『子どものまま中年化する若者たち』著者・鍋田恭孝さんインタビュー(後編)

完璧な人生設計が鬱を招く――ふわふわ生きる「クラゲ化」が賢い若者を救う

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完璧な人生設計が鬱を招く――ふわふわ生きる「クラゲ化」が賢い若者を救う

鍋田恭孝さんインタビュー

現代の若者たちの「生きづらさ」を、医学博士の鍋田恭孝さんが読み解く『子どものまま中年化する若者たち――根拠なき万能感とあきらめの心理 (幻冬舎新書)』。鍋田医師によると、女性たちが抱える「生きづらさ」は、「クラゲ化」「断片化」などのキーワードで分析できるという。前編から続く、医学博士からみた「若者」分析の後編です。

【前編はこちら】増殖するメンヘラ女子は“病みきれて”ない? 精神科医が分析する「若者がなんとなく生き辛い」理由とは

「小さな理不尽」にぶつかると心が折れてしまう

――先生のクリニックを訪れる若い女性は、どんなパターンが多いのですか。

鍋田恭孝さん(以下、鍋田):社会から「大きな理不尽」が消えて、少なくとも学生時代は男女平等になりました。私も大学で教えていたので分かりますが、どちらかというと女性の方が元気なくらい。ただ、社会にはまだ男女差が残っているので、就職すると環境が大きく変わる。20代半ばでいらっしゃる女性の中には、そこで初めて、世の中の「理不尽」にぶつかってしまう方もいます。「この程度で?」というくらいのストレスで潰れてしまう方もいます。

――そういう方たちの家庭環境に、何か特徴はあるのでしょうか。

鍋田:かつての大家族が消えたことも関係していますが、「しつけのスタンダード」が消えてしまったために、「良い家庭」と、「養育能力の低い家庭」で育った人たちの格差が開いています。現代社会には「大きな物語」が失われているので、「家族の枠組み」くらいしか、拠り所となる価値観がない。そんな中で、家族がバラバラな、「養育能力」の低い環境で育つと、人との関係性の中で生きて行く力が育たないんです。人とつながることがどういうことなのか、どこまでノーと言っていいのか、分からない子が増えている。

根を張らない「クラゲ女子」は、持続的な人生のプランがない

――先生はご著書の中で、「女性の方が、ふわふわとコミュニケーションをしながら生きる『クラゲちゃん』になりやすい」と指摘されています。

鍋田:「クラゲちゃん」たちは、瞬間、瞬間で、相手に合わせて生きているのです。そして、ちょっとその関係が嫌になると離れて行く。男女関係でも、たとえば、すぐに同棲しちゃうんだけど、なんとなく合わなくなるとすぐ離れて行ってフラフラしている。これは豊かな社会であることの裏返しでもあるのですが、そういうフラフラした子は、プランがないんです。「どういう風になりたいの?」と聞くと「え? どういうふうって?」と逆に聞かれる。

鍋田:「早く死にたいです」という、思春期から20代の女の子もいますね。「生きていても面白くないし」と。「たまには面白いこともあるでしょ?」と聞くと、「たまにはね~、美味しいものを食べたときとか」、と。瞬間、瞬間に面白いことをピックアップして生きていて、プランは立てない。対人関係を持続するような力や、嫌な面にぶつかる力が落ちている子もいますね。

――どのくらいの若い女性が「クラゲ化」、「断片化」していると思われますか。

鍋田:対人関係が断片的で、行き着くところまで行ってしまってる完全な「クラゲ状態」の子は、10人に1人、20人に1人くらいだと思います。でも、思春期に男性と付き合って、美味しいものを食べて幸せだけど、ちょっと上手くいかないとガタガタっと崩れてしまう女性たちというのは、クラゲちゃんの「予備軍」のようなものですよね。

遊び感覚の「クラゲ化」は処世術の一面も

鍋田:思春期に、家庭の背景がしっかりしていた子は、悩んでも大きく崩れないんですよ。逆に、家庭の枠組みがないと一気に崩れてしまう。家庭がしっかりしていた、健康的な子たちは、いい意味でも悪い意味でも「遊び感覚」でクラゲ化、断片化している子も目立ちますね。そういう子は、「遊び」で断片的なコミュニケーションを楽しみ、「クラゲ化」しているような部分はありますね。それはとってもいいことです。

――その場その場で断片的なコミュニケーションを取り、楽しく過ごす生き方ですね。

鍋田:今の若者は、全体的に「この年齢だとこう生きましょう」という外枠を気にしなくなっています。本書で「子どものまま中年化する若者たち」と書いたのも、若者たちの間で、「偉くなる」などの古い価値観がなくなってきているからこそです。仕事もするけど、我慢はしない。定年間近の大人のように、「仕事はいいから、趣味に生きたい」という若者も増えていると思います。

しっかりしたライフプランを立てるほど辛くなる

――遊び感覚で、「クラゲっぽくてもいいや」と開き直れば生きやすい。一方で、真面目に生きようとすればするほど、漠然たる不安に襲われる面もあるのでしょうか。

鍋田:短いスパンで楽しく生きよう、というライフスタイルが自分に合っていれば、今の時代はとても楽しいかもしれません。今の世の中には、「どう生きればいいんだろう」 という問いへの答えがないんですよ。自分でみつけなきゃいけない。だから、真面目にプランを立てて、きちっとしようとすると辛いかもしれませんね。多少賢い若者は、計算しながら「遊び感覚」で生きて行けます。しかし、もっと賢い若者は、不適応を起こしてしまう。真面目にどう生きるべきか、生き甲斐とは何かを考えても、答えがないからです。

――そんな中、生きづらさを抱えた若者は、どうすればいいでしょうか。

鍋田:どこか安定したところと繋がることですよね。たとえば、今は高齢者のサポートも、個人でやるより公的機関を使った方がいい。それと同じで、どこか安定している場所に行けば、自分のことを話してもいい、という人を1人もつことがいいと思います。手前味噌になりますが、頼れるカウンセラーがいるとかね。70年代アメリカの上流階級では、かかりつけの精神分析医をもつのが流行したんですよ。

鍋田;そのカウンセラーが軸になって、正しい答えを出してくれるかは別にして、相談できる場所はあった方がいいですね。友だちでもいいですが、相談できる人は、安定していなくちゃ困るんですよ。友だち同士で、両方がより掛かり合うのはダメなんですね。それなりの姿勢で向き合ってくれる人がいい。そうすると、プロのところへ行った方がいいですね。

――心が苦しいと感じたら、気軽にプロに相談するのも、処方箋としてアリだということですね。ありがとうございました。

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