「ハヤカワ・ミステリ文庫<my perfume>」インタビュー(前編)

女子大生とレーベル発足の早川書房が語る「若者の活字への関心は“読む”から“作る”へ」

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女子大生とレーベル発足の早川書房が語る「若者の活字への関心は“読む”から“作る”へ」

ミステリーやSFを始めとした海外小説に強い出版社である早川書房がこのたび、昭和女子大学の学生46名と共同制作した文庫レーベル「ハヤカワ・ミステリ文庫<my perfume>」をスタートさせた。「身にまとい、持ち歩きたくなる文庫」がコンセプトである同レーベルは、女子中高生から20代の若い女性をメインターゲットに「女性のための物語」に特化した海外ミステリー5作品を刊行していく計画。すでに10月22日には、第1段としてエドガー賞ヤングアダルト部門受賞の女性作家アナベル・ピッチャーの『ケチャップ・シンドローム』を刊行した。

そこで、プロジェクトの主任である吉田智宏氏と、プロモーション部の今井祥子氏にプロジェクト発足の経緯や詳しい制作過程、海外翻訳小説の現状などを伺った。

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『ケチャップ・シンドローム』(早川書房)

若者は「活字へのアプローチが変わってきている」

――今回、この「my perfume」が始まった経緯を教えてください。

吉田智宏氏(以下、吉田):もともとミステリー小説を読む層というと30代~50代の男性が多いこともあって、彼らをターゲットとした売り出し方をしてきました。しかし、出版業界の不況もあり、発行部数を増やしていくのは難しい状況にあります。早川書房は今年、創業70周年を迎えたのですが、3年ほど前からこの節目に向けて何か新しいことができないかと話し合ってきました。そこで新たな層に早川書房の良さ、そして実は数多くある女性ヒロインの海外ミステリー作品を知ってもらうため、若い女性に向けたプロジェクトをしていこうとなり、昭和女子大学さんにご相談させていただいたんです。

今井祥子氏(以下、今井):これまで女子大生と関わったこととしては、モニターとして本を読んでもらって、その感想を帯に載せるといったことはありました。しかし、ここまで深く関わり一緒に何かを作り上げていったということはこの業界では珍しいことかもしれません。

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左:吉田智宏氏 右:今井祥子氏

――プロジェクトに参加しているのはどのような学生なのでしょう。

吉田:文系・デザイン系の全学生に呼びかけて、希望して集まってくれた46名です。もともと海外小説やミステリーが好きで読んでいたというよりも、「本作りに興味がある」ということで参加している人が大半です。インターンのように、交通費や必要経費等は大学を通して支払いますが、成果報酬制ではありません。なので、有難いことに、本当に意欲があって参加してくれている方々ばかりです。

今井:若者の活字離れが叫ばれていますが、今回学生さんたちと関わってみて、活字へのアプローチが変わってきているだけなんだと実感しました。本をひたすら読む学生は確かに減ったと思いますが、編集業務や本作りをやりたい学生はこんなにいる。与えられたものを受け取るのではなく、自ら主体的に関わっていく意識が高まっているんだと思います。

女子大生の“ポジティブ力”に学んだことも多かった

――具体的に、女子学生たちが携わったのはどのような業務でしょうか。

吉田:選書、香水とのコラボは出版社側が決めましたが、「my perfume」というレーベル名とロゴマーク、キャッチコピー、表紙デザイン、あらすじ紹介など、編集者の仕事は一通りやってもらいました。第1弾で刊行した『ケチャップ・シンドローム』という邦題も、学生たちも議論をして決めました。

ちなみに原題は『Ketchup Clouds』です。我々も「ケチャップ症候群」といった候補を出し、一方で学生たちからは「シンドローム」という案が出てきた。女子大生の感覚では「症候群」より「シンドローム」の方がしっくりくるし、同世代の女性から共感を得られると。早川書房のミステリーの編集部だけでは絶対に出てこないアイディアや意見を出してくれて、逆にこちらが勉強になりました。

――逆に、女子大生たちから教わることも多かったと。

吉田:そうですね。とにかく驚いたのは、「ポジティブな意見しか出てこない」ことでした。企業だとどうしても、ネガティブ要素をあげてリスクを回避することが当たり前になってしまいます。でも彼女たちは「あれが良い!」「これだったら読みたい」といった欲望に忠実ですし、ネガティブな意見が出てこない。彼女たちからリードしてもらうことも多いですし、企業が上、大学生が下といった上下関係ではなく、本当に並列なビジネスパートナーです。

女子大生たちが店頭に立って販促イベントも開催

――10月末には、三省堂書店有楽町店さんで『ケチャップ・シンドローム』の販売促進イベントが行われました。当日、学生たちはどのような仕事を担当したのでしょう。

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販促イベントの様子

今井:店頭そばで通行人にチラシを配ったり、販促用の手描きPOPを作成したりしました。グループに分けてブースに立って呼びかけもしてもらったのですが、一生懸命に頑張りすぎて足がつったという人もいました。こちらが「休んでください」と言っても、「いえ、やりたいんです!」と言ってくれて。

吉田:最初はチラシも全然受け取ってもらえなかったり、ブースを振り返ってもくれなかったりとなかなかうまくいかなかったんですが、皆さんはポジティブで、諦めない姿勢でした。終わった後に感想を聞いたら、「やっぱり本を作った喜びよりも、作った後に本が読む人にどう捉えられるかの方が気になる。責任を持って最後までしっかりやります」と言っていて。もう完全にプロフェッショナルの仕事だと思います。

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女子大生による販促ポップ

今井:本を売ることの難しさ、売れた時の嬉しさがこの1日で実感してもらえたと思います。でも彼女たちが一生懸命やっている姿を見て、書店の方々も予定がなかったのに臨機応変にアシストしてくれたり通りがかった人が足を止めてくれたりしました。仕事をして社会に出ると、辛くてもやらなければいけないことの方が多いですよね。でも辛くても頑張っていると、周りが助けてくれるのだと、彼女たちも我々も今回のイベントで身を以て経験することができました。一緒に声掛けをしたのですが、彼女たちのパワーに引き込まれて、一緒に青春をしたような日でした。

【後編はこちら】「海外小説の市場は、まだ可能性がある」早川書房が語る魅力とは

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