漫画家・沖田✕華さん×ルポライター・杉山春さん 対談(中編)

虐待しても、良いお母さんでいたい気持ちは強かった―母性とは何なのか?

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虐待しても、良いお母さんでいたい気持ちは強かった―母性とは何なのか?

漫画家・沖田✕華さんとルポライター杉山春さんによる、「母性とは何か」をテーマにした対談の中編。前編では、沖田さんが産婦人科で働いていたときに見た中絶の実態や、性虐待が表沙汰になりにくい理由などが話題にのぼった。

中編では、沖田さんの著書『透明なゆりかご』で描かれた性虐待の話から、日常の中に存在する性被害について話が及ぶ。

【前編はこちら】ひとりで中絶後「あめを2つ舐めたら帰って」 産婦人科の知られざる実態

虐待されても、大人の女性が味方になってくれない

杉山春さん(以下、杉山):振り返れば私もありましたね。学生時代に住んでいたアパートにはお風呂がなかったので、近くに住んでいた親の知人に「うちのお風呂に入れてあげる」って言われて行ったら、そこのおじさんがお風呂に入っている間じゅう、ずっと前で待っているとか。

沖田✕華さん(以下、沖田):私も友人のお兄さんから、すれ違いざまに触られたりしました。明らかにおっぱいを触ってくるんですよ。コタツの中からとかも。今までは普通に遊んでたのに、急にムラッと来ることがあるのかもしれないですね。

杉山:中学時代、道ですれちがいざまに胸を触られて、とっさに何をされたのかわからなかったり。当時、ある高校の先生がかわいい子だけ暗室に呼ぶというので、被害にあった女子生徒が集団で家庭科の先生に相談に行ったら、「黙ってなさい」って言われたと聞かされたこともあります。校内でのセクハラは、今よりももっと明らかになりにくかったかもしれません。

沖田:私が学生のときにも結構ありました。でも、発達障害があったせいかは分からないんですが、そういうことがあっても不登校にならず普通に過ごしてたので何も言わないと思ったのかもしれない。相手を見ていますよね、痴漢とかする人って。同級生に話しても全く信じてもらえなくて。だから私が性虐待をされた瞬間に自殺したらその人のせいって分かってもらえるかなって思ったんですけど、田舎で建物も低くて飛び降りても死にそうにないし、電車は鈍行だから死ねないし……じゃあ、あとは黒魔術だな、と。

杉山:死ぬか黒魔術かどちらか……。

沖田:その人が新婚さんだったので嫁さんに手紙を書こうかなっていうのも考えました。でもそれだと嫁さんしか傷つかないって思って。結局いたずら電話ぐらいで終わっちゃいましたね。

杉山:子どもって本当に無力ですよね。お母さんや家庭科の先生、女性たちも味方になってくれない。

沖田:そう、同性なのにって。子どもじゃわからない。大人になって客観視して初めてわかる虐待があるんですよね。

杉山:だから名付けることが大切です。「性虐待」だと。被害に遭っているときはわからないけれど、名付けて初めて相手を批判できる。

沖田:性虐待について子どもに教える絵本(※1)が今はあるので、そういうのがあれば、私が子どものときよりは、子ども自身でもわかるのかなって思います。


(※1)『とにかくさけんでにげるんだ わるい人から身をまもる本』(岩崎書店)など。

「孤育て」が育児放棄に繋がった

『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』(筑摩書房)

『ルポ 虐待: 大阪二児置き去り死事件』(筑摩書房)

沖田:杉山さんの『ルポ虐待』(※2)では、結果的に子どもを放置してしまうお母さんが、離婚のときにお父さんたちから誓約書を書かされているでしょう? 「家族には甘えません」とか「しっかり働きます」「逃げません」とかいくつも条件をつけられて。それ絶対無理、どのお母さんだってやっていけないっていうようなこと。あれさえなければ、もう少し柔らかく柔軟に生きていけたのかなって。


(※2)『ルポ虐待――大阪二児置き去り死事件』(筑摩書房)。2010年に起こった虐待事件を追ったルポ。子ども2人を放置死させたとして逮捕された母親に懲役30年が確定した。

杉山:やったことはとんでもないけれど彼女自身も、「いいお母さんであり続けたい」っていう気持ちが強かったんだと思います。

沖田:実は、あのお母さんが子どもを連れて大阪に引っ越す前、愛知県に住んでいた頃に知り合いだったっていう女性を知っているんです。その女性に聞いたら、「とてもそういうことをする人じゃない」「子どもをめちゃくちゃかわいがっていた」って言っていました。大阪に引っ越してからは、人とのつながりもなくなって、周囲も無関心になって。大阪で住んでいたワンルームは彼女にとって棺桶だったんじゃないかと思います。彼女は子どものための棺桶を探したんじゃないかって。いろんな場所を転々としていたけれど、この人はここが最後の場所と考えていたんじゃないのかなと本を読んで思いました。

杉山:なるほどね……。今年は厚木で起きた事件(※3)の裁判を傍聴しましたが、あの事件も「棺桶」という言葉が重なるように思います。大阪の事件のお母さんも、厚木の事件のお父さんも家族との行き来が少なかったんですよね。

(※3)2014年に神奈川県厚木市で、死後7年経った5歳男児の白骨遺体が発見された事件。息子を放置死させたとして逮捕された父親に今年10月、懲役19年の判決が下った。

“母親らしい”とは何なのか?

『透明なゆりかご~産婦人科医院看護師見習い日記~』(1巻/講談社)

『透明なゆりかご~産婦人科医院看護師見習い日記~』(1巻/講談社)

沖田:私は10年ぐらい前に名古屋の風俗店で働いていたんですが、風俗で働いているシングルマザーたちはほとんど子どもを実家に預けているんですね。「そんなの子どもがかわいそう」って思うかもしれないけれど、子どもから見るとむしろその方がいい。お母さんたちもあまり母性がないし、男好きで彼氏がころころ変わって、とてもじゃないけれど子どもを一人で育てられる状況じゃない。月イチで実家に帰って「お母さんごっこ」みたいなことをしているんだけど、その方がトラブルが少ないだろうなっていうのは見ていてわかりました。

杉山:名古屋の風俗店の店長さんにインタビューをしましたが、女性が子連れで面接に来るようになったのは2008年以降と言っていましたね。リーマンショック以降、子連れで荷物も全部持って面接に来る女性が増えたと。

沖田:「母性」っていう言葉は何なのでしょうね。何が母親らしいのかって、人によっても考えるものが別物なのかもしれないけれど、ただの人間なのに、それ以上のものを求められている気がします。誰からなのかはわからないけれど。今の時代、それが最大な課題なんじゃないかと思います。

杉山:女の子たちも、嫌なところを飲みこんじゃうようなところがある。性的な被害であっても、「お母さん業」であっても、他人や理想に合わせるようなことを訓練されている。できなければ「お母さん業ができません」って言ってもいいのに、それを誰にも教わらないままに大人になってしまう。

沖田:母親像って伝聞で聞くというか、旦那さんから「俺のおかんはこうだったからこうしろ。お前がおかしい」とかね。でも、おかんの時代とは子どもの数も仕事も何もかも違う。母親にみんな何を求めているのかしら、みんなって。

>>後編へ続く

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