「お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題」田房永子さん×小川たまかさん対談(第6回)

「痴漢で捕まったら人生台無し」は男性中心の発想 これからの性教育に必要なことは

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「痴漢で捕まったら人生台無し」は男性中心の発想 これからの性教育に必要なことは
小川さん田房さん対談

小川たまかさん、田房永子さん

自分の性衝動を自分で抑えられる社会に

田房永子さん(以下、田房):私が中2の時に突然、駅とかに「痴漢は犯罪です」ってポスターが貼られ出したんです。「痴漢は犯罪」という概念が、世の中に表面化した瞬間ですよね。

日常的に痴漢被害に遭ってた私やクラスメートたちは、その概念について、大人達から説明があるもんだと思ってたんです。だけど警察も学校もなにも説明なし。それで痴漢に遭うことがなくなればいいけど、全く変わらなくて、友達と「痴漢は犯罪、だからなんなんだ?」ってしょっちゅう話してました。比較的話しやすい先生に聞いてみたけど「う~ん、俺、よく分かんない」みたいに返されたりして。

当時、友達とよく話してたのは、「触ったり体をこすりつけてきたりするのをしてほしくないだけで、そいつに社会的制裁を食らわしたいわけじゃないのに、なんで私たちが捕まえなきゃいけないんだ?」ってことでした。「痴漢は犯罪です」っていうのは、大人同士のやりとりって感じがすごくした。それまでは痴漢が犯罪でもないっていう認識の今よりもっと最低な社会だったんだと思うから、「痴漢は犯罪」っていう概念を世の中に蔓延させるのは重要なことだったと思います。だけど今は、私が中高生の時にはまったく聞かなかった「痴漢冤罪」っていう概念が登場したことでさらに複雑化して、被害に遭った際の声のあげづらさは昔よりも強くなってる面もあると思う。

小川たまかさん(以下、小川):「痴漢は犯罪」という認識が犯罪発生の抑止力になっていないどころか、むしろ逆効果にさえなっている現実があるということでしょうか。確かに、「痴漢は犯罪」と言いながら、痴漢がどんな被害でどれだけの数が起こっているのか、どれだけ多くの被害者が声を上げずに黙ってきたかはほとんど伝わっていないと思います。痴漢冤罪は何度もセンセーショナルに報じられて映画もできましたし、多くの男性にとってみれば痴漢被害に苦しむ被害者よりも「冤罪」の方が身近な問題になってしまったんでしょうね。

「被害に遭わないように気をつけろ」って大人が言う一方で、「すごいブスが女性専用車両に乗ってる」って人気の芸能人が言う。そういう矛盾を、今被害に遭っている子どもたちはどう思っているんだろうと思います。

性犯罪加害者に疑われる「依存」と「他責」

田房:私、拘置所に入ってる人と文通をしているんです。その人は痴漢じゃないんですが、その文通がきっかけで痴漢以外の犯罪について調べるようになりました。そうしたら性犯罪だけじゃなくて他の万引きとか再犯率の高い犯罪も依存症と結びつきが深いってことを知ったんです。覚せい剤はまさにそうですよね。

それで、拘置所に面会に行った時のことなんだけど、受付のところに「ご家族の薬物問題でお困りの方へ」っていう厚生省のパンフレットが置いてあったんですよ。覚せい剤で捕まった家族の面会にやってきた人のための。そのパンフには、「薬物依存症は精神障害です。まずは薬物依存症を理解するところから始めましょう」って書いてあるんですよ。薬物をやめられないのは依存症のせいだから、ご本人とご家族の共通の敵として薬物依存症と効率よく戦いましょう、とまで。すごくいいパンフレットなんだけど、対象は覚せい剤だけなんですよね。性犯罪も万引きも依存症と関係があって、家族がすごく困るというのは同じなはずなのに、パンフレットはない。

小川:家族もどうしていいかわからないでしょうね。薬物依存症の方の家族はまだ受け皿があるけれど、性犯罪加害者の家族にはそれがあるのかどうか。

田房:警察は捕まえて、刑務所は刑を受けさせるまでが仕事だから、そのあとの矯正施設に入ったり精神病院に通うのは本人次第らしいです。

まれに、警官が個人的にそういう知識があって、取り調べの時に教えてくれる場合もあるらしいけど、たいがいは変態、異常者扱いされて終わり。出所後に施設に入ったりクリニックに通ったりすること自体、「依存症かも知れない」という知識に触れて、さらに家族が協力してくれたりお金に余裕がある人じゃないとできない。

性犯罪で捕まる人の特徴としてよく聞くのが、「何が悪いの?」って思ってることだそうです。殺してもないしお金盗ってもないし、あの女の子は実は喜んでたかもしれないのに、とか歪んだ認識を持ってる。人って自分を正当化しちゃうところはあるけど、それのひどい状態ですよね。その歪んだ認識を持ったまま服役しても、犯罪者として拘禁されたり家族から捨てられたり仕事がクビになったりするストレスによって、再犯率をアップしてる可能性もあるんじゃないかと思います。

小川:捕まった後で冤罪を主張し、冤罪が通らないとわかったら「向こうから誘ってきたからやったんだ」と言った加害者の話を聞いたことがあります。被害者は子どもなのに。以前取材した大藪順子さんも、「加害者の特徴でよくあるのは『自分の行動の責任を自分で取らない』こと 」と言っていました。他責の人。被害者が自責してしまうのと逆ですね。腹が立ちます。

参考記事:性欲よりも“支配欲” 女性フォトジャーナリストが撮り続けてきた、レイプ被害の真の姿とは?

弁護士が被害者に「慰謝料とれてもプラマイゼロ」

田房:そういう傾向も、裁判とかで考慮してほしいですよね。

以前、喫茶店にいたら、隣の席に「痴漢被害の裁判を弁護士に相談してる20歳くらいの女の子」と「その弁護士」が座ってたことがありました。大きい声で話してたから聞いちゃったんだけど、女の子は必死で訴えてるのに、弁護士は「あの人(犯人)はお酒も飲んでたしね」「有名な企業に勤めてるから、あなたが訴えると新聞に載っちゃって彼は会社をやめなきゃいけないんだよ」とか、完全に肩を持ってるんです。女の子は「それでも訴える」ってひどい被害状況を事細かく話したのに、弁護士は「お金もかかるし、慰謝料とれてもプラマイゼロだから」って裁判はやめておきなさいって説得してた。それが今の現実なんだと思う。そんな弁護士ばかりじゃないと思うけど、結局「体触られたくらいでそんなに大騒ぎしなさんな」っていう、痴漢加害者と同じ歪んだ認識で世の中が染まってるんですね。

小川:被害者を取材していると、加害者から被害者に対しての暴言とか、被害者に対する周囲からの中傷とか、本当にひどい話がたくさんあるけれど、被害者は傷ついているし何かのきっかけで特定されてはいけないから書けないことも多いです。

田房さんが聞いたみたいに弁護士に示談を持ちかけられた話も聞いたことがあります。被害を立証できないこともある。加害者を捕まえてみたら、以前も痴漢で捕まって示談にしていた人だったっていう話もありました。その人、示談のときは勤め先に隠すことができたのか、別にクビにも何にもなっていなかったそうです。よく言われている「痴漢で捕まったら冤罪でも人生終わり」みたいな話と違うので、そういう痴漢被害者側から見た事実も伝えたい。でも一方で「弁護士が示談で処理する」「勤務先をクビになっていないケースがある」みたいなことって、性犯罪加害者にとっての「都合のよい事実」を知らせることにもなってしまうと思うと悔しいですね。

これからの性教育の話をしよう

小川:日本ではまだ子どもに性教育を行うことについて不寛容だと言われますが、子どもが性犯罪被害に遭うことを考えたときに、それはちょっとどうなのかなと思います。アメリカで、子どもが被害に遭ったときに、その被害の内容をきちんと大人に伝えることができるために、性器の正式名称を子どもの頃から教えるのだとか。性教育って、防犯の意味でも必要だと思うのですけれど……。

田房:本当に必要だと思う。でも今は大人の側でまだまだちゃんとした認識が共有されていない。この間、男子高校生向けに性犯罪の防犯教室が行われたという記事(※)が出ていたけれど、そこでコメントしている先生が「軽はずみな行動で人生を棒に振ることもあると知ってほしい」とか言ってて、ズレてますよね。自分の人生が台無しになるからっていう理由は、男性中心の考え方。他人の人生を台無しにするって認識してもらわないといけないのに。

※性犯罪、ひとごとじゃない 男子高校生向けに防犯教室(朝日新聞デジタル)

小川:「ミニスカートを履いてる女の誘惑に乗ったら人生を台無しにされるぞ」ぐらいの勢い。

田房:そう。子どもとか女性をどう尊重するかという話をしてほしいのに、真逆のことをしている。

小川:少年Aが著書『絶歌』の中で人を殺してはいけない理由を「あなた自身が苦しむことになるから」って書いたことがバッシングされましたね。被害者よりも結局自分なのかと。でも性犯罪をやってはいけない理由については、「加害者になったら人生台無し」ってぽろっと言っちゃう大人がいる。教育の現場に、相手の性を尊重することを教えられる大人がもっと必要だと思います。

田房:うんうん。けっこう前だけど、ナインティナインのオールナイトニッポン(2012年10月放送・映画監督の井筒和幸がゲストの回)で、岡村隆史が「男はみんな電車の中で痴漢したい、だけどしちゃいけないっていう葛藤をかかえとるやん」ってことを言ってたんです。

私が男の人に「痴漢してみたいなって思うことあるの?」って聞いてもみんな「ない」としか言わないんですよね。怒られると思ってるのか知らないけど。でもラジオの中では話してる。岡村が一人でしつこくそれを言ってて、矢部や井筒監督の反応は「そうだけど、そんなこと言ったらダメ」みたいな感じでした。「人なら誰でも、お店で欲しいものがあったら盗んで帰りたいっていう葛藤してますよね」なんてラジオで言わないですよね。でも痴漢はギャグになる。

「軽はずみな行動で人生棒に振るな」は、この「男なら誰でも葛藤してるやん」が元にあると思うんですよね。女の人がダメだって言うからダメ、ダメなことって決まってるからダメ、っていう受け身な捉え方が当たり前になってる。だから「そんなことで捕まったら人生台無し」って被害者っぽい意識になるんだと思う。そこには「俺たちをそそる女体」と「怒る女」がいるだけで、生身の人間としての女性が存在してないんですよね。

男って、自分がどういう倫理観や女性観を持っているかっていうのを考える前に、「お前は男だから、女体に感化されるものなんだ」っていうメッセージをあらゆるところで繰り返し受け取って育ってるんだと思う。

小川:そうですね。ちょっと前に、ブログで学生時代に女教師をトイレに閉じ込めて爆竹を投げ入れたことを武勇伝みたいに書いていた議員が糾弾されましたが、その秘書が釈明で「少年時代は、たいがいの男の子がスカートめくりをしたことがあると思います。そのような事実を書いただけで……」って。男の子ならスカートめくりするものって、その秘書の方は子どもに教えちゃうんですかね。女の子には男の子はそういうものだから小さなことを気にするなとか? そりゃセクハラ蔓延しますよ。

でも「性教育」っていうと、どこか堅苦しいものだとイメージして拒否している人も多いかも。私も自分が受けた性教育はあんまり楽しいものではなかったですし。

田房:小学校の時は「恥ずかしがらないで!!」って先生のテンションがやたら高くて、高校の時は打って変わって「学生で妊娠したら悲惨なことになります」ってものすごい恐いビデオを見せられたんですけど、性教育って、暗いか明るいかのどっちか、みたいな感じしますよね。

出産でお世話になった産婦人科の人たちがすごく淡々としていたんですね。帰るときも「またね!」とかじゃなくて、「はい、それでは。次の方」みたいな。自分の体がすごく変化してそれに振り回されているような状況のときに、変化せずに淡々と論理的に教えてくれる人がいるってすごく安心したんですよ。変なリアクションをしないって、優しさなんだって思った。それまでは自分の子どもに性犯罪のこととか性教育ってどうやって教えればいいんだろうって思ってたんですけど、「私もこういう淡々としたテンションでやればいいんだな」と思いました。相手が男でも女でも。

小川:変に笑ったり冗談っぽく茶化したりせず、当たり前のこととして淡々と教える。大人の態度で。

田房:そう。そういう教え方を、大人の方も学んでいかなければいけないと思います。

小川:すごく長くなってしまいましたが、今回は対談をありがとうございました。

田房:私のほうこそ、ありがとうございました!


※11月21日(日)15時~17時、下北沢の「本屋B&B」で、田房永子さんと小川たまかさんによる痴漢に関するトークイベントが行われます。詳細は後日、「本屋B&B」のホームページで発表。

第一回はこちら:お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】
第二回はこちら:生理と同じくらい痴漢は「あって当たり前」 世間がつくり出す、痴漢が許される社会
第三回はこちら:加害者にとって「痴漢しやすい路線」とは? “大衆の無関心”が呼び寄せる性犯罪
第四回はこちら:かわいい少女が「痴漢、ユルセナイ…」 茶化しすぎな痴漢ポスターはなぜ生まれるのか
第五回はこちら:どんなポスターなら痴漢をなくせる? 田房永子×小川たまかの考える防止策とは

(編集部)

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