タグ
2015/09/16
【田房×小川連載】お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題
電車内痴漢はどうすればなくせるのか。漫画家・ライターの田房永子さんとライターの小川たまかさんが「お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題」と題して対談する。 田房さんは、『女子校育ちはなおらない』(メディアファクトリー)の中で高校時代の痴漢経験を描いたほか、雑誌『AERA』(2014年12月2日発売号)では、カウンセリングを受けた痴漢加害者に取材し記事を執筆。小川さんは、高校時代の痴漢経験を書いたことをきっかけに、性暴力問題について取材を行っている。
連載一覧へ
田房永子さん×小川たまかさん対談

小川たまかさん

警察が来るまで加害者と同じ部屋の中で待たされる

田房永子さん(以下、田房):小川さんは痴漢に遭ったときに届け出たことは?

小川たまかさん(小川):私は一度もないです。高校の頃、痴漢に遭っている子は多かったけれど、捕まえた子はほとんどいなかった。一人だけ何度か捕まえたことがある子がいました。その子はすごく痴漢に遭いやすい子で、遭うたびに捕まえていたら学校に行けないから「パンツの上から触るだけなら捕まえないけど、それ以上やったら捕まえる」みたいな基準をつくってたそうです。それもひどい話ですけど、捕まえた話を聞いたら「警察が来るまで加害者と同じ部屋の中で待っていなければいけなかった」って言っていて。

田房:最悪だ。異常だよね、そんなの。

小川:それから、その子は捕まえたときの経験から、目撃者が重要って知ってたんですね。警察から「振り返って顔を確認して、触った手の主がその人だって確認したかどうかが重要。だけど混んでいる車内でなかなか難しいから、手っ取り早いのは第三者が目撃証言してくれること」というようなことを言われたから。

だからその次に被害に遭ったとき、結構空いている電車だったみたいですが、「やめてください、次の駅で一緒に降りてください」と加害者に言って、絶対に目撃していたはずの近くに座っているおじさんやおばさんたちに「目撃者としてついてきてもらえませんか?」とお願いしたと。

でも「見てない」「知らない」と言われて困っていたら、一人だけ男子大学生が「見てました。僕も降ります」って言ってくれたそうです。さらに、ドアが開いた瞬間に加害者が「じゃっ」って言ってダッシュで逃げたけど、その男子大学生が走って捕まえてくれたと。それ、その子一人だったら絶対に捕まえられなかったと思います。性犯罪加害者を捕まえるって相当怖いことですよ。そんな話を聞いた高校時代の私は「目撃者も捕まえなきゃいけないの? 超大変じゃん」って思いましたし。

痴漢被害は「自分の人権を盗まれる」こと

田房:無理ですよね。人を捕まえるのは警察の仕事。警察の人はそのための訓練をしてますよね、それを普通の人にやれっていうのは本当におかしい…。そのシステムを考えなきゃいけない。

とあるテレビ番組で、高校生がタレントに「どうして大人は痴漢を見て見ぬふりするんですか?」って質問してたことがあって、タレントが「ああいう犯罪者は刃物持ってるかもしれないんだから、関わらないほうがいい。周りの人も助けられない。被害に遭ってもソーッと逃げるしかない」って言ったの。

確かに痴漢に遭ってる人を助けるっていうのは、とてもリスクがある。それは分かるんだけど、被害者層は一人で乗ってる中高生が多いわけで、そんな怖い人を、その子一人に任せるっていうのがどうなのかって話なんですよね。だけど「刃物で刺されてるわけでもなし、触られるぐらいいいだろう」って意識のほうが強いから、大人たちが子どもにそう伝えてしまう。無理やり触られるって「自分の人権を盗まれる」という窃盗に近いことですけど、そういう意識がない。

小川:権利の侵害なのに、目に見えないから「減るもんじゃないだろ」。

田房:むしろ、刃物を使って脅さなくても他人の体に触ることができてしまう、ということが異常なんですよ。だけど「刃物を使われないだけありがたく思え」みたいな、おかしなことになってる。この意識を変えないと痴漢はなくならない。私は痴漢をなくすために必要なのは大衆意識の変化みたいなものだと思っているんです。

元痴漢加害者の人に取材したときに、「痴漢しやすい路線とやりにくい路線がある」と言っていました。しやすい路線は「見て見ぬふりが当たり前な雰囲気」らしいです。どの路線がやりやすいっていうのは教えてくれなかったけど、痴漢常習者は見つからないこと捕まらないことに細心の注意を払っているから、「やりやすいかどうか」っていう空気に敏感なんだと思う。

小川:無関心が犯罪を呼ぶ。割れ窓理論と似ているかも。

大衆意識が変わらないと被害はなくならない

田房:ちょっと話が変わるんですけど、友達がある街に店を開いたんですね。のどかないい街だなって気に入って。でも、しばらくしたら商品を2万円分ぐらい一気に万引きされてしまった。ショック過ぎて、それから来るお客さん全員が万引き犯に見えるようになってしまったって言ってました。それは意識が「この街には万引き犯なんていない」という思い込みから「万引き犯はうちの店にも来るんだ」というものに100%変わったから。万引き犯センサーができたからなんですよね。

電車内痴漢の問題は、「痴漢なんて本当にいるの?」と思っている人が、圧倒的に多いということ。そういう人は「許さないぞ」とも思わないし、実際に起きていても気づかない。知る機会がないから、「被害者も悪いんじゃないの?」ってところから動けないんだと思う。痴漢センサーがないんだから仕方ないけど、痴漢センサーがない人ばかりだと、痴漢はやりたい放題です。

小川:私も自分が遭ったことがなくて、話を聞いたこともなければ信じられないと思います。知らない人に電車の中でスカートや下着の中に手を入れられるって異常なことだから。

田房:だから、被害に遭ってる人が多くいることを広く知らせて、「痴漢許さん」の空気をつくることがそのまま抑止力になると思っています。でも、それがすごく難しいんですよね。そのまま訴えると、「何も知らないあんたが悪い」というメッセージになってしまうから。すごく暴力的。今までそういう感じで主張してきたけど、それじゃあまり自分の訴えは通らないなと思うようになってきた。

私の場合はですけど、漫画で描くしかないなと思ってます。痴漢が、他人の安心を盗む犯罪であり、いかに人権侵害か、ということを知ってもらいたい。だけど、「人権侵害」という言葉を使わずに、エンターテインメント的なものを入れて話さないといけないと思う。

小川:「人権侵害」という言葉を使わずに伝える理由、エンタメを入れる理由はなぜですか?

田房:私は去年「どぶろっく」という芸人のネタが、痴漢の心理そのものだ、っていうコラムを書いたんです。それを読んだものすごくたくさんの人が反応してて、たぶんお笑いというお茶の間のものと、痴漢という犯罪に接点があるっていうのがセンセーショナルな感じだったんだと思うけど、共感も反発もすごかった。だけど、それまで痴漢のネタをコラムに書いてもそこまでの反応はなかったから、知ってもらえる、という点においてはすごく効果を感じました。

エンタメを入れる、というのは、「お笑い芸人」というエンタメアイテムと対比して説明するとか、明るく楽しく、とかってことではなく、そういった身近な事柄を取り入れて、分かりやすく説明できるようにする、っていうことですね。

>>次回へ続く…

第一回はこちら:お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】
第二回はこちら:生理と同じくらい痴漢は「あって当たり前」 世間がつくり出す、痴漢が許される社会

(編集部)

●田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京生まれ。漫画家/ライター。武蔵野美術大学短期大学部美術家卒。2000年漫画家デビュー。著書に実母との闘いを描いた『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)、自身の出産・育児を通して感じた違和感を赤裸々につづった『ママだって、人間』(河出書房)、心から「呪詛」を抜くことで自分の体を肯定的に捉える『呪詛抜きダイエット』(大和書房)など。女性漫画家8人がそれぞれの女子校時代を描いた共著『女子校育ちはなおらない』では、女子校時代の痴漢被害について描いた。近日中に、「なぜ電車内痴漢はなくならないのか」を考えるホームページをオープン予定。 公式サイト:むだにびっくり

●小川たまか(おがわ・たまか)
1980年東京生まれ。ライター/編集プロダクション・プレスラボ取締役。立教大学大学院文学研究科卒。大学院在学中にライター活動を始め、フリーランスとして活動。2008年から現職。雇用・教育・企業取材などを、日経トレンディネット、ダイヤモンドオンライン、ウートピなど主にWeb媒体で執筆。2015年1月に公開した記事「女子高生という子どもが、電車内という社会で、痴漢という性被害に遭うことについて」 への反響を受けて以降、性犯罪についての取材を続ける。 Yahoo!ニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる
この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています