田房永子さん×小川たまかさん対談(4)

かわいい少女が「痴漢、ユルセナイ…」 茶化しすぎな痴漢ポスターはなぜ生まれるのか

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
かわいい少女が「痴漢、ユルセナイ…」 茶化しすぎな痴漢ポスターはなぜ生まれるのか

痴漢防止ポスター

痴漢加害者と被害者、両方への“誤解”

田房永子さん(以下、田房):加害者を取材したり、性犯罪者に関する文献を読んだりして分かったのは、一般的なイメージにある「痴漢加害者」と実際の人は違うっていうことですね。一般的な痴漢加害者に対するイメージって、2つあると思う。1つは何の問題もない普通の男性が、「つい魔が差して」「酒に酔った勢いで」「ミニスカートの女性にムラムラして」やってしまった、というのと、もう一つは本当にワケの分からない、刃物持ってるかもしれない頭のおかしい人の奇怪な行動、というもの。だけど実際は、普段は普通に生活してる人が日常的に痴漢をしているというパターンが一番多いように思います。いろいろ調べてると。常習者が多くて、依存症みたいな状態になって「やめたいけどやめられない」という人もいる。

小川たまかさん(以下、小川):『性犯罪者の頭の中』(※1)の中にも計画的に犯行を行う加害者や、出所後しばらくして、再犯してしまうことを恐れて自殺をしてしまう性犯罪者が出てきますね。

一方で被害者への誤解もあって、必ずしも派手な格好をしているからとか、容姿が魅力的だからとかで狙われるわけではない。加害者に対する警察の調査では、被害者を狙った理由について最も多かったのは「偶然近くにいたから」で、「服装が派手だったから」と答えた人はかなり少ない(※2)。被害者を「あなたに隙があったのでは?」と責める二次被害は以前から指摘されていますが、これは被害者への“偏見”があるからだと思います。

(※1)鈴木伸元著、幻冬舎新書
(※2)平成23年警察庁「電車内の痴漢に係る研究会の報告書」による。加害者100人への調査では「なぜ、その被害者だったのか」(複数回答)に対して、「偶然近くにいたから」(50.7%)と回答した人が最も多く、「好みのタイプだったから」(33.8%)、「訴え出そうにないと思ったから」(9.1%)、「好みの服装だったから」(7.8%)、「服装が派手だったから」(1.8%)が続く。

田房:痴漢加害者の心理状態を本や資料で読み込んだ後、加害者になりきって駅のホームで電車を待ってる人たちを眺めてシミュレーションしてみたことがあるんです(※3)。「自分が加害者だったら、どの人を選ぶか」を。そうすると、まず駅員からは離れたところにいたいとか、体が大きい女性や服装が派手な女性や30代以上に見える女性は「こわい」と感じるとか、普段とは違う感覚になりました。自然と、地味な格好の体の小さい人が目に入るようになる。

その時思ったんです。「この人なら騒がない(捕まらない)」と確信した相手に近づいて、触ったり自分の好き勝手なことをして、立ち去るときもお咎めなしだったら、女体を触る楽しさと同じくらいの「俺の読みが当たった!」という達成感があるんだろうなって。それって、魚が釣れるスポットを探したりする「釣り」的楽しさじゃんって思ったんですよ。

「痴漢」は性欲だけで起こると思われているけど、そうじゃない。「性欲」と「釣り的レジャー感」と「反撃してこない相手に好き勝手するいじめ」とさらに「ギャンブル性」も備わった複合的快楽の犯罪だと私は思います。それを遂行するために、いじめやすそうな人を選ぶ。反撃してきそうな人は選ばないです、怖いから。だから小中高生が狙われやすい。

(※3)詳細は「女印良品 痴漢目線の体感」(LOVE PIECE CLUB) 。

男子大学生の6.4%が痴漢被害者

小川:どうすれば痴漢がなくせるのか。田房さんが仰ったように、まずは根底の意識を変えないといけないと思います。そのために、被害がそこにあることを知ってもらわないといけない。私は、子どもの被害実態を大人が把握することや、男性被害者の存在を伝えることも意味があると思っています。

子どもの性被害実態を調査するのは難しいことだと思うのですが、たとえば、性暴力被害少年対策研究会がまとめた「少年の性暴力被害の実態とその影響に関する研究報告書」(1999年)によれば、20~50代の女性459人のうち、「性器をわざと見せられた」の生涯被害率(これまでに遭った人の確率)は56.9%、「無理やり体をさわられた」は69.9%。さらに、その被害を19歳までに遭った人の確率は前者が27.5%、後者が29.6%。(※4)

また、男性の痴漢被害に関する調査結果はあまり見つからないのですが、4年ごとに行われている「青少年の性行動全国調査報告」(日本性教育協会)の2011年調査では、男子大学生は6.4%、男子高校生では2.5%が痴漢被害に遭ったことがあると答えています。

「男の子の性被害は笑ってすまされる」ということがこれまであったようですが、それはやっぱり絶対におかしい。子どもでも男性でも被害に遭うという認識が広まった方が、被害者が被害を訴えやすい。たとえば電車内で男性が「痴漢です!」と声を上げたら、みんな「え、被害者はどこ?」って思いますよね。私もきっとそう思います。でもその男性が被害者である可能性もあるんですよね。

(※4)「電車内の痴漢僕熱に向けた取組みに関する報告書」によれば、検挙事例のうち被害者の年齢で最も多いのは15~19歳で49.7%。14歳以下も含めると半数以上が10代の被害者だったという。

田房:もし電車で目の前にいる女子小学生に「痴漢です」って言われたとき、「そういうことがある」って知っているのと知らないのじゃ、できる対応が変わってきますよね。それに、女子にだけ「君たちはそういう目に遭うから気をつけなさい」と言っていたら、男子小学生が被害に遭ったときに、「これは痴漢というものだ」とハッキリ分からないから、声なんて上げられない。ほんと、子ども自身も周りの大人もまずは知るのが大事ですよね。

子どもを持つ親は心配だけど、その一方で子育てに忙しくてそこまで気が回らない人もいると思います。自分の子が性犯罪に遭うなんて考えたくないことだし。

小川:母親と父親で認識の違いがあるかもしれないと思います。あと、子どもを狙う性犯罪者は必ずしもロリコンとかペドフィリアというわけではなくて、「抵抗しないから」「抵抗する力が弱いから」という理由の加害者もいる。「子どもの体に興奮する大人」は想像しづらい人もいると思うんですけど、「弱いから狙う」であれば、わかりやすいと思います。

怒りを感じない痴漢撲滅ポスター

小川:田房さんは『AERA』の記事の中で、「痴漢は犯罪です」というポスターに「痴漢行為は治る可能性があります」と書いて、加害者に矯正プログラムの存在を教えてあげるほうが、痴漢撲滅への近道ではないかと書いていますよね。

田房:「痴漢は犯罪です」っていうのもおかしいんだよね。そんなの当たり前。今貼られている痴漢のポスターで違和感のないものはない。

小川:先日も、「痴漢撲滅ポスターに描かれている婦警さんがあまりにかわいくて逆効果では」みたいな話題がありましたね(※5)。都内でよく見るポスターは少女漫画風みたいなタッチで女の子が「痴漢です!」みたいなやつ。

痴漢防止ポスター

(※5)愛知県警の痴漢撲滅ポスターが「痴漢したくなる」「逆効果」と話題に

田房:茶化し過ぎだよね。楽しんでポスター作ってます感だけは伝わってくる。東京は最近はあればっかりですよね。大阪や京都はもっとたくさんの種類が貼ってあるんだけど、どれもすごいですよ。女の子の顔をアップにして「許せない……」と言わせたり。これ見てどうしろって言うんだろう?

痴漢防止ポスター

痴漢防止ポスター

痴漢防止ポスター

小川:色もピンクだし、遠目に見たらいかがわしいポスターみたい。

田房:この間見たんだけど、「駅員への『ツバかけ』行為は犯罪です」っていうポスターがあるんですよね。私はそれを見たときに、駅員の確固たる怒りを感じたんですよ。「厳しく罰せられる、悪質な迷惑行為です。絶対におやめください」って書いてあって、茶化す空気が全くないし、痴漢ポスターとかなり温度差がある。だって、「ツバ吐きだ! 犯罪よ! つかまえろ!」って少女漫画風のポスター作ったり「駅員にツバを吐いたらあなたの人生台無しに!」とは言わないですよね。ツバ吐きに対しては毅然と怒っているのに、痴漢に対してはそうでもない。むしろ「女の体触ったくらいであなた様のキャリアをつぶすなんてもったいないですぜ旦那」みたいな軽さがある。

>>次回へ続く…

第一回はこちら:お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】
第二回はこちら:生理と同じくらい痴漢は「あって当たり前」 世間がつくり出す、痴漢が許される社会
第三回はこちら:加害者にとって「痴漢しやすい路線」とは? “大衆の無関心”が呼び寄せる性犯罪

(編集部)

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

かわいい少女が「痴漢、ユルセナイ…」 茶化しすぎな痴漢ポスターはなぜ生まれるのか

関連する記事

編集部オススメ

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています