宝島社『InRed』編集長インタビュー

なぜ大人が「女子」を自称するのか? ファッション雑誌『InRed』編集長が分析

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なぜ大人が「女子」を自称するのか? ファッション雑誌『InRed』編集長が分析

大人の女性を「女子」と呼ぶことは、今や当たり前になった。女子という言葉は、大人だから、女性だからという枠組みを取っ払い、自分らしく振る舞っていいんだと思わせてくれる、ポジティブな力を持っている。

そんな「大人女子」という言葉・概念を生んだのが、宝島社の女性ファッション雑誌『InRed(インレッド)』だ。永作博美や篠原涼子など自然体な著名人が表紙を飾ることが多い同誌からは、肩肘を張らない女性像が浮かび上がってくる。例えば2016年1月号の特集は「スニーカーを極める」。誰かに媚びるのではなく、主体的にファッションを楽しんでいる様子がうかがえる。

30代女子が同誌を支持する理由とは何なのか? また、WEB全盛の今、ファッション雑誌が果たす役割とは何なのか。編集長の箕浦ちさ子さんに話をうかがった。

宝島社『InRed』編集長インタビュー

宝島社『InRed』1月号の表紙

創刊当時、30代は「おばさん」のイメージ

——今では当たり前に耳にするようになった「オトナ女子」という言葉。生まれたきっかけと反響を教えて下さい。

箕浦ちさ子さん(以下、箕浦):『InRed』が創刊された2003年当時、世間一般では「30代=おばさんという」認識がまだ強かったと思います。でも実際の30代女性はというと、バリバリ働いて、おしゃれやグルメ、旅行にも興味津々。まだまだ自分がおばさんだなんて認めたくない人が圧倒的でした。

とは言え、自分のことを女の子とは言いがたいし、かといって女性というのも堅苦しい。そこで出てきたのが「女子」という言葉でした。雑誌の目指すカジュアルな雰囲気にもマッチするし、フラットな感じで使い勝手もいい。それが読者にもウケたようです。初めて誌面に『30代女子』という言葉が載ったときは「私のことだと思った!」「こんな雑誌を待ってました!」と大きな反響がありました。

30代のカジュアルファッションを提案した

———30代のカジュアルファッション雑誌も『InRed』が先駆けですよね。

箕浦:その頃の30代女性向けのファッション雑誌は「主婦向け」か「コンサバ系」しかなく、その中間の「カジュアル系」がなかった。だったらそこを作ろうということで生まれたのが『InRed』です。そしてそれから10年、当時新ジャンルと言われた大人カジュアルが気付けば今の主流になっていました。

——実際の読者層はどんな方なのでしょう?

箕浦:大半が働いている女性で、未婚と既婚は半々。子供がいる方は3割といった感じですね。職場にもラフなスタイルで行ける業種の方が多いと思います。ファッションにONとOFFの境目がなく『おしゃれして仕事に出かける』というイメージの30代です。

他の30代向けファッション誌は「職場」「家庭」といったシチュエーションを意識した企画が多いですが、『InRed』はあくまで自分がメイン。自分が着たい服、自分がしたいおしゃれを一番に考えて取り上げています。とはいえ、読者スナップにはママ読者もお子様と一緒に出てもらったり。色んなおしゃれ30代女子を見せることで、親近感ある誌面作りを意識しています。

「着痩せ」ではなく「ゆる華奢」。繊細な女心を掴む

——リアルな30代女子をわかっている、それが『InRed』の売り上げが落ちない理由なんですね。

箕浦:メインページで30代女子に響くファッション特集をするのはもちろん、まず手に取ってもらえるように表紙にも力を入れています。登場いただくモデルやタレントも重要ですが、キャッチコピーも目に留まる新鮮なワードが入れるようにしているんです。

例えば、反響が大きかったのが『ゆる華奢』。これはゆるっとしたアイテムで気になる部分を隠して、華奢な部分をアピールするという、要は着やせ特集なのですが、「着やせして見える着こなし方」とはっきり言わないところがポイントです。着やせと言うと、太って見えるのをどうにかこうにか細く見せたいという、ちょっとガツガツした感じというか、気張り過ぎというか、なんとなく一歩引いてしまう感じがありませんか? そのへんの女心を汲み取ってキャッチをつけるようにしています。

——なるほど。誌面だけでなく、付録も豪華ですよね。

箕浦:「子供の頃読んでいた雑誌には毎月付録があって、それを楽しみにしていましたよね。それと同じように付録は、今では表紙、メイン企画と並んで『InRed』の主要コンテンツになりました。編集部でアイディアを出し、ブランドさんと一緒に作っています。トレンドを押さえつつ、使い勝手や細部のデザインにもとことんこだわっているので、どこの雑誌にも負けないという自信があります。

宝島社『InRed』編集長インタビュー

WEB全盛の今、雑誌の役割とは

——最近はWebマガジンやSNSが普及し、スマホで簡単にファッションページを見ることができるようになりました。紙媒体として残って行く上で、そことの差別化をどう考えていますか?

箕浦:確かに今はどこでも簡単にコーディネートを見たり、そのまま購入までできてしまう時代です。例えば「カーキのワイドパンツ」と検索すれば、いろんな商品が出てきます。ただ、スタイリングが載っているページもあるにはありますが、洋服単体の情報が多いですよね。何か欲しい商品がブランドも含めて明確に決まっているときは便利かもしれないですが、トレンドを抑えるには不便なところもあります。

『InRed』では、商品カタログ的な作り方をしないよう、強く意識しています。どのカーキのワイドパンツが読者に響くのか、どんな着こなしが旬なのか、体型別に合う合わないはあるのか……雑誌は1冊ごとに世界観があるので、その世界観に落とし込んで洋服を見せていく。

これはSNSやカタログなどに取って代わられるものではないと思っています。電子書籍がライバルとも言われますが、雑誌は手でページをめくるものであり“物感”を感じられるのも魅力なので、なくなることはないと思いますね。

“つい読んじゃう”読み物ページを

——読み物が充実しているのも雑誌ならではですよね。2015年12月号では、『結婚ほどしんどいものはない』という企画がありました。結婚している方の理想とギャップなどが書かれていて、この婚活推しの時代に逆をいくんだなあと驚きました(笑)

箕浦:あれはベストセラー『家族という病』が話題だったので、30代に身近なテーマで声を大にして言いづらいことを特集してみようというのが発端です。結婚って「憧れ」みたいにされてきましたけど、実際どーなの? と(笑)。

時代が婚活押しだからといって、そのままの企画じゃおもしろくないですよね。読者が求める読み物は、“つい読んじゃう”“聞きたいけど聞けない”“明日の話題になる”ような企画だと思います。実際、給料明細を細かく特集した記事は毎回反響が大きいです(笑)。そういう、つっこんだ作り方ができるのも、雑誌の魅力だと思います。

20151218-inred1

箕浦ちさ子さん

アラサー女子が仕事する上で大切な意識

——どうやって読者のニーズを掴んでいるのでしょうか?

箕浦:雑誌やTV、SNSなどのwebももちろんチェックしますが、一番の情報源は編集部内のおしゃべりかもしれません。雑談の中からトレンドを拾って「あ、それいいね!」と企画が生まれることもよくあります。

——女性ファッション誌の編集部って、ドラマなんかだと、女同士の怖い戦いが描かれていたりしますけど、『InRed』編集部の雰囲気はいかがですか?

箕浦:穏やかだと思います。真剣にデスクに向かうこともあれば、雑談に華が咲くこともあって。

——箕浦さんが編集者に求めていることや、今の30代女性が会社で必要になることはなんだと思いますか?

箕浦:編集業に限らないこととしては、ゴールを明確にして、行動に移すのが大事だと思います。編集職では具体的にどういうことかと言うと、つねにネタを求めるどん欲さを持つこと。アンテナを張って、気になるワードがあればすぐにメモをして、インプットだけでなくアウトプットしていく。自分で企画を考えたら、そこで終わりではなく実際に形にする力に期待していますね。

―—さらに売れ行きを伸ばすためにこれからの『InRed』が考えていることは?

箕浦:モノとして所有したくなる雑誌を目指します。そのためには今ある、おしゃれだけどラフでゆるい世界感がブレないように大切にしていきたいと思います。

最近、編集部でよく話題になるのが「“なんか”おしゃれ」というキーワード。今『InRed』が目指すものはまさにそれです。“なんか”素敵、“なんか”いい感じ。今、そう言われたら“なんか”嬉しくなる、という読者が増えるのかなって。言葉で的確には表せないニュアンスが心をくすぐるのかもしれません。

そのニュアンスを、『InRed』のフィルターを通して伝えていく。読者が素敵だと思えるライフスタイルが背景に見えるような誌面作りを心がけて、これからもオトナ女子たちが楽しめる雑誌を届けられたらと思っています。

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その、呪われたドレスを、脱ごう。