・さる王国の王子様が突然求婚してくる。
・国家予算レベルの資産を持った億万長者が猛アタックしてくる。
・砂漠の国の君主に見初められ、宮殿につれ去られる。

ハーレクインのラブ・ロマンス小説で人気の展開の一例です。36年前に日本に上陸し、以来ロマンス作品を数多生み出しているハーレクイン。小説を中心にマンガ、そして最近では、電子書籍でもじわじわと読者層を広げているそうです。

冒頭でも紹介したとおり、突飛な設定が多いハーレクイン。いったいなにが、女性たちを惹きつけるのでしょうか? ハーパーコリンズ・ジャパンで編集長を勤める明治理子さんに話を聞くと、意外にも時代を的確に反映した実態が見えてきました。

ハーレクイン・ロマンスの世界

人気テーマは“シークレットベビー”

一夜で子を身ごもったヒロインの、シークレットベビーもの。「一夜に賭けた家なき子」書影

――最近売れている作品には、どんな傾向がありますか?

明治理子さん(以下、明治):ここ2〜3年、急激に売れているのが、“シークレットベビー”ものです。つまり、妊娠し、出産したことをヒーローに隠してしまうヒロインが主人公の作品ですね。

「一夜の過ちで妊娠してしまったけど、相手が望んでいない。だから彼のもとを離れこっそり生んだけど、バレてしまう」

あるいは、

「子どもに病気が発覚。億万長者ではあるけれど、あんなに薄情な彼になんか頼りたくない。でも、仕方なく連絡を取る」すると、「『よくも僕の子どもを隠していたな! 僕と子どもを引き離すなんて、ひどい女だ!』と彼は怒り出す。実は彼は、子どもはいらないという誤解をヒロインに与えていただけで、実際には子どもを望んでいた」

というのが、主なパターンです。

――なぜ今シークレットベビーが受け入れられているんですか?

明治:はっきりとした理由は分かりません。この傾向は、世界各国に支社がある中で日本で特に顕著です。イギリスでもベビーものは増えていますが。もしかすると日本人の、秘め事に対する美意識というようなところが影響しているのかもしれないですね。

世界情勢の影響により下火になった“砂漠の首長”ヒーロー

シークジャンルの人気作家・ヴァイオレット・ウィンズピア「シークに愛されて」書影

明治:シークレットベビーが売れる前は、“シーク”ものが人気でしたね。いわゆる、頭にカフィーヤ(白い布)を巻いた砂漠の君主です。

物語の一例としては、

ヒロインが旅行中に砂漠を歩いていると、「なぜキミはそこにいるんだ。とにかくついて来い」と、馬に乗った見知らぬワイルドな男性につれ去られる。ヒロインは第一印象で彼に惹かれるものの、突然の出来事に戸惑ううちに求婚

とか。

どん底状況にあるヒロインが一夜の情事に至った相手が実は砂漠の央。跡継ぎを妊娠していないかどうか、確認できるまで国に軟禁されたうけ、トンデモない法律により王と結婚するかむち打ちの刑を受けるか究極の選択を強いられる

あるいは

「都会の女を懲らしめるためだ」と、本当は3時間で行けるような場所へわざわざ数日間かけて砂漠をキャラバンし、自分の道中で砂漠を生き抜くワイルドさを見せつける。そして、たどり着いたのは、なんと巨大な砂漠の王宮。それまでは粗暴なだけの砂漠の民だと思っていたこの男性が実は、王様だったということが判明する

そして、ここが見せ場。

正体がバレるなり、突然「キミは、僕の妻だ」と決めつけてヒロインに求婚する!

などなど。

——怒涛の展開ですね……日本の男性にない強引さがたまらないのでしょうか。

明治:そうですね。強引にさらわれたり、法律でヒロインが選択の余地のない状況に追い込まれたりするのがシークものに不可欠な要素です。しかし、近年9・11やイスラム国の影響で、ワイルドなシークを書く作家さんが減りました。砂漠の国にさらわれる、ということに「ロマンティックだわ」とうっとりできる情勢ではなくなったということですね。

踏みつけにされ続ける“ドアマットヒロイン”というジャンル

ーーコミックでも同じようにシークレットベビーが人気なんですか?

明治
:ハーレクインコミックと小説とでは、人気の傾向が微妙に違います。コミックは、やはり可愛い絵柄であることがまず重要。女性主人公のキャラも可愛さが重視されます。

——小説とコミックではやや読者の好みが違うのですね。

明治:小説、コミックともに虐げられるヒロインはすごく人気です。 “おしん”系とでも言いましょうか。虐められて耐えて、涙を堪えてこっそり微笑んで、みたいな展開の。彼女たちのことをハーレクイン愛読者は“ドアマットヒロイン”と呼びます。もちろん、人にたくさん踏みつけられるヒロインという意味です。

“カウボーイ”はアメリカではハイスペック男性の称号

ハーレクイン愛読者に知らない人はいない名シリーズ<テキサスの恋>「子供じゃないのに」書影

――作家さんによっても、得意ジャンルがあったりするんですか?

明治:もちろん。たとえば、大人気作家のダイアナ・パーマー氏が書くものは“テキサス”ものが9割以上です。3日馬で走っても敷地の外に出ない牧場を持っている“カウボーイ”のヒーローが多いです。

日本ではカウボーイも牧場も馴染みがありませんが、アメリカにとってテキサスは、大統領選に大きな影響を及ぼす大票田ですから、「大統領と友達の億万長者ヒーロー」という設定も自然なんですよね。

ヒーローは基本的に“億万長者”

——また、億万長者ですか! ハーレクインのヒーローはみんなお金持ちなんですか?

明治:そもそもハーレクインは、基本的に“億万長者”が多いんです。

「建設現場の叩き上げでマッチョな体形。だから主人公の女性も肉体労働者と勘違いするけど、『実は俺、建築会社のCEOなんだ』」

とか、

「旅先で知り合った、ボロ着を着たハンサム。てっきり売れない貧乏俳優かと思いきや、『実は僕、ひとりになりたくて旅に出てた貴族の末裔なんだよね』」

とか。

――なかなか夢のある話ですね。読者の皆さん、何がきっかけでそんなハーレクインの世界に足を踏み入れたんでしょう?

明治
:創刊は36年前です。当時の日本は、海外のものへの憧れが大変強い文化をもっていました。「海外の小説で、さらに全部ロマンスもの」というだけで熱烈に女性に歓迎されたのだと思います。

最近の読者は、インターネットでハーレクインを知る人が多い印象です。ハーレクインは、新刊のほとんどの作品を電子書籍化しているので、電子での作品刊行点数がすごく多いんです。試し読みをしているうちにハマって……というお話をよく聞きます。

>>>後編へ続く

有山千春

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