NPO法人フローレンスインタビュー(前編)

1年の養子縁組数は、たった374件 「赤ちゃん縁組事業」で子どもを救う支援策

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1年の養子縁組数は、たった374件 「赤ちゃん縁組事業」で子どもを救う支援策

 週に1人の割合で子どもの虐待死が発生している日本。繰り返される虐待のニュースに、心を痛めている人は多いだろう。どうすれば虐待を未然に防げるのか。社会課題としてこの問題に向き合い、新たな事業計画を立ち上げたのが、認定NPO法人フローレンス。代表の駒崎弘樹氏が2004年に設立したフローレンスでは、これまで病児保育、小規模保育、障害児保育などに取り組み、成功事例を積み重ねてきた。

虐待の予防のために、来年度から始めるのが「赤ちゃん縁組事業」だ。虐待で死ぬ子どものうち最も多いのが0歳児であることを踏まえ、育てられない親の元から出産後すぐに子どもを育ての親に引き渡すことを想定している。日本では、行政と民間がそれぞれ養子縁組の仲介を行っているが、1年間の縁組件数は374件(2011年)。児童養護施設に入所する約3万人のうち、養子や里子として迎えられるのは15%程度に過ぎない。

参考記事:約3万人の子どもが“親”を待っている―「産みの親」の親権が強い、日本の養子制度の課題

民間で「赤ちゃん縁組事業」の成功事例を増やし、他国と比べ関心が低いと言われる社会的養護(※1)の認知を広めることはできるのだろうか。駒崎氏に話を聞いた。

(※1)「社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」(厚生労働省HPより)

おねしょを理由に熱湯をかけられた2歳児

――「赤ちゃん縁組事業」に着手されたきっかけを教えてください。
駒崎弘樹さん(以下、駒崎):3年ほど前、愛知の児童相談所に務める矢満田篤二さんと知り合ったのがきっかけです。矢満田さんは、生まれてすぐに子どもの育ての親を探し、特別養子縁組を前提とした里親に委託するという「愛知方式」を生み出した人です。

矢満田さんから聞いてショックだったのが、2歳の女の子の虐待例です。おねしょをするという理由で、その子の親はおしりに熱湯をかけたんですね。おしりがただれている写真を見て、本当にショックを受けました。自分の娘が当時ちょうど同じ年齢だったこともあり、胸が潰れる思いになりました。これは何とかしなくてはと。

――事業の仕組みについて教えてください。

駒崎:スタート時点としての取り組みでは、まず育ての親向けのサイトと、産みの親向けの相談プラットフォームを別々に起ち上げます。産みの親向けのプラットフォームは、名称は確定していませんが、「妊娠ホットライン」などを検討中です。ここで、電話やチャットを通して悩みを抱える妊娠中の女性の相談に乗ります。育ての親向けのサイトでは、制度についての詳しい説明を理解した上で育ての親登録をして頂き、面談や家庭訪問、研修を実施します。

――駒崎さんのブログ内でも、中には集団レイプで妊娠してしまったり、頼れる家族がいない女性もいるという状況が紹介されていました(参照記事)。また、そういった状況でなかったとしても妊娠や出産に不安はつきものです。

駒崎:そうですね。中には、子どもの頃から虐待を受け、心に傷を持ったまま親になった人もいます。彼らも虐待の被害者です。相談に乗って、「気を取り直して育てます」となった場合はそれで見守りたいけれど、「どうしても無理です」「一緒に死にます、殺します」というニュアンスの会話をされた場合には、「託すという選択肢もありますよ」と言って出産後に速やかに赤ちゃんを受け取り、育ての親に託します。

目標は「赤ちゃんの虐待死ゼロ」

――「妊娠ホットライン」のようなものを自治体でも行っていると思います。ただ、そういったサポートにたどり着く情報収集力がなかったり、そもそもの気力がない方へはどうアプローチするのでしょうか。

駒崎:確かにリテラシーの問題はあると思います。行政に相談するという発想がない人もいるし、行政に行って理路整然と話すのが苦手な人もいるでしょうから、携帯電話やスマートフォンで「妊娠 おろす」「妊娠 産めない」といったキーワードで検索する人がフローレンスのサイトにたどり着くようにSEO対策を行います。

仕組みづくりについては、すでに縁組事業を行っている団体さんからご指導を受けて立ち上げたので、ノウハウをゼロから構築する必要はありませんでした。フローレンスでもひとり親支援や子育て支援の活動をやってきているので、そういったノウハウは生みの親にも育ての親にも活かせると思っています。

――事業開始1年目で、どのぐらいの数の縁組を想定していますか?

駒崎:縁組数の目標は設けていません。1件1件を大切にしていかないと、児童福祉の理念から外れてしまいます。言いづらい話ですが、この事業は人身売買と紙一重というところがあります。どんどんマッチングしてお金を稼いで……ということになってはいけない。目標は赤ちゃんが幸せになること、赤ちゃんの虐待死を最終的にゼロにしたいということですね。

民間の養子縁組に対する法律がない

――育ての親が支払う費用はいくらぐらいなのでしょうか?

駒崎:まだ具体的な数字は算出できません。NPO法人としての事業ですから活動費用以上の利益を上げることはできません。ですから、かかった費用を請求するということになりますので、やってみないとわからない。シミュレーションでは、150~200万円ほどになると予想しています。ケースによっても変わってくると思います。

――自治体の養子縁組や里親も基本的にはそうですが、子どもの年齢や性別を選べるわけではないのですよね?

駒崎:はい、選べません。自分の子でも選べませんよね。「どんな子でも受け入れてください。その覚悟がある方が登録してください」というスタンスです。縁組を行っている民間団体の中には、「養親の希望をある程度聞く」という団体もあります。これは思想の違いです。

 私が問題だと感じるのは、民間の縁組団体に対して国が明確な統一基準を示していないことです。児童福祉の最前線ですので、きちんとした法律があるべきだと思いますが、現状ではそれがない(※2)。このこと自体、政府の家庭養護に対する姿勢の遅さを表していると思います。


※2(参考)NHK解説委員 視点・論点 「特別養子斡旋に法の規制を」(2013年9月11日)より抜粋「現在は15の団体・個人が届出をしてあっせん事業をしていますが、それ以外にも無届けで活動している団体や人はいるかもしれませんが、実態は不明です。また、斡旋に関する法律はもとより団体間での統一基準もないために、どのような手続と方法で斡旋をするのかは各団体の自由です。」

【後編はこちら】養子縁組の半分を民間団体が行っている 行政が支援の手をこまねく現状

■関連リンク
・クラウドファンディング:赤ちゃんを虐待死から救う「赤ちゃん縁組」事業を立ち上げたい!
駒崎弘樹さん公式サイト

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