弟の包茎手術、オムツ風俗での面接……衝撃的なエピソードがたんたんと綴られる漫画エッセイ『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)が好評を博している。

著者のまんしゅうきつこさんは、同書の元になったブログ「オリモノわんだーらんど」で注目を集め、昨年には初の単行本『アル中ワンダーランド』を刊行。“アル中だった美人漫画家”としてメディアに露出し話題になった。

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『まんしゅう家の憂鬱』にてエンターテイメントとして昇華されている家族について、まんしゅうさんは「全くやすらげない集合体だった」と本音を明かす。近年、「家族のあり方」への議論が活発になっているが、彼女はどんな思いを抱えているのか。また、同書には「ストーカーになった元カレを撃退するため変装していたら、本当に変人になってしまった」というような恋愛エピソードも多く描かれている。恋愛観はどういうものなのか? インタビューを実施した。

『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)

『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)

ブログで注目されて「もうやめよう」と思った

――まんしゅうさんがブレイクしたきっかけであるブログ「オリモノわんだーらんど」が注目されてから、数年の歳月を経ての書籍化となりました。今のお気持ちはいかがですか。

まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう):ようやく肩の荷が下りたという感じですね。最初に書籍化のお話をいただいたのは2012年の初夏だったんですが、ブログを紙の本にすることを、私がしぶっていたんですよ。ブログって、スクロールをすると絵が現れるという表示のされ方なので、びっくり箱のような感じがあるでしょう。その見え方を紙で再現することができるのか、この3年半、嫌な宿題を抱えている気持ちだったんです。だから、ストレスが一つ減って良かった(笑)。

――ブログのアクセス数が増えていったときはどんな心境でしたか?

まんしゅう:私はあまのじゃくなので、嬉しさよりも「早くブログをやめよう」と思いました。ブログの反響は最初、見てくれた編集さんからちょっとしたイラストのカットの仕事をふってもらえるという程度だったんですけど、だんだん読者から辛辣なコメントもついてきたんです。「ぽっと出」って、叩かれるじゃないですか。そういうこともあって、もうやめようって。

私、今までそうやってすぐになんでもやめてきたから、「ブログ本はやめようと思う」と弟や妹に言ったら「あんた、またやめるの? また逃げるの?」と言われまして。それで、これくらいはちゃんとやろう、ブログ本はきちんと出そうと思い直したんです。今は読者から何を言われてもへっちゃらになりました。慣れですね。

ブログはポジティブなバイブスが出ていた

――今回、書籍化にあたって気をつけた点や心がけた点はありますか?

まんしゅう:ブログに載せた漫画は、紙に印刷できるサイズではないので、実は全部描き直したんです。だから書籍のほうがしっかりした絵になっています。自分では、ブログに載せていた線のつたない絵のほうが内容に合ってたかも、と思いますね。下手なりに自分で笑いながら描いていたので、ポジティブなバイブスが出てたかなと。それが薄まってしまったかなあ、とは思います。下手な絵と文章のバランスってすごく微妙なところでおもしろさを生み出したりするじゃないですか。

——たしかに、ヘタウマというか、つたなさが味だなと感じる漫画はありますね。

まんしゅう:書籍化の原稿は最初、弟の事務所でお菓子を食べながら描いていたんです。そしたら、急にバーンとドアが開いて弟が入ってきて。「お前、今何やってんの?」と聞かれたので「ん? 『まんしゅう家の憂鬱』だよ」と答えたら「それ、すっげぇ大事な原稿じゃん。お菓子なんて食ってんじゃねーよ」と言うと、椅子を私の後ろに持ってきて座って、ずっと腕組みしながら「昨日の線と違う」など言いながら監修を始めたんです。ちょうど、『包茎手術 その2』の決闘のシーンあたりからです。

――弟さんは漫画にもよく登場されますね。ストーカー化してしまった元彼をあきらめさせるために、まんしゅうさんが頭のおかしい人のフリをした「ピンチはチャンス」の章でも、それが演技であるとに気付いていたのは弟さんだけだったとか。弟さんとは関係性が強いのでしょうか?

まんしゅう:それもありますけど、弟は野生児のように勘が鋭いんですよ。地震が起こる前に野生動物がいなくなったりするじゃないですか? そういう感じで。やってることもスピリチュアルな感じがしますね。本人はスピリチュアルは大嫌いと言い張ってるんですけど、朝日を浴びて瞑想をしてて。「それ、スピリチュアルだよ」と言っても、「いや、違う」と(笑)

――そもそも、家族のことを描こうと思ったのはなぜですか?

まんしゅう:友だちから「まんきつさんの家族の話を聞いていると、お金の匂いがするからブログをやってみれば?」と言われたのがきっかけでした。

基本的に執筆の許可は取っているんですけど、ただ、父が弟や弟の友達と決闘をするシーンのある『包茎手術 その2』を描いたときは内緒にしていました。うちの父、とても怖くて……。その後、ブログで「包茎手術 その2」を見た父は「俺はこんなに殴られていない。俺の方が優勢だった」と。父はずっと空手をやっていたので、プライドもあり、強いと思っていたようです。ブログでは、父の目の周りにアザを描いてしまっていたのですが、「俺はアザなんてできていない」と言われ、書籍の方では消しています。ただ、決闘の翌日に松葉杖をついていたのは本当です。弟は「さすがに顔は殴れないから」と、父の足ばかり狙ってローキックをしていたそうで(笑)

まんしゅうきつこさん

幼少期から「諦める」くせがあった

――『まんしゅう家の憂鬱』は、まんきつさんが高校生の頃や独身の頃のエピソードが中心です。もっと幼いころはどんな子どもでしたか?

まんしゅう:子どもの頃のことをあまり覚えていないんですよ。辛い幼少期だったので、記憶が消されているんでしょうね。うちの母は弟、妹と立て続けにできたので、弟や妹の手がかからなくなるまで、私は母方の祖母の家に預けられてまして。

――長女であることに何かプレッシャーなどを感じたり、弟や妹と比べられてしまったりしたことはありますか?

まんしゅう:プレッシャーはないのですが、何があっても「お姉ちゃんだから」という理由で怒られていました。幼少期から、なんて世の中は理不尽なんだろうと思っていました。あきらめの境地ですね。私は人一倍あきらめ感が異常に強い人間なのですが、それは小さい頃の育ち方が影響していると思います。だから例えば「彼氏がワガママで〜」なんて話を聞いても「しょうがないじゃん」って思ってしまう。

家族が本当に嫌だったら付き合いを断ってもいい

――世間的に今、「家族」というワードが注目を集めています。まんきつさんは「家族」をどういうものとして捉えていますか?

まんしゅう:そもそも、うちの家族は全くやすらげない集合体だったんですよ。家に遊びに来た友達から「なんでケンカしているの?」と言われるくらい。全然ケンカはしていないし、仲は良いのですが、ケンカをしているような口調なんです。家族はどういうものなのか、私が聞きたいくらいです。

――ご結婚されて、育った家庭とは別の「家族」ができて、その思いは変わられましたか。

まんしゅう:自分が結婚したときに初めて、普通の家族ってこんなに温かいんだと、ものすごいカルチャーショックを受けました。それは妹も弟も結婚したときに同じことを思ったらしく「普通の家族ってすごいんだね」という話をしました。戦場みたいな家庭だったんだなと、振り返ってみて気づいたという。

――現代は家族のあり方も多様化しています。しかし今でも、家族は何よりも大事で、親は敬って……という「家族神話」は残り続けています。親や兄弟にとらわれ過ぎて、例えば親からの結婚しろという圧力に悩んでいる人も多いと思います。まんしゅうさんは家族とどう関わっていけばいいと考えますか。

まんしゅう:家族は温かいだけでなく、生きづらさを抱える原因にもなりますよね。もし、本当に嫌だったら、一切の付き合いを断ってしまっていいと思います。「葬式だけ出る」と決めてしまうとか。経済的な事情もあって家族から離れられない人もいるでしょうから、そういう人には「生きづらさを抱えているのはあなただけではないよ」と伝えたいですね。

破天荒なエピソードが生まれた背景

――『まんしゅう家の憂鬱』には家族ネタのほかに、独身時代の恋愛エピソードも出てきますよね。先ほどもお話した、元彼を振り払うために頭がおかしい人のフリをしたというエピソードとか。そのような発想はどこから生まれたんですか?

まんしゅう:変人のフリをするという発想は後からで、そもそもは変装をすることが目的だったんです。でも、その変装が気持ち悪過ぎたせいで、バスに乗車拒否されてしまったんです。みの虫みたいな恰好をして下駄を履いて、バスに乗らなきゃと走っていたら、私の目の前でバスの扉が閉まってしまった。「ひどい! こうなったら本当に頭のおかしい人のフリをしてやる!」と思ったのは覚えています。

――乗車拒否までされるとは相当気合いの入った変装だったんですね……。男運はあった方だと思いますか?

まんしゅう:結果的にはブログのネタになったので良かったとは思っていますが、周りからは男を見る目がないとよく言われます。私は交際中にそこまで苦痛を感じたことはないのですが、周りから別れた方がいいと言われることが多かった。

ストーカーになってしまった彼は、クオーターの方で、カッコ良くて一目惚れしちゃったんです。でも、バイトもしちゃいけない、ミニスカートも履いちゃいけないと、束縛をしてくる人で、妹から別れた方がいいと言われていました。それまで男の人と付き合ったことがなかったので、それが普通だと思っていたんです。

――恋人を選ぶ際は、見た目を重要視されてきたんでしょうか。

まんしゅう:うーん……そうですね、こんなこと言ったらあれですけど、私は結局、完全に見た目で付き合ってきたかもしれない。だからいけなかったんでしょうか……。「ホヤ」の章に出てくる元彼のM君は、コンビニで見かけて一目惚れでした。昔の金城武みたいにカッコ良くて……。

まんしゅうきつこさん

――独身時代は、脚フェチモデルや一種の愛人のようなバイトもされていたことを描かれていますが、戸惑いや不安はなかったのでしょうか?

まんしゅう:いつか漫画のネタにできればと思っていたんです。だから、話したことも一字一句覚えるようにしていて。「これはいつか私が漫画家になったときに描こう」と。特殊な出来事をネタとして記憶しておくというのは二十歳くらいからずっとやっています。

――日常で常にネタを探しているのですね。ネタ探しに情熱を感じるのですが、まんしゅうさんにとって「仕事」とはどんなものですか?

まんしゅう:イラストを描いたり漫画を描いたりすること自体は大好きなのですが、〆切のある仕事となると、受験勉強が始まってしまったような感覚ですね。できることなら、ずっと眠っていたいです。この間、24時間寝続けてしまって、これは心の病気なのではないかと心配したくらいです(笑)

――破天荒なエピソードが満載の『まんしゅう家の憂鬱』ですが、どんな方に読んでもらいたいですか?

まんしゅう:私は高校生の頃、本当に高校に行きたくなくて辞めたかったんです。そのとき、当時好きな漫画を読んで、今日はこの漫画がおもしろかったから学校へ行こうと思えていました。いつか、自分もそういう風に思える漫画を描けたらと思っていたので、何か嫌なことがある方に読んでもらい、元気づけられればと思います。

まんしゅうきつこ
1975年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部卒業。漫画家、イラストレーター。2012年から始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を集め、2015年4月には『アル中ワンダーランド』(扶桑社)、『ハルモヤさん』(新潮社)を刊行。漫画連載に加え、イラスト執筆やテレビ・ラジオ出演など、多方面で活躍している。

姫野ケイ

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