「海外小説の市場は、まだ可能性がある」早川書房が語る魅力とは

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
「海外小説の市場は、まだ可能性がある」早川書房が語る魅力とは

昭和女子大学と共同で、新しい文庫レーベル「ハヤカワ・ミステリ文庫<my perfume>」を立ち上げた早川書房へのインタビュー後編。前編では、若者の活字へのアプローチが変化しているという分析や、女子大生の持つ“ポジティブ力”についてうかがった。後編では、女性と翻訳小説の関わりや、今後の展望を聞いた。

【前編はこちら】女子大生とレーベル発足の早川書房が語る「若者の活字への関心は、読むより作る 」

女性の持っている“青春力”とは

――改めて、『ケチャップ・シンドローム』の内容についてお聞きしたいのですが、この本を第1弾として選んだ理由を教えてください。

吉田智宏氏(以下、吉田):イギリスに住む女子高生のゾーイが、サイトで知り合った死刑囚に手紙を書いて、自分のせいで三角関係になってしまった男性2人への罪を紐解いていくという女子青春物語です。作者のアナベル・ピッチャーは1982年生まれの若いイギリス人女性作家で、本作は海外の書評サイトで女性読者に高い支持を得ました。

――「この悲しみは、きっと誰の心にもある。」というキャッチコピーが付けられていますね。

今井祥子氏(以下、今井):女子高生の話ですが、どんな層の女性にも共感してもらえると思います。女性は男性と比べると、年齢の早い段階で大人と同じジャンルのカルチャーを共有する傾向がありますよね。私が10代の時も、女性作家さんが書く大人の恋愛小説を読む女子中高生が多くいました。一方で、年齢を経ても少女漫画にときめいたりもできる。男性は主人公に対しての自己投影や共感が少ない感じがするのですが、女性は自分と年齢が違うのに主人公に共感したり憧れたりする、そういう女性の青春力や文化量はすごいなと思います。「my perfume」は刊行する5冊すべて主人公が女性で年齢も幅があるので、その青春力を持って20代だけにとどまらず、幅広い年代の女性に「自分の物語」として共感してもらえたらと期待しています。

20151120-my1

左:吉田智宏氏 右:今井祥子氏

海外小説に女性が触れる下地が増えた

――翻訳の仕方というのも、ターゲット層を意識していたりするのでしょうか。時代ごとで翻訳の変化があれば教えてください。

吉田:そうですね。今回は吉澤康子さんという翻訳者の方が担当されたのですが、「読者層に合わせた訳で」とお願いしました。やはり、時代や読者層ごとに伝わりやすい文章とか訳し方というのはあると思います。例えば「ブルー」という単語ひとつ取っても、「青」なのか「紺碧」なのか「濃紺」なのか、その時代にそうした表現は合っているのかなど、翻訳の仕方で作品も変わりますよね。

翻訳業界では、80年代から90年代にかけて「作者、翻訳者、主人公、読者がすべて女性」という「4Fミステリー」を打ち出していた時がありましたが、その頃から比べても今では女性翻訳者はものすごく増えています。一般的にも著名な方が増えたので「この人が訳したから読もう」という人も多いと思います。女性翻訳者の感性で訳して女性読者に届ける。そのようにして、女性が海外小説に携わる下地が増え、読むまでの選択肢が広がっているという変化は感じています。

海外小説には、まだ可能性がある

20151120-my2

第二弾となる『ミルキーブルーの境界』(中村有以・訳)

――最前線で携わっているからこそ感じる、海外小説やミステリーの魅力はどんなところだと思いますか。

今井:何と言っても、国も文化も言葉も生きた時代も違うのに、共感できる場面が多いことが面白いです。読んでいると、海外旅行に行かなくても「地球の裏側でも自分と似たようなことがあるんだ」と安心できたり、自分とは違う女性の物語から人生を教えてもらえたり。勇気が貰えて悩みが解決するのではないかと思います。

吉田:海外小説は手に取るハードルが高いと思われるかもしれません。でもだからこそまだまだ読まれる可能性や幅があるジャンルです。例えば、今は「伊坂幸太郎さんのミステリーは好き」など作家に限定して読んでいる人でも、読めば良さがわかって、世界中から自分の好きな作家を見つける楽しさを味わえるのではないかと思います。

――最後に今後の展望を教えてください。

吉田:学生のみなさんと三つの目標をたてました。まずはこの「my perfume」で5冊すべてを出し切ること。そして、5冊のうちいずれはか増刷を目指すこと。さらに、軌道に乗せて、レーベルの第2期を始めること、です。11月20日には第2弾アレックス・モレル『ミルキーブルーの境界』(中村有以・訳)が刊行されます。こちらは自殺志願者の女性が生き残っていくという女子サバイバル物語で、第1弾とはまた違った作品になっているので、多くの女性に注目してもらえたらうれしいですね。

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「海外小説の市場は、まだ可能性がある」早川書房が語る魅力とは

関連する記事

編集部オススメ

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています