『電車内の性犯罪をなくしたい! 被害をなくすためにできることは?』トークレポート(後編)

「痴漢されたい女がいる」と思い込む…性犯罪の加害者を生む、社会の歪みとは

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「痴漢されたい女がいる」と思い込む…性犯罪の加害者を生む、社会の歪みとは

トークイベント『電車内の性犯罪をなくしたい! 被害をなくすためにできることは?』レポート後編。漫画家・田房永子さん、ライター・小川たまかさん、モデル・前濱瞳さんが痴漢被害の現状や、なくすための方法を考える。

前編では、小学生から26歳に至るまで痴漢犯罪やストーカー被害が途切れないという前濱さんの経験や、被害者が責められてしまうのはなぜか、などが語られた。後編は、痴漢といえば「えん罪をなくす」ことばかり取り沙汰される現状や、男性も被害に遭うことなどに話が及ぶ。痴漢犯罪がなくならない原因にもなっていると思われる、社会の認識の歪みとは何なのか。

【前編はこちら】小学生が痴漢に遭っても大人に言えない…真っ先に被害者を責める風潮はなぜなのか

痴漢被害が減ればえん罪も減る

小川たまかさん(以下、小川):痴漢の被害を訴えたら「痴漢えん罪の方が怖いだろ!」とか「えん罪事件を調べろ!」って言われる風潮はそろそろどうにかしたい。「痴漢被害が減ればえん罪も減るし、どちらもそれぞれ考えていかなければならない問題」って何回言えばいいのかと。私が気になるのは、痴漢被害よりもえん罪の方をメディアは取り上げたがるいうこと。痴漢被害の実態が語られないまま、知られないまま、えん罪だけがセンセーショナルに取り上げられて、これまでは報道の量に差があったのではないかなと。電車内の痴漢は大都市で多く、被害に遭う年齢も10~20代の女性が多い。子どもも多いんですよね。一部の地域の一部の人が被害に遭う犯罪なので、知らない人は本当に実態を知りません。「電車内の痴漢なんてAVだけの話だと思ってた」とか。

田房:知らないと絶対分からないので、見過ごしちゃうと思うんですよね。たとえば、銀行のATMの前で高齢者がオロオロしながら振り込もうとしていたら、それだけで「もしかしたら振り込め詐欺かも」って周りの人が思う確率高いですよね。心配になって声をかけたり、係員に伝えたり、自分がどう行動すればいいのかもパッと分かる。だけど、痴漢犯罪の場合は「痴漢に遭われた方、駅員にご相談ください」としかアナウンスしない。振り込め詐欺で「電話でだまされてお金をとられた方、ご相談ください」って言ってるだけ、みたいな感じです。

しかも痴漢は「えん罪」についてのほうが詳しく知ってたりするから、周りの人も声をかけるのを躊躇ってしまう。どういう犯行内容が行われているのかをみんなが知ってて、共通した怒りを持ってないと、行動が起こせないですよね。なのに痴漢犯罪の場合は、その「内容」が、AVとかポルノで表現されちゃってるんです。そこでは女の人が快楽を得るみたいな展開だから、そりゃみんなもう、痴漢犯罪の何か悪いことなのか分からないのは当然じゃないかと思う。この社会の構造自体が異常だから。

その背景には、男性の“性”が過剰に肯定されている現状がある。でもこれって被害者は女性だけではなくて、男性もなんですよね。小川さんは「Yahoo!ニュース個人」に男性の痴漢被害についても書かれていますよね。私の周りにも被害に遭った男性がたくさんいるんです。

男性も痴漢被害に遭うことがある

小川:痴漢の話をFacebookでシェアしていると、男性から「自分も被害に遭ったことがある」というメッセージをいただくようになりました。記事に書いたエピソードは全て、男性が男性から被害を受けたケースです。でもその後、「自分は女性から被害を受けた。そういうケースは他にはないのか」という連絡も受けました。男性の場合は、被害を受けたときはショックでも、その後は笑い話にしているというか、飲み会のネタにしているという人が多いですね。周囲も笑い話として受け取ってしまいやすいのだと思います。ただ、一人だけ繰り返し被害に遭ったことですごく傷ついている男性がいて、アンケートに答えてくれなかったですね。思い出したくもないということなのかもしれないです。本当に悲しいことですが、その人はそれをきっかけに同性愛の人も許せなくなったと言っていました。「同性愛の人が全てそういうことをするわけではないとわかっているけれど……」と。気持ちの整理がつかないのかもしれません。

田房:被害をなくすために、周りの人にどう啓発すればいいのかっていうのを考えた時にまず「なんで痴漢をするのか」っていうのを知らないと、何もできないなと思って調べるようになったんです。そのときの私は、きっと痴漢の人たちはやめなきゃいけないのにやめられないって自分の性癖に悩んでるんだと思ってたんです。ところが痴漢が情報交換をするネット掲示板を見て驚いたのは、「痴漢OK子」という隠語があって、彼らの多くが「痴漢をされたがって待っている痴漢OK子を俺が探し出してあげている」って本気で思っていることでした。だけど、確かに思い込んでないと、いくら性的に興奮したとしても、見知らぬ他人に欲望をぶつけるなんてこと、できないなとも思った。

歪んだ確信を持っているっていうのが彼らの異常なところで、他の部分はまともに日常生活を送ってる人がほとんどなんです。

小川:先ほどの「痴漢抑止バッジ」の話で、「意味ないよ」って言っている人たちは、そんなものつけたって男の性欲は止まらないよってことが言いたいと思うんです。でも、実際は性欲が止まらなくて痴漢をやっている訳じゃなくて、理性を働かせてやっている場合がある。「この子なら大人しそうだから声を上げないだろう」とか。

「痴漢に遭う=性的魅力がある」と捉えられている

前濱瞳さん(以下、前濱):たとえば、男性の性欲を理解したところで、何ができるのかっていうとすごく悩みますよね。

田房:男性は性欲があるから仕方ない、っていう大きな前提があるから、「ミニスカート履いている女が悪い」とか「満員電車が悪い」とか「女性専用車両は必要なのか」とか、そこの議論から先に進まないんですよね。ちなみに、もし被害者を見つけた場合は、私は知り合いのふりをして話し掛けて移動するように促したり、男の方にカメラを向けて「撮るぞ」というアピールをしたりします。実際は怖くて撮れなかったんだけど。

前濱:外国では、素敵な子がいたら積極的に話し掛けますが、日本ではあまりないですよね。その抑圧された感情が痴漢という行為で吐き出されているのかなとも思いました。

田房:確かに、「痴漢に遭うイコール、性的魅力がある」って意味として捉えられてる面がすごくありますよね。男から女として認められているからいいことなんだ、みたいな認識が、歪みのおおもとにある。だから裏返しで「ババアは触らねぇよ」というフレーズがセットになってるんですね。

女性専用車両は男女の断絶を作ってしまう

小川:女性専用車両を批判する人もいるんですよね。私はこういう記事を書いているから、女性専用車両支持派だと思われていきなり「男性差別をするな」とかTwitterで絡まれることがあるんですが、女性専用車両については、本当はなくなればいいと思っています。一定数は痴漢被害を防げていると思いますし、性被害に遭ってトラウマを抱えている人を守る意味はあると思う。でも男女の断絶をつくってしまっていますよね。

以前、とある女子大生とベビーカーのための専用車両を作るべきかという話をしていたときに、彼女が「そこを分けてしまうことで、育児をしている人とそうでない人との断絶を深めるだけ」という発言をしていたんですね。それって、まさに女性専用車両でも同じだなと思うんです。女性専用車両をつくったことで、被害に遭う人への理解が深まるどころか、「男性差別だ」「女性が優遇されている」とかっておかしな断絶を招いている。専用車両を作らないと被害を防げないというのは、文化がないというか、野蛮でおかしな状態だなと思います。いつか女性専用車両はいらないという世の中にしないと。でも、痴漢の問題にそれほど関心を持っていない人に、誤解なくそういう話を伝えるのは難しいですね。

前濱:私は前に警察に相談したときに、「そういう星のもとに生まれているから仕方ない」っていわれたことがあります。

小川:何を根拠に言っているんだという話ですよ(笑)。警察のかたが確信をもってそういうことを言うなら、そういう被害者は24時間体制で警護しないといけないんじゃないですか(笑)。

禁煙は当たり前になった。痴漢もなくせるはず

田房:「捕まえられなくてごめんなさい」って言わなきゃいけないのにね。男はストレスを抱えながら必死で働いて、その褒美として女をあてがわれるという認識が社会に染み込んじゃってるのが、痴漢犯罪のなくならない理由の根本だと思う。男は女を支配する、所有するのが当然という感覚を社会全体が持っていて、だから電車の中でもその支配欲が露呈しやすくなっているんじゃないかと思う。30年前はどこででも吸えた煙草が、2016年を目前にした今は禁煙が当たり前になってる。それと同じような変革を起こせば、少なくとも電車内痴漢はなくせるんじゃないかと、私は思っています。

被害者の自尊心を傷つけ、心をえぐる痴漢犯罪。えん罪を生まない、被害者にならないために取れる手段を考えることは大事だが、加害者を作らないようにしなければ根本的な解決にはならない。2時間にわたって繰り広げられた3人のトークを通して、加害者の異常性を正すよう周知していく必要があるということ、そして今以上に深刻に受け止められるべき犯罪だということを再認識させられた。

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