【田房×小川連載】お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題
電車内痴漢はどうすればなくせるのか。漫画家・ライターの田房永子さんとライターの小川たまかさんが「お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題」と題して対談する。 田房さんは、『女子校育ちはなおらない』(メディアファクトリー)の中で高校時代の痴漢経験を描いたほか、雑誌『AERA』(2014年12月2日発売号)では、カウンセリングを受けた痴漢加害者に取材し記事を執筆。小川さんは、高校時代の痴漢経験を書いたことをきっかけに、性暴力問題について取材を行っている。
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小川さん田房さん対談

田房永子さん、小川たまかさん

現在貼られている痴漢防止ポスターに違和感があると語る田房さん。今回は、田房さんが考える痴漢防止ポスターの案を聞く。

痴漢防止ポスターに男性の股間を

小川たまかさん(以下、小川):痴漢防止ポスターの案、ぜひ聞きたいです。

田房永子さん(以下、田房):いくつか考えた案があります。まず気になっているのは、痴漢の啓発ポスターって女性警官とか女性被害者とか、出てくるのが女性ばっかりなこと。なんで男性を出さないんだろうって思いますね。

大阪に行ったときに、下着かなにかのお店のポスターで、ふんどしを履いた男性の下半身の写真が貼ってあったんですよ。等身大くらいのドアップです。それを見たときにこれなんだよ、と思った。痴漢被害者からしたら、こういう生々しい状況が電車の中で起こってるんだよって。

あとは、痴漢している最中の加害者の顔を写真で撮って、そのままA3サイズのドアップのポスターにする。そういう気持ち悪い生々しいものをバーンっと出して、乗ってる人たちのわかってもらう。文章は、「あなたの乗っている車両で性犯罪が起こっています」という、乗っている人に訴えるものにする。今思ったんですけど、スーツを着た男性の股間が盛り上がっているのでもいいかもしれない。

小川:「こんな不快なもの貼るな」って絶対言われますね(笑)。

田房:確かに不快な気分になるかもしれないんだけど、現実ではそういう不快なことを中高生の女子とかが一人で背負ってるんだから、それを知ってほしい。盛り上がった股間を、隣にいるまったく見ず知らずの人の太ももにこすりつけたりして他人の安全に乗車する権利を侵害する犯罪ですから。

あとは、前に俳優の塚本高史さんが万引きのポスターに起用されているのを見たんです。万引き犯の手を掴んで「犯罪です」って怒った表情で。イケメン俳優を起用するのはいいと思うんですよね。個人的には山田孝之さんに出てほしい。イケメン俳優が痴漢を捕まえる絵があったら人の興味を惹くし、話題性もあると思います。

小川:あと繰り返しになりますが、ポスターに加害者に向けてのメッセージを入れるべきだって仰ってましたよね。「性依存は治療できる可能性があります」というようなメッセージを。

田房:性犯罪、性暴力の加害者治療に関しては、すごくいろんな意見があって、「病気」ってことでまとめてしまうのは現実的には難しいと思う、というのは前提としてあるんですけど、今のポスターって「被害に遭った方は駅員へご相談ください」ばっかりですよね。もう、加害者に向けて「痴漢行為がやめられなくて困っていたら、駅員へ相談してください。クリニックをご紹介します」って書いちゃってもいいんじゃないかと、思うことがあります。

このあいだ総武線に久々に乗ってびっくりしました。「座席シートに対する悪戯は犯罪です」っていう警告シールが車内の窓に何枚も貼られてたんです。そのデザインが黄色と赤ですっごい恐いんですよ。「座席シートを切ったり、ライター等で焦がす行為は、器物破壊罪として処罰されます」って文の下に、警視庁と鉄道会社の署名がズラッと書いてある。ああ、めっちゃくちゃ怒ってるなー! っていうのがビンビン伝わってくる。痴漢ポスターも、怒ってる人たちの署名をもっとでっかく書いて、「電車の中で、他の乗客の方の身体や衣服へ射精すると処罰されます」とかそのくらいは具体的に書いてほしいですね。「痴漢」じゃ漠然としすぎてる。

小川:そういうことが実際に行われている事実は知られた方がいいですよね。「痴漢」というと、実態をあまり知らない人は「服の上から軽く触るぐらいでしょ? そんなのわざと触ったかどうかもわからない」と思っていたりしますから。精液をかけられることもあるし、下着の中に手をいれられることもある。「痴漢」と聞いてイメージするものは人によってバラバラだと思うので、痴漢じゃ漠然としすぎてるっていうのは仰る通りだと思います。

たとえば「満員電車を解消すれば痴漢はなくなる」って言う人もいるけど、やっぱりそれも実態を知らないんですよね。空いている電車にも痴漢はいるし、座席に座っていてもお尻の下に手を入れられたり、胸を肘で押されたりすることがある。そもそも「満員電車だから触れる」っていう認識がおかしい。人が大勢いてバレる危険性があるのに、それでも罪を犯す人がいる。それが異常。みんな考え方の方向を変えてほしい。とはいえ、「電車の中で、他の乗客の方の身体や衣服へ射精すると処罰されます」って具体的に書くのは「子どもへの影響が……」などという理由でダメって言われたりするんだと思いますが……。

田房:そうですね、きっとダメですね・・・。私の案はほとんど現実的ではないと思いますけど、今言った中で、小川さんはどれがいいと思いました?

小川:「あなたの乗っている車両で性犯罪が起こっています」という文章がいいなと思いました。そう言われると問題を間近に感じる人も多いと思うし、加害者はギクッとするんじゃないかな。今あるポスターは問いかけたいのが加害者なのか被害者なのか、曖昧な気がします。「痴漢は犯罪です」というポスターも貼り始めた当初はインパクトがあったのかもしれないですが、今や「駅中にある光景のひとつ」になっている。

そういえば、埼玉県が考えた痴漢防止シールについてはどう思いますか? 「冤罪や痴漢摘発に見せかけた嫌がらせを誘発する」とか、「現実ではこんなの貼れない」とか批判が多かったようです。

参考記事:「痴漢やめて「×」シール、相手に印も 埼玉県警が考案」(朝日新聞)

痴漢行為を許さない意志表明を大人が行う

田房:新しい取り組みをして、痴漢犯罪が世間の話題にあがるっていうのはすごくいいことだと思うんですよね。でも気になったのは、シールのデザインがちっちゃいバッテンみたいなので、かわいらしすぎだろって思いました。「コラッ、ダメだぞ!」みたいなノリがすごく気持ち悪い。あと、あれを貼るって物理的に難しすぎると思うんですよね。痴漢っていうのは、本当に加害者側がいろいろな手段を持っている犯罪だし、向こうも人生賭けて必死だから、簡単にシールなんか貼られるのかなとか。被害の実態と発想がずれてるなあと思います。発想してくれるのはいいんだけど。

小川:自分の高校生時代を振り返ると、ああいう年頃って大人から「防犯のためにこれを持ちなさい」って言われるのを嫌がったりするし、シールを持っている子を「真面目だね~」って冷やかすようなこともあるんじゃないかなと思いました。「痴漢されると思ってんの?」とか、そういう雰囲気が周りにあったら持ってるって言えないんじゃないかなと思います。

田房:やっぱり被害者だけにやらせるっていうのは無理だから、本当は「痴漢を目撃したらシールを貼りましょう」って、みんなに配らなきゃいけないんですよ。現状だと冤罪の問題でそんなことしたら大変なことになるとは思うけど。

小川:実際には使わないとしても、周囲の大人たちがシールを持って備えているという事実が大事だと思います。あと、シールは持っていても見えないから、「私は痴漢行為を許さないと思っているよ」という意思を表す“黒い羽根”とかができればいいと思うんですよね。その意思を目に見えるかたちで表明する人がいると、被害者にとっては心強い。

「子ども駆け込み110番の家」ってありますよね。子どもが怖い目に遭ったときに駆け込めるように家の前にシールを貼っているんですけど、貼ること自体に犯罪抑止効果が多少なりともあると思うし、地域で子どもを守るという姿勢が見える。ああいうシールのイメージです。

田房:黒い羽根、すごくいいと思う。被害者だけに被害に遭わないための啓発チラシとかを配る時代は終わらせないと。

小川:黒い羽根だとダサいかもしれないから、そのあたりはセンスのある人に意見伺いたいですが(笑)。

痴漢とカツアゲ被害の類似点

小川:啓発といって若い女の子に「被害に遭わないように気をつけなさい」って言いたくなる気持ちはわかるけれど、いくら気をつけたって防ぎようのない事件があります。本当は「被害に遭わないように気をつけなさい」と言うなら、同時に「でも被害に遭ったとしても悪いのはあなたではなくて加害者です」と言わないといけない。なぜなら被害に遭った時点で被害者は尊厳を奪われたと感じているし、「気をつけなかった私が悪い」と被害に遭った自分を責めてしまうことがあるからです。恥ずかしいから警察に行かない人もいる。そうして加害者が野放しになる。

田房:そうなんですよね。それでも警察に行って被害届を出そう、と思っても、そのシステムがものすごく不便すぎて日常に組み込めない。

小川:私は女性の働き方というようなテーマで記事を書くことがこれまで多くて、そういう記事に関しては男性からもまあまあ興味を持ってもらえている感触がありました。でも痴漢とか性犯罪の話はまだあんまり手ごたえがないですね。身近な女性から被害経験を聞いたことのある男性の場合はすごく応援してくれるけど、それ以外の男性たちは、どう反応したらいいのか戸惑っているような印象を受けます。

どうしたらいいかなと思って、あるネットメディアの編集長だった男性に軽く相談してみたら、「人は自分との関係がわからない記事は読まない。多くの男性は自分との接点や共感ポイントが見出せないから痴漢被害の記事は読まないし、読んでも反応しないのでは」と言われました。

そこで「接点」「共感ポイント」ということで考えてみたのですが、痴漢被害はある意味で「カツアゲ」の被害に似ているんじゃないかと思います。子どもの頃にカツアゲされた経験のある男性は結構多いと思うんですよ。公共の場で突然被害に遭うことも似ているんだけど、被害者が「被害に遭って恥ずかしい」と思ってしまう気持ちが痴漢に似ている。どちらも自分より弱そうな相手に仕掛ける犯罪だし、思春期の頃に被害に遭うと警察や親に言わない人も多いんじゃないかと思います。私は小学校低学年のときに1回だけカツアゲされたことがあって、取られたのは数百円だったんですが、理不尽に有無を言わさず持ち物を奪われたこと自体がすごく怖くて、親に言えませんでした。もちろん痴漢の場合は性的な不快さが加わるし、全く一緒ではありませんが。

で、痴漢とカツアゲの類似についてちょっと前にFacebookに書いたら男性からも反応があって、そのうちの2人が「自分はカツアゲにも痴漢にも遭ったことがある」って内容のコメントをくれました。1人の方は「カツアゲの場合は『なんで渡しちゃったんだ?』って被害者が責められることがあるからそこが違うかなと思ったけれど、痴漢も被害者が『そんな格好してるから』って言われることがあるから、結構近いのかも」と書いてくれました。

田房:私もその二つは「被害者」を語る上ですごく似ていると思います。

ラジオとかテレビで、超有名な男性お笑い芸人とかが、「電車の中で女の人に触りたくなる欲望を男はおさえてる」って、成人した男性が「男あるある」として語るところが、痴漢は特殊な犯罪だなと思います。「カツアゲしたい欲望をおさえてる」って話、堂々としてる人いないもんね……。

>>次回へ続く…

第一回はこちら:お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】
第二回はこちら:生理と同じくらい痴漢は「あって当たり前」 世間がつくり出す、痴漢が許される社会
第三回はこちら:加害者にとって「痴漢しやすい路線」とは? “大衆の無関心”が呼び寄せる性犯罪
第四回はこちら:かわいい少女が「痴漢、ユルセナイ…」 茶化しすぎな痴漢ポスターはなぜ生まれるのか

(編集部)

●田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京生まれ。漫画家/ライター。武蔵野美術大学短期大学部美術家卒。2000年漫画家デビュー。著書に実母との闘いを描いた『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)、自身の出産・育児を通して感じた違和感を赤裸々につづった『ママだって、人間』(河出書房)、心から「呪詛」を抜くことで自分の体を肯定的に捉える『呪詛抜きダイエット』(大和書房)など。女性漫画家8人がそれぞれの女子校時代を描いた共著『女子校育ちはなおらない』では、女子校時代の痴漢被害について描いた。近日中に、「なぜ電車内痴漢はなくならないのか」を考えるホームページをオープン予定。 公式サイト:むだにびっくり

●小川たまか(おがわ・たまか)
1980年東京生まれ。ライター/編集プロダクション・プレスラボ取締役。立教大学大学院文学研究科卒。大学院在学中にライター活動を始め、フリーランスとして活動。2008年から現職。雇用・教育・企業取材などを、日経トレンディネット、ダイヤモンドオンライン、ウートピなど主にWeb媒体で執筆。2015年1月に公開した記事「女子高生という子どもが、電車内という社会で、痴漢という性被害に遭うことについて」 への反響を受けて以降、性犯罪についての取材を続ける。 Yahoo!ニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる
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