昨年11月、資生堂が、子育てを理由とした短時間勤務中の美容職社員に対して、普通の社員と同様に、遅番や土日勤務、ノルマなどを求めるという方針転換をしたことが話題になった。この方針は「資生堂ショック」と題して、「おはよう日本」(NHK)で放送された。放送後には、「女性に優しいはずの資生堂が、時短勤務者に冷たくなった」「時短勤務者だとしてもその会社に必要な人材だと思わせるような良い施策だ」などといった賛否の声があがった。

「仕事と生活の調和」を意味する「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が日本でも浸透し始めたのが2008年頃。政府は、出生率向上や男女均等政策、非正規労働者政策といった文脈でこのワーク・ライフ・バランスに関する取り組みを推し進めているが、未だ我々が実感するところまでは来ていない。多くの女性にとって、フルタイムで働くか、子どもを産み育てるかを二者択一と考えざるを得ない状況だ。

私たちが目指すべきワーク・ライフ・バランスとはどのようなものなのか。また、女性だけでなく全ての人が働きやすくなるために企業が考えていかなければならないことはなんなのか。今回は、数多くの会社のコンサルティング事業を手掛ける、株式会社ワーク・ライフバランスの永田瑠奈さんに伺った。

男性上司の意識改革が必要不可欠

――株式会社ワーク・ライフバランスさんは、企業の働き方に関するコンサルティング会社だとお聞きしました。具体的にはどのような取り組みをされるのでしょう。

永田瑠奈さん(以下、永田):企業様に直接お伺いして社員さんの働き方を見た上で、何が問題かを一緒に抽出して問題解決策を考えていくことが弊社の主軸であるコンサルティングの手法です。管理職と言うとまだ男性が多いですが、彼らに向けた研修や経営者だけが集まる場で講演をすることもあります。

――社員さんの働き方に関して、企業側からはどんな問い合わせがくることが多いのでしょう。

永田:ここ数年の変化では女性社員向けにキャリアアップ研修をしたいという問い合わせがとても多くあります。ただ、女性だけにフォーカスした施策は、周囲から「女性はいいよな、研修や制度も充実していて」なんて思われてしまったりするので、そうした問い合わせに関して私たちとしては、女性を特別扱いするような取り組みをしてはならないと思っています。

例えば、キャリア志向の女性たちのキャリアアップを目的としたとしても、その女性たちだけを集めることが解決策ではありません。弊社では、次の女性管理職の育成を目的とした「ネクストリーダー研修」というものも行っているのですが、まずは当該女性社員の男性上司たちとの時間を設けて、彼らにアプローチをしています。そうしないと、彼女たちにいくらインプットしたとしても上司や周囲の理解が変わらないと本人の評価は上がらず、苦しくなるだけ。なので、そうした男性上司から意識改革をするような順番を踏むことは必須となってきています。

短時間で成果を上げる人を評価すべき

――今はまだ男性管理職が多いのが日本の現状ですが、彼らの意識を変えていく中で共通して言えることはありますか。

永田:今の40代~50代の若い頃というのは「人口ボーナス期」と言われる、15歳~64歳の生産年齢人口が、それ以外の人口の2倍以上いる時代でした。当時は労働人口が多く、消費も活発になるため、時間を掛ければ掛けるほど成果が出る、社員が働けば働くほど会社は発展、日本全体は高度経済成長が見込めていたわけです。こうした成功体験があるため、今、ワーク・ライフ・バランスと聞くと「早く帰るということは質を下げ、売り上げを下げろということか」と思ってしまう男性管理職、経営者の方は非常に多くいらっしゃいます。

彼らは決して間違っているわけではなく、当時の成功体験を引きずってしまっているだけなんです。なので、意識改革としてはまず、「時代や人口構造が変わったので働き方の考え方も並行して変えていかなければならない」ということをお話して、理解してもらうことがとても重要になってきます。そういう話をすると、「ワーク・ライフ・バランスは俺たちを否定しているんじゃないんだ」と安心する方が多いですね。

――彼らが若い頃に成果を上げてきた働き方と、今後目指すべき働き方の違いを教えてください。

永田:まず、これからは労働人口が一気に減っていきますが、それと同時に時間の制約とともに働く人が大前提になります。あと数年で、第一次ベビーブームであった団塊世代が一気に75歳以上の後期高齢者となるので、その子どもたちである団塊ジュニア世代の方々、つまり多くの企業の経営層や管理職層が自分やパートナーの親の介護のために仕事を休まざるを得ない状況になっていきます。今まで休むことや短時間勤務は女性のネガティブポイントのように思われてきましたが、男性にとっても必要な状況が当たり前になっていくでしょう。もちろん、育児をしながら働く時短勤務者も会社にとっては大事な働き手になってきますから、会社にとっては男性も女性も時間的な制約を当たり前に持つ時代になっていくはずです。

今の男性管理職が若い頃というのは、年度末や月で締めて、その中で一番成果を積んだ人を評価する「期間あたり生産性」というやり方でした。つまり、あるだけの時間をつかって高い山を詰めた人が勝ち、時短勤務、休業日数が多い人は戦力外通告されたようなものだったわけです。一方、これからの日本に必要なのは「時間あたり生産性」、時間あたりにどれだけ高い山を積めたか、という評価の方法です。全員が同じ時間の中で勝負をするので、残業という切り札を使うのはルール違反。より短時間で高い成果を出せた社員が評価されるので、時短勤務かどうかは関係なく、全員が平等な決まった時間の中で働くことで全員がモチベーションを下げることなく成果を出していくことができるわけです。

これは社員だけでなく会社にとっても必要なことで、例えば5人がフルに仕事を持っているチームでは誰も休めず、誰かが休めば他の人が死にもの狂いで負担をしなくてはなりません。だからこそ、これからは3人で5人分の仕事を回せる仕事の仕方を今から見つけ、多様な人がそれぞれ最大のパフォーマンスを出しながら、マルチで働けるようになっていかなくてはいけないんです。

「資生堂ショック」は誤解されてる

――そのお話を聴くと、「資生堂ショック」もメディアで騒がれているような女性に冷たい施策ではなく、全ての社員が平等に評価されるための施策だと感じます。「資生堂ショック」についてはどうお考えになりますか。

永田:その通りで、情報が切り取られて伝わっている気がしています。決して女性を甘えさせないという方針ではなく、彼女たちのモチベーションを挙げてパフォーマンスを引き上げ、会社の売り上げを上げていこうというのが目的だと思います。

時短勤務者は、今までは「時短だからと重大な仕事は任せてもらえない…」「頑張っても、長時間働ける人より成果を上げるのは難しい…」と、モチベーションが下がることしかありませんでした。女性が多い組織として、そうしたモチベーションダウンの状況を一刻も早く解消し、どんな状況の社員も全員が最大のパフォーマンスを発揮できる環境をつくらないとこれ以上の発展はないと考えたのではないでしょうか。残念ながら、今の日本では「フルタイムで頑張れる人には仕事を任せるけども、産休や育休で戻ってきた女性には大した仕事は任せられないからこれまでとは異なる部署に行ってもらう」といった島流しのような状況がまだまだ存在します。資生堂の動きは、女性たちが会社に戻ってきても、以前と変わらぬ高いモチベーションで働いてもらえるようにする施策だということを皆さんにはご理解いただきたいですね。

――資生堂のように、全ての社員に一律の労働条件を与えるという企業は増えてきているのでしょうか。

永田:まだまだかなり珍しいと思います。これまでも、資生堂は他の企業に先駆けて育児休暇や短時間勤務を導入してきましたから、先ほどお話したような今後の労働人口を意識した上でどう会社が生き残っていくかを考えているからこそ、経営戦略として今回の制度を導入したと見ることができるのではないでしょうか。

ただ、そうした制度を導入するのであれば、絶対に気を付けなければならないのが「コミュニケーション」という問題です。もしも、チーム内のコミュニケーションがとれておらず、関係の質が低いままであれば、「時短勤務の人は自分のスケジュールや都合で働けていいよね。その分もっと沢山仕事をしてもらおう」なんて思ってしまう方もいると思います。

先日お伺いした小売りの企業さんでは、「コミュニケーションが取れている店舗ほど売り上げも上がっていて、関係が悪い店舗ほど売り上げもあがっていないし残業も多い」と伺いました。関係の質を高めて、お互いに助け合いたいと思える環境を作ってから、こうした制度を使ってチームや部としての働き方をどうしていくかを考えていくことが必要になってくると思います。

【後編はこちら】「長時間勤務=無能」の時代がくる ワークライフバランスの真のメリットとは

石狩ジュンコ

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