。

最近多いのは、飼い主が高齢、病気、死亡などで飼えなくなるケースです。ひとり暮らしで親戚もいないとなると、こちらで保護するしかありません。

動物の問題は、人間の問題

――飼い方も考えないといけませんね。

秋山:そうなんです。ですから、うちでは動物保護だけではなく、動物愛護普及事業、人と動物とのふれあい活動も積極的におこなっています。譲渡前、譲渡後の講習会、犬のしつけ教室もやっていますし、さらに子どものうちから動物に慣れ親しんでほしいという思いから、動物ふれあい教室や夏休み飼育体験教室もあります。

――動物の問題は、つまるところ、人間の問題なのかもしれませんね。

秋山:ええ。神奈川県は、環境省が作成した「宣誓! 無責任飼い主ゼロ宣言!!」というパンフレットに、神奈川県の名前を入れさせてもらい、配布しています。それに書かれているように、犬や猫の飼い主は、動物の命に責任をもつと同時に、社会に対してもきちんと責任をもたなければいけないんです。

それが保護センターの引き取り数を減らすことになり、殺処分をなくすことにつながるんですから。具体的には避妊・去勢手術をすること、首輪や迷子札ももちろんですが、マイクロチップを推進しています。

猫への取り組みと課題

――猫については、どういう対策をとっているんですか?

秋山:猫もここ2年ほど600頭前後を収容しています。地域猫制度をとっている自治体もありますが、地域全体で飼うこの制度はむずかしいんですよね。猫が嫌いな人、関心がない人の理解が得られないことが多くて、神奈川県でも、どうしたらうまくできるか検討しているところです。

現状はやはりボランティアさんから一般の方への譲渡が多くなっていますね。生まれたての子猫が捨てられていたケースでは、とにかく早くボランティアに一時的に預ける工夫をしています。3、4時間おきにミルクを与えないと命に関わりますから。その後、ボランティアから譲渡されていくケースが多いですね。

――これからの保護センターの課題はなんでしょうか。

秋山:殺処分ゼロがニュースになったことで、逆に神奈川県はボランティア頼みじゃないかという批判もされています。私たちとしては、もちろん行政の手柄にする気などありません。ボランティアとの協働によってできたことだし、ボランティアのみなさんにはいつも感謝している。これからは、より収容数を減らしていくことや、行政からの譲渡を増やしていく努力をしなければと思っています。

殺す施設から、生かす施設へ

――保護センターを建て替える話も出ているんですよね。

秋山:ええ。ここは昭和47年の建物ですから、かなり老朽化しています。もともとは「処分するための施設」ですから、動物を収容している環境もよくない。だからボランティアへの引き渡しも早めている面もあります。

3年後には、動物を生かすための施設を作りたいと思っています。今のタイミングでなければ、新しい施設を作るのはむずかしくなってしまう。財源は寄付です。より多くの人に関心をもってもらうために、寄付がいちばんだと考えました。知事を先頭にPR活動にも力を入れていますので、ぜひ募金をお願いしたいと思っています。

本来、家族として愛されるべき動物たち

殺処分ゼロといっても、収容している間に病死する犬もいれば、低体温症で死ぬ猫もいる。病気やケガがひどい場合は、安楽死を選ばざるを得ない場合があるが、たまたまそういう状況がなかったということで、結果的に「殺処分がゼロ」になった状態なのだ。

神奈川県動物保護センターでは、犬猫のみならず、ガチョウやカメ、ウサギなどさまざまな動物を収容しており、こういう動物も希望者には譲渡している。2万平米という広い敷地は、動物にとって悪い環境ではない。ただ、本来、ペットは家族として愛されるべき存在。収容されている犬の潤んだような瞳が、「どうしてボクはここにいるの?」と訴えているように感じられてならなかった。

動物保護センター建て替え寄付に関してはこちら

(亀山早苗)

亀山早苗

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