身体に合意なく触れるなど、公共の場で相手に性的な言動を行う“痴漢犯罪”。平成26年は東京都だけでも約2000件の痴漢被害が報告されており、その約56%が電車内で発生している(警視庁・都内における性犯罪の発生状況より)。一向に減らない痴漢の周知と対策を考えようと開催されたのが、トークイベント『電車内の性犯罪をなくしたい! 被害をなくすためにできることは?』だ。

同イベントでは、痴漢をテーマにした作品も手掛ける漫画家の田房永子さん、痴漢被害の実態をまとめた記事が話題になったライターの小川たまかさん、自身も痴漢被害に遭い続けてきたというモデルの前濱瞳さんの3名が登壇。それぞれ、過去の体験についての言及もまじえながら、痴漢犯罪が抱える本質的な問題について議論が繰り広げられた。そのハイライトをレポートする。

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被害を明かしたら「自分も」との声が寄せられた

小川たまかさん(以下、小川):性犯罪について調べるようになったきっかけは今年の初めに「note」というブログメディアに、過去に自分が遭った痴漢被害について書いたことです。その記事が拡散していろんな人に見てもらうことができて、自分や家族も被害に遭ったという反応をたくさんもらいました。田房さんは2011年から痴漢について調査をはじめられていますよね。それはどんなきっかけからでしょうか?

田房永子さん(以下、田房):2011年に「痴漢は犯罪です」っていうポスターを渋谷駅のホームで見たんです(編注:ポスターについてはこちら)。いつも見てるはずなのに、その時は「あれ?」と思った。「このポスターが貼ってあるってことは、痴漢っていまだにあるんだ!」とショックを受けたんです。

10代の頃に痴漢にたくさん遭っていたのに、学校の先生とか大人たちは、「仕方ないこと」って感じで何も助け暮れなかったんです。当時それにすごく怒ってて、でも高校を卒業して制服を脱いだ途端、ぱったり被害に遭わなくなると、痴漢犯罪自体がこの世からなくなった、みたいに思ってしまっていたんです。

ポスターを見たときに、いまの中高生も自分と同じように被害に遭ってるんだということ、しかも自分がいま乗っていた電車内でそれが起こってるかもしれないってことに本当に衝撃を受けました。そして自分が忘れていたということにどうしようもない焦りが湧いて、痴漢撲滅団体に寄付したい! って思ったんです。でもそのときは見つけることができなくて、いてもたってもいられなくて、痴漢被害ってどういうことなのかが書いてある本を探しても、性暴力に関する学術書はあっても、電車内の性暴力だけに特化したものはない。あるのは「痴漢えん罪に遭ったらどうするか」系の本と、あとは全部ポルノ。じゃあ、自分で調べてみようと思って、ブログにアップしたり、本を書かせてほしいと出版社に企画を出したりしていました。そしてやっと2014年に『AERA』で書かせてもらうことになったりしました。

前濱瞳さん(以下、前濱):私はフリーランスのモデルやナレーターをしているんですが、周囲のモデル仲間が小川さんの「note」を読んでいて、そういえばこうした話って誰も言わないなと思って、直接ご連絡させていただきました。私も自分の体験をブログに書いていたので、お送りさせてもらいました。

小学生で被害に遭っても親に言えなかった

小川:ブログに痴漢の実体験を書いたときに、「そんなに痴漢に遭うなんてこの人はおかしい」というような非難も書かれたのですが、前濱さんのブログを拝見したときに、そんな私でさえ「こんなにツラい思いをしてきた人がいるんだ」と驚いてしまいました。私が最初に痴漢に遭ったのは小学生のとき。私の場合は小学生のときは1度だけでした。前濱さんも小学生の頃に痴漢に遭っているんですよね。

前濱:思い起こすとそうですね。私は小学生のときに習い事をしていて、毎週固定の日に電車で通っていたのですが、毎回大人に触られていたんです。親に言おうにもなんて言って良いか分からなくて、ただ嫌だっていう気持ちだけが大きくなって結局習い事を辞めてしまいました。それが初めての痴漢体験でしたね。

いま26歳なのですが、変な人に遭うことやストーカー被害が途切れないんです。ただ、友達に相談しても「モテるからだよ」とか「あなたはそういう人だから」って言われるんです。親に言うことも考えましたが、もし「あなたがそういう格好しているからよ」とか、自分がいけないって責められるのも恐くて、誰に相談するのか分からずに今日にいたるという感じです。

田房:まっさきに被害者が責められる犯罪ってほかにないと思う。私の学生時代、女同士で話してると、痴漢被害に遭うってことが当たり前のようにいつも話に出てくるから、ある日、一度も遭ったことないっていう友達が、「私、女としての魅力ないのかな……」って悩み始めちゃったんですよ。「そういうことじゃないよ」って言うんだけど、じゃあ痴漢に遭うのは一体どういうことなんだっていうのはよくわからない。世間では「挑発する女が悪い」とか「普通の人が魔が差して」とか言ってるし、みたいな。痴漢にまつわる大筋のモラル、つまり「被害者の人権を侵害する犯罪」っていう部分が語られてなくて、むしろ加害者側がかばわれる、つまり「加害者側の人権」を尊重するような流れになってるっていうのが、痴漢犯罪の特殊性だと思います。子どものときから、痴漢行為がなぜダメなのかっていうモラルを、しっかり教えないといけないですよね。

前濱:私が中高生のときには麻薬の断り方を学ぶ講習っていうのはすごくあったんですよね。でも今まで生きてきて麻薬を勧められたことって一度もないんですよ(笑)。その時間に痴漢被害について学べたら随分違っていたんじゃないかと思います。

罪の重さ=被害の重さではない

田房:痴漢に関しては、「ダメゼッタイ感」が薄い。中学生の時、先生に「どうして痴漢がいるのか」って聞いたら「春だからねえ」とかワケのわからないことを言われて、でも世の中の痴漢犯罪の認識ってそういう感じですよね。性犯罪のなかでも色々な基準があって、法律的に決められていることがありますよね。たとえば、挿入したら強姦罪、パンツに手を入れたら強制わいせつ罪、服の上から触ったら迷惑防止条例違反みたいな。誰かが決めたルールなのに、それに沿って、被害の重さも語られてしまう。でも、罪の重さは同じだと思います。痴漢犯罪を軽視してはいけないし、シビアに考えるべきです。電車内で言うと、他人の安全で安心な乗車する権利を侵害して盗む窃盗と同じ。

小川:盗られたものが目に見えないから、訴えにくいですし法律でも量りにくい。通報しない人も多いですしね。

田房:東京の痴漢ポスターは、痴漢の姿が書かれていないんですよね。書かれてるのは、女の人の姿か、警官。「被害に遭われた方、駅員にご相談ください」っていう、被害者へ向けたポスターだから、やんわりテイストで作られてるんだと思います。だから痴漢をする犯人がどんな加害行為をしているのか、知らない人に伝わらない。

漠然としてるから「痴漢するやつは異常者」「そういうやつは一定数いるからしょうがない」っていう考えが浸透したままになってる。それって、痴漢加害者は人間じゃなくて害虫扱いされてるってことなんです。ただ排除するだけって感じ。加害者をどう治療するかという議論もありますが、「女の人が気をつけてください」っていう風潮は変わっていない。

女子高生考案「痴漢抑止バッジ」の現状

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前濱瞳さん

前濱:最近では、痴漢の被害に悩んでいた女子高生が発案した「痴漢抑止バッジ」が注目されましたよね。

小川:このバッジは「被害者も加害者も作らない」ということが画期的ですよね。被害に遭う前にそれを防ぐという。

田房:リアルに困っている女子高生が作ったというのが大きいですよね。

小川:当事者ではない人間が「つけてね」とはいえないバッジですからね。

田房:ただ、こうしたものを当事者の女子高生が作らなきゃいけないという現実がつらい。

小川:確かにそうですね。「そんなバッジつけている人がいたら迷惑」という投稿もネットで見ましたが、それに対して「そんなこと言うのはヒドい」「何が迷惑なのか」というコメントも多かったので前進だと思いました。

田房:「迷惑」ってどういうことだろう? あと、最近は「えん罪保険」という商品も出てきましたけど、そういうのを作る前にやることあるでしょって、思うんですよね。保険会社の人に文句を言ってもしょうがないですけど。

【後編はこちら】「痴漢されたい女がいる」と思い込む…性犯罪の加害者を生む、社会の歪みとは

末吉陽子

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