『男子の性教育』著者・村瀬幸浩さんインタビュー(中編)

「セックスは本能じゃない」 男性を取り巻く、絶望的な性教育環境

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「セックスは本能じゃない」 男性を取り巻く、絶望的な性教育環境

男性の性教育

男性も性に関して悩みを抱えている。前回に引き続き、『男性解体新書』『男子の性教育』(いずれも大修館書店)などの著書を持つ元一橋大学非常勤講師の村瀬幸浩さんに、大人の私たちが考えるべき性教育のありかたについて話を聞く。

【前編はこちら】精液への不快感、見過ごされる性被害… 置き去りにされる男の性の悩み

精通・初潮後は、異性の親は介入しないこと

――思春期以降の男の子にとって、母親の介入が害になるというと?

村瀬:基本的に、子どもが精通・初潮を迎えたら異性の親はなるべく子どもの世界に入りこもうとしない方がいい。お母さんの場合は特に、自分のお腹で子どもを育てた経験があるので男の子はいつまでも男の子。男性として見ないので危ないです。精通・初潮は子どもの体と心に革命が起きていると思わなくてはならない。男の子からは母が女に見えるということがあります。

これも個人差があるので一概には言えませんが、精通以降の男の子にとって母親の愛着や執着は抑圧、攻撃になる可能性があります。これは女の子にとって父親からの愛着や執着も同じです。子どもから求められたり頼られたりされたらそれにきちんと応えるべきですが、自分から近づいたりすべきではないと距離を取った方がいい。母親にとって息子の部屋、父親にとって娘の部屋はアンタッチャブルゾーンです。

――よく息子のエッチな本を母親が見つけて、机の上に出しておくというような話がありますが……。

村瀬:良くないですね。PTAに招かれてそういう話をすることがありますが、夫に「こういうものが息子の部屋にあった」と言って父親から注意をしてもらうのがいい。父親も息子への言い方として、「お父さんもお前ぐらいのときはこういうのを見たから、お父さんは別に悪いこととは思わない」「でもお母さんからしてみれば、女性がこんな風に扱われているものを息子が夢中になってみていると思うと頭にくると思うよ。だから家に持ってきたとしてもお母さんに見つからないように、扱い方に気を付けろよ」と教えてあげるぐらいで良いと思います。

――マザコンという言葉もありますが、異性の親が介入し過ぎると、どんな弊害があるのでしょう?

村瀬:性的な自立を妨げます。思春期の女の子は父を嫌うと言いますが、異性の親を遠ざけることによって恋人との関係を築く段階に移ることができる。男の子だってやがて彼女とベッドインするときに母親の顔がちらついて、「お母さんが悲しむのでは」と思っていたらもうできないですよね。母親と自分の世界は違う、親とは決別する決意ぐらいないと、セックスをして新しい他者と関係を築くことができないと思います。

支配する性がどのようなセクシャリティを持つか

――ご著書の中で、「男の本能、女の本能というものはない」という話がありました。

村瀬:生物の習性として、「オス」「メス」のあり方の違いを100%否定する気はありません。ただ人間の場合、経験や知識、文化によって身につけるものが決定的なので、「男はみんなこう、女はみんなこう」というのは間違っていると思いますね。

――たとえば、「男は種をまき散らしたい生き物」「女は本能的に有能な強い男を求める」というような言い方はおかしいと。

村瀬:はい。第一、セックスはしなくても死ぬわけではありません。性本能は種族維持のために必要と言いますが、そんなことをしたくない人はいっぱいいます。セックスしない人もいるし、たくさんする人もいるし、子どもがほしい人もほしくない人も、ほしくてもできない人もいる。そう考えると性は本能ではなく、今や個人の価値観のあらわれとして表現される能力です。つまり昔あった種族維持本能論としての性欲は破たんしている。

――なるほど。

村瀬:確かに男性の方が一般的に男性ホルモン(アンドロゲン)が多く、性的欲求が強いと統計的にも言われます。ただ、人間は行動をコントロールできる。ホルモンではなく、大脳で考えて行動するんですから。

だから古くさい本能論に引きずられず、学習によって性に対する考え方や行動のし方を身につけないと納得いく関係を築けないし、納得いく人生を送れません。男は力が強いし、一般的に金と権力を持っている性です。支配する可能性がある性がどのようなセクシャリティ(性の考え方、行動のし方)を持つかということは両者にとって決定的に大きい。だから学んでほしい。もちろん女性たちも、本能論に振り回されて男を嫌ったり憎んだりすがったりするのであってはいけない。主体的で快活な生き方を選択してほしい。そういう意味でも性=本能という考え方は間違いです。

「学ばなくても自然に覚える」はおかしい

――風俗雑誌やAVを指して「男性は放っておいても学ぶ場所がある」と言う人もいます。

村瀬:困るよね。エンタメとして視聴するのは構わないと思うけれど、あれが真実の一面を表すと思っていたら、とんでもなく女性を不幸にするし、まわりまわって自分も不幸になる。男のファンタジーに合わせられることは女性にとって基本的に屈辱です。お互いの了解のもとで、遊びとしてたまにはあっていいとしてもね。小泉純一郎さんは総理大臣だった頃、性教育について「学ばなくても自然に覚える」なんて言いましたが、男の性の環境は絶望的ですよ。大人たちが誰も確かなことを語ってくれないのだから。

――村瀬さんや「ピルコン」の染矢明日香さんたちは、知識を伝え、性を肯定的に捉える性教育を行おうとされています。一方で、日本ではまだ「寝た子を起こす」という理由から性教育が敬遠されがちです。なぜなのでしょう。

村瀬:難しい問題ですが、日本は歴史的に見て、性を人生の重要問題として考えることや、子どもに伝えることをしてこなかったのだと思います。江戸の一般庶民たちは、性差別の問題はあるにせよ、ある程度大らかな性を生きていました。一方で武家社会は「財産は男のもの、女は世継ぎを生むもの」という男性中心の封建的な性モラル。

明治維新は武士たちが中心になって起こしたことですから、それ以降は武家社会のモラルが国のモラルになりました。またキリスト教も入ってきた。キリスト教は一夫一婦制はいいとしても、男が中心で女が従うものとされ、禁欲主義です。

その後ずっと日本の性のあり方は二面性を持ってきました。武家社会を中心として禁欲を是とするモラルと、それは建前で、本音としてはあけっぴろげでいくらかルーズな庶民的な風習の混在です。大人たちも曖昧な混在の中で生きてきてしまっているから、子どもに自信を持って語れない。

次回は、私たちが今後より豊かな人生を歩むため必要な「幸せになるための性教育」について話を伺う。

【後編はこちら】勃起と挿入だけにこだわるセックスは貧しい 豊かな人生のために相手の性を知ろう

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