世界的ロマンス小説レーベル・ハーレクインの編集長明治理子さんインタビュー後編です。前編では、ロマンスの流行テーマと世界情勢の意外な関係性について伺いました。後編では、ハーレクインでの“ヒロインの三大人気職業”など、ロマンス小説特有の文化について聞きます。

ハーレクインインタビュー
【前編はこちら】「虐げられるヒロイン」は根強い人気 ロマンス小説に見る、女性の願望の変遷

ヒット作品はヒーロー・ヒロインの身分の高低差から生まれる

ーー読者の年齢や職業などにより、好みの傾向はありますか?

明治理子(以下、明治):明確な差は基本的にありませんが、もしかすると”オフィス”ものが好きな女性はハーレクイン読者のなかでは比較的若い方が多いと言えるかもしれません。登場人物は“ボスと秘書”などで、彼は出来る限り地位が高く、彼女は低く、その高低差があればあるほど、人気のようです。

ーー今の時代的に、キャリア志向の女性が黙っちゃいないような設定ですが……。

明治:「女性差別的だ!」という声は意外と聞かれないですね。皆さん「最後は結ばれて救われる」というシンデレラストーリーに魅力を感じているのではないでしょうか。

ちなみに、ハーレクインにおける“3大シンデレラ職業”は、家政婦、ウェイトレス、ナニーです。ナニーとは、“子守り”の職業名です。

人気ジャンルを二つ組み合わさった作品も多くあります。例えばオフィスもの変形パターンで、オフィス×ナニーものというのがあります。オフィスのときめきも、ナニーのアットホームさも受け継ぐ、こんな展開になります。

「ボスの不肖の妹が、『子育てなんかイヤ!』とボスの元に子どもをおいて出て行ってしまう。ボスは『なんということだ!このクリスマス休暇中、子どもたちを育てなければならないなんて……』と嘆き、秘書にナニーを頼む」

ヒロインの人気職業は、先ほど言ったように男性の補助的な役割の女性が多いですが、最近では、自立したヒロインも登場するようになりました。IT技術者や会計士など。ときには「若気の至りでタトゥーを入れたりドラッグやったりして奔放に思われる過去もあるけれど、今は真面目な実はバージン」なんていうヒロインも。

――時代に合わせて変化するんですね。男性像はどうでしょう?

明治:傷つきやすい男性が多くなりましたね。以前は、ちょっと臆病になっているとしても女性に対してだけで、

「愛しすぎると、僕がいま回している事業の足手まといになるのに、なんで僕はこの女にドはまりしてしまったんだ! どうすれば!! 有能なこの僕が女なんかにこんなにメロメロに!」

という、カッコいい(?)悩みが主でした。仕事に成功していて、敵なしなのに愛にからめとられてしまう、という展開ですね。

でも最近は、最初から違うトラウマを持っているんですよ。「毒親に虐待されて愛をまったく信じられない……」とか。でもオチは、「2人でそのトラウマを補っていこう」と強く前向きになれるハッピーエンドなので、読者の方も受け入れてくださっているようです。

ハーレクインを厚労省の推薦図書にしたい

――ハーレクインにも「毒親」ものがあるんですね。でも、どんな不幸があっても基本的にハッピーエンドなんですね。

明治:そうなんです! 私はいつも、ハーレクインを厚生労働省の推薦図書にしてほしいと思っているんですが(笑)、ハーレクインは全作品、どんな辛いことが途中起ころうとハッピーエンドなんです。おしんのように、「女1人が我慢しました」という結末にはなりません。

主人公の女性の愛と勇気で皆を幸せにして、問題をすべて解決し、全員がハッピーエンドになるんです。健気に頑張ると、幸せになれる、と。まあ、億万長者ヒーローの人並み外れたお金の力で解決に至ることも多いのですが。国家予算レベルの資産を持ったヒーローが「君の家族の借金なんて僕にとってははした金さ」と登場するとか(笑)。

ハーレクインにおける“愛人”とは

明治: 他にもハーレクイン独自の特徴があります。“愛人”という単語がよく出てきますが、これは不倫相手を指す言葉ではありません。海外では、「連れ回すだけの、今だけの恋人。飽きたら多額の手切れ金を渡されて、すぐに別れられる存在」という意味として使われているだけで、ハーレクインでは不倫が肯定的に描かれることはほとんどないんです。

そして子どもの存在は絶対的で、「男女が永遠に愛し合える象徴」として登場することが多いです。あとは、冒頭にもお話したように妊娠しているヒロインもよくいますが、妊娠中のセックス描写も普通にあります。「お医者様に聞いたら、大丈夫だって言っていたわ」なんてご丁寧なセリフも出てくるんですよ。同じように、「今日はコンドームを忘れてしまったから、僕はしないよ」なんて、避妊具の話が出てくるのもハーレクインならではないかと思います。

――ハーレクインは、ちょっとアダルトなイメージがありますが濡れ場の表現はどのくらい激しいんですか?

明治
:性描写は上品でロマンチックに徹していますよ。喘ぎ声や「◯◯が濡れた」なんて表現はない代わりに、

「私は彼と一緒に、太古のリズムを刻んだ。誰に教えられたこともないのに、私は知っていた。この太古のリズムを」

といった感じでしょうか(笑)。

読者さんからは、男性が切羽詰まっているのが好き、という声を聞きますね。「僕がこんなに興奮しているの、わかるかい?」なんていうセリフですね。どの作品にも共通しているのが、“愛のあるセックス”ということです。

ファースト・ハーレクインのすすめ

――数ある作品の中でも、ウートピ読者にオススメの作品はありますか?

明治
:そうですね、11月発売の近刊から『運命の夜に』なんてどうでしょう。

主人公の女性は29歳。「子どもは産みたいけれど結婚はめんどう。決めたわ! 1年前に一晩だけ過ごしたあの彼、そういえば伯爵で、顔も頭も良かったわ。あの男の精子だけをもらいにいっちゃおう!」という、現代的な考えのヒロインがヒーローのもとへ行き、精子をくださいとお願いをする。だけど実はヒーローは「あの一夜を過ごした女性が忘れられない……」と、ずっと女性に恋をしていたという話です。

運命の夜に/ミランダ・リー

他には、『ボスとの偽りの蜜月』というのもあります。片思い中の憧れのボスが「僕は事業拡大のため、愛はなくても結婚したい。……というわけで、まずはハネムーンの計画を秘書のキミがたてておいてくれないか」と言い出す。ヒーローのことが好きだったヒロインはがっかりしつつ、一緒にハネムーンの下見に行くが、はたして……!? という話です。ウートピ読者の皆さんも面白く読めるのではないでしょうか。クリスマス・シーズンを題材にしたこの季節ならではのロマンスもたくさん刊行されています。

ボスとの偽りの蜜月/ジュールズ・ベネット

――ありがとうございました。

有山千春

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