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2015/10/30

ドラマ『コウノドリ』が描く貧困のリアル

ドラマ『コウノドリ』は、なぜ話題に?

ドラマ『コウノドリ』(TBS)が初回12.4%、2話が12%と好評だそうです。このドラマは、ピアニストもしている産婦人科医が、病院で起こるさまざまな問題を解決していく物語です。

綾野剛さんに加え、二階堂ふみさんとの交際が話題となった星野源さんも何らかの過去を抱えた役を演じていますし、映画『俺物語』や『ヒロイン失格』など、注目の作品にひっぱりだこの坂口健太郎さん、吉田羊さんや、松岡茉優さんなど、今を感じさせ、かつ演技にも定評のあるキャストがそろっています。

初回放送後は、さまざまなサイトで、感動のストーリーであることに注目した記事が紹介されていました。でも、実際に放送後の反応を見ていると、ストーリーに感動したというよりも、貧困のリアルや、貧困に対して当事者や、その周囲にいる人が、どのようにすればよいかがきちんと描かれていたことで話題になっていたように思いました。

未受診妊婦の問題点とは

この一話は、清水富美加さん演じる、母子手帳がなく通院歴もない妊婦の矢野夏希が倒れて救急車から運ばれたことから始まります。こういう衝撃的な出来事からスタートし、無事に生まれてよかった! という物語はたくさんありますが、このドラマの意義は、さまざまな用語を説明したり、問題提起をしたりすることにもあるようです。

ドラマによると、未受診妊婦とは「出産を迎えるまで、医者の健診を受けない妊婦のことで、本人が合併症を抱えていたり、赤ちゃんが早産や仮死状態で生まれるリスクが高いだけでなく、もしウィルス性肝炎やエイズなどの深刻な感染症を患っていた場合には、院内感染の危険性もあるのです」と説明されます。

関連記事:児童虐待にもつながる「飛び込み出産」はなぜ起こるのか? “隠れ妊婦”を救済する制度とその課題

貧しさは金銭の問題だけではない

それだけではなく、貧困の現状について想像が及ばない人に向けてのセリフもあります。例えば、坂口健太郎さん演じる新生児科の若い医師の白川領が、「しかし、いくらお金がなくたって、妊娠した健診くらい受けますよね、普通」と尋ねると、大森南朋演じる先輩医師の今橋貴之が、「その普通って、実はものすごく恵まれてるんだよ。貧しいってのはお金がないだけじゃないからね。教育が受けられない、情報が得られない。家族や仲間の縁に恵まれない。その結果、駆け込み出産だ」と語るシーンもあります。

こうした問題については、昨今出ている貧困を描いた本にも書かれています。妊婦に限らず、貧困で情報が得られず、身近に相談できる人がいない人は、社会的な制度を利用するということに高いハードルを感じてしまい、本当に必要な人こそ制度にたどり着かず、利用できなくなってしまうことは多くあるといいます。

知識のない人に制度の存在を広める

ドラマで、 江口のりこさん演じるメディカルソーシャルワーカーの向井祥子と、矢野夏希、そして綾野剛さん演じる鴻鳥サクラのやりとりがそんな状況を描いていました。

向井「妊娠したの気づいてたでしょ。病院に行かなかったのはどうして? お金がなかったから? だったら、母子手帳をもらえば、無料の診察チケットがついてるし、出産費用を肩代わりしてくれる助産制度もあったのに」矢野「そんなのまっとうに生きてる人の話でしょ」

向井「手続きさえあれば誰でももらえるのよ」

矢野「役所なんていけるわけないじゃん。家ないし、借金あるし、居場所見つかると困る。親ともとっくに縁きれてるし」

鴻鳥「それはあなたの都合であって、赤ちゃんの健診を受けない理由にはなりません。妊娠中は、感染症やさまざまな合併症にかかりやすくなります。健診を受けずに出産した場合、赤ちゃんが死亡するリスクは通常の6倍以上です。それに、未受診の妊婦を喜んで受け入れる病院はありません。だからたらいまわしも起きるんです。矢野さん、あなたがしたことは、おなかのなかの赤ちゃんを虐待したのと同じです」

鴻鳥のセリフは厳しいように思えますが、正確な情報を矢野さんのような妊婦が知り、「もっと早く手をさしのべることができれば」というジレンマを感じているからこそ出た言葉でした。それに対して、先輩医師の今橋が言う「医者ができることには限りがるよ。僕らは、崖っぷちから転げ落ちそうな親子を、ここでせいいっぱい受け止めよう」というセリフには、これは単なるドラマでしかないけれど、ドラマで伝えられることはできるだけ正確に伝えようとしている意思がこもっているようにも見えました。

■関連リンク
ドラマ『コウノドリ』オフィシャルサイト

西森路代

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