昨年11月、『猫を助ける仕事』(光文社新書)という本が発売された。NPO法人東京キャットガーディアン代表・山本葉子さんが、ニッセイ基礎研究所不動産研究部長の松村徹さんと共著で書いた本だ。

東京キャットガーディアンは、猫カフェ型開放型シェルターを拠点に「猫の殺処分ゼロ」を目指し、 行政(保健所・動物愛護センター)などから猫を引取り、飼育希望者に譲渡する活動と地域猫活動を行っている。

猫の殺処分数は犬の10倍以上

同著によると、行政の保護施設で殺処分されている猫は全国で毎日300匹に上り、東京では毎日1匹(※犬の10倍以上)という。そこで、東京キャットガーディアンでは年間およそ700匹の譲渡を実現し、これまでに4500匹以上の猫を譲渡してきた。

山本さんは、「足りないのは愛情ではなくシステム」と言う。彼女は、より早くより多くの猫を救えるよう、より潤沢な活動資金を生み出すために、他の同趣旨の動物愛護団体より一歩も二歩も進んだ戦略的な事業を展開してきたのだ。

日本初の「猫付きマンション」を生み出す

2002年に自宅で約30匹の猫の保護を始めた山本さんは、2008年に地域のボランティアと里親探しや不妊去勢手術・啓発の活動を経て任意団体を結成。野良猫の不妊去勢手術と行政から受け入れた猫のケアのための病院の運営を始め、大塚に常設の譲渡会場として日本初の開放型シェルター(猫カフェスペース)を立ち上げた。

翌09年には成猫の引き取りと再譲渡事業を開始し、10年にはNPO法人格を取得して日本初の「猫付きマンション」を生み出した。12年には西国分寺に2つめの開放型シェルターをオープン。譲渡1匹につき、母子手帳ならぬ「愛猫手帳」を配布し始めた。また、迷子猫を見つけてくれた方が識別番号を言えば対応する電話相談先「しっぽコール」の運営や、「そとねこ病院」も始めた。

ペット保険、電話相談…広がる活動

2013年、ペット用品や支援者提供のリサイクルグッズ販売ショップを始め、ペット歓迎の賃貸物件ポータルサイト「しっぽ不動産」の運営も始めた。また、「保護猫カフェ 蒲田とらくん」と業務提携し、保護場所と譲渡業務を委託して、常設の譲渡会場を拡大。NPO法人としては日本初のペット保険代理店業務も始めた。
2014年には日本初の「猫付きシェアハウス」を開始したが、こうした「猫付き」物件は入居者の定着率が高まり、大家さんに感謝されているそうだ。翌15年には企業からの支援を取り付けて、全国からの電話相談に応じる「ねこねこ110番」を開設した。

60匹の猫の医療費は約310万円

こうした多彩な活動を続けるには、常勤スタッフの人件費や食餌・猫砂、医薬品の購入などで年間数千万円のお金が必要になる。

そこで、同NPOが毎月公式サイト上で公表している最新の収支報告(2015年11月)を見ると、約310万円の「運営協力金」が一番大きな収入になっている。これは譲渡時に新しい飼い主から支払ってもらう医療費(※去勢不妊手術代・ワクチン代など)で、約310万円は「およそ60匹分」になるそうだ。

次に大きい収入は「一般支援金」で、約180万円。これは、入場料の代わりに入場者から支払ってもらっているシェルターでの寄付金に加え、支援者からいただいた物資をリサイクルショップで販売した利益が含まれている。

それ以外の収益源はどれも薄利だが、それでも多様なチャンネルがあればこそ、チャンネルを増やした分だけ譲渡の機会を増やしていける。収益そのものより、課題解決の仕組みを増やす目的を優先するのが、ソーシャルビジネスならではの経営モデルである。

シェルターでは、多頭飼育などを実践的に教える「猫カフェスクール」などの有料のセミナーも開催され、人気を博しており、「猫と人の終活勉強会」では「その場で遺言書を書き始める人もいらっしゃいます」(山本さん)。

高齢化や病気で飼えなくなるケースのサポートも

東京キャットガーディアンでは最近、「ねこのゆめ」という成猫の引き取りと再譲渡事業を始めた。

高齢化や病気、転勤、死別など人間側の事情で一緒に暮らせなくなる猫の年齢や健康状態にかかわりなく、満期後はいつでも必要な時に引き受け、譲渡対象になれそうなら再度「お家探し」を(そうでない場合は東京キャットガーディアンが)ケアをしながら終生飼育を約束するという積立制度だ。毎月3800円の積立金を預かり、6年間で満期。途中解約や満期後の解約、一括払いもできる。

殺処分を減らすために保護するだけではコストがかさみ、寄付収入だよりでは活動の持続可能性も危ぶまれる。しかし、事業として成立させようと思えば、「猫を助ける仕事」は作れるのだ。

今一生

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