正社員と非正規社員の格差、育児と仕事の両立など、働き方をめぐる課題は山積している。今年9月「保険クリニック」が20歳~60歳までの働く女性500人を対象にしたアンケートによると、何かしらの経済的不安を感じていると回答した人は93.4%と大多数を占めた。将来を楽観視できない時代において、自分なりの働き方を見いだしていくためには、どのような心構えが必要なのだろう。そのヒントを探るべく、多様な働き方の実態に詳しいジャーナリストの佐々木俊尚氏に話を伺った。

日本は構造改革に失敗し、戦後モデルをひきずっている

――昨今働き方が急速に多様化していますが、その変遷についてどのように感じていますか?

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):働き方の歴史を紐解くうえでも、「戦後社会はいつ終わったのか」という議論に触れる必要があると思います。戦後社会の枠組みは、高度成長時代に作られたものです。その枠組みの中心を支える「標準家庭」と呼ばれるモデルがあって、それは「サラリーマンの夫と専業主婦の妻、子供2人」。政府の税金等の政策でもこのモデルをスタンダードと標していました。つまり夫は終身雇用、妻は短大を出て腰かけで就職し24歳までに寿退社して家庭に入る、というのが普通だったんですね。

しかし、1990年代初頭、バブル崩壊と同時期にそのスタンダードが崩壊し始める。原因のひとつはIT革命による「グローバリゼーションの進行」です。ヒト・モノ・カネ・情報が地球規模で移動することで、それによって富がフラット化し、新興国などに追随され経済的な優位性を失いました。日本はこの状況を打破しようと、社会の枠組みを根本から変えるべく構造改革を試みましたが、失敗に終わり戦後モデルをひきずってしまったんです。

――時代にマッチしなくなった戦後社会の枠組みを、変えられなかったということでしょうか?

佐々木:そうなりますね。このままではマズいので、なんとかしようと2000年代に小泉改革によって、「非正規雇用」が一気に増加しました。この時期が戦後社会の終わりというとらえ方なんです。グローバル社会になって非正規雇用もどんどん増えていくなか、「もうこれ以上生活は絶対に良くはならない」「明日のほうが今よりいいということはなくて、明日も今も同じかもしくは明日のほうが悪い」というマインドが定着してきたのがここ数年の傾向です。真の意味で先進国の没落が定着してきたということだと思います。

結婚の目的が“二人で荒波に立ち向かう”に変わった

――たしかに、若い人も将来を楽観視している人は少ないように思います。

佐々木:男性が働き女性が家庭を守るという枠組みを引きずらずに、家計や育児、家事を2人で分担して支え合っていくことが必要な時代ですよね。

これは、結婚情報誌『ゼクシィ』編集長の伊藤綾さんに伺った話ですが、たとえば結婚式ひとつとっても、昔は「楽しい青春時代は終わって、これからは日常が始まる」というけじめをつけるものでしたが、最近は「これからは荒波に向かって2人で立ち向かっていくので、友人とか親族で支えましょう」という趣きに変わってきているそうです。なにか危機感めいたものを肌で感じているということの現れなのではないでしょうか。

佐々木俊尚が語る、女性が輝く社会の現実

佐々木俊尚さん

「女性の活用」を企業任せにしすぎている

――社会の変容にともなって、「女性も働かなくてはいけないよね」という気運が高まるなかで、企業もどんどん女性を起用していこうという方向に舵が切られていますよね。その一方で、受け入れ体制の整備は企業によってまちまちです。この点についてはどのように感じられますか?

佐々木:たとえば、「資生堂ショック」(※)のときに噴出した「会社が働く女性を支えないというのはマズイよね」という批判は一理あると思いますが、一方で社会の歪みも感じます。それは何かというと、戦後一貫して企業になんでもやらせすぎちゃう、企業依存によるもの。社会保障などはその典型だと思いますが、「男女共同参加画社会」の枠組みもそれに近いように思います。


(※)化粧品メーカー・株式会社資生堂の勤務制度改革。子育て中の社員にも他の社員と同等の勤務やノルマを求める方向に転換したことから話題を呼んだ。

――それは具体的にどのようなところに現れているとお考えでしょうか?

佐々木:男性と女性がどう働きどう生活していくかという、ワークライフバランスを社会としてどう分かち合うかという発想があまりないですよね。企業に対してだけ「育児休業をちゃんと与えなさい」「女性をちゃんと起用しなさい」と、なんでも企業にやらせればいいと思っている。

でもそういうことをしていると、結果として育休とるのは女性のみで、給料は男女ともあまり変わらないにも関わらず、男だけが会社に居続けるという枠組みは変わらないですよね。本来は育児も家事も共に分かち合うべきなのにそうなっていない。女性だけがそういう制度を使わせられて、そのしわ寄せが資生堂のような女性中心の企業にきているんだと思います。

――経営者としての立場からすると、売り上げとの折り合いがどんどん厳しくなりますよね。

佐々木:これはあくまでも推測ですが、資生堂は「ワークライフバランスは我々だけに頼らないで、社会全体として何かをしなくてはいけないのでは」というメッセージを発信したのではないでしょうか。子供を産んだはいいけれど、保育園の送り迎えを妻がやり、食事も妻が作り、それっておかしくないですかという話だと思います。いまだに家事をやらない男性が多いですしね。何かのアンケート調査で「あなたは家事を手伝っていますか」っていう項目がありましたが、「家事は手伝うものじゃないだろ、お前が中心になってやれよ」みたいな(笑)。

――それくらい家族の在り方が変わらないと、やっていけないだろうと。

佐々木:そうですね。そこが全然変わらないまま、ワーキングマザーを企業がどうやって抱えていくかというところばかり制度が先行している。社会の意識がついていってないということなのではないでしょうか。

【後編はこちら】時代を生き抜く“女性の働き方”とは? 佐々木俊尚が「仕事」の変容を占う

■関連リンク
佐々木俊尚 公式サイト

末吉陽子

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