公益財団法人「21世紀職業財団」河上隆さんインタビュー(前編)

職場で注意しただけで”パワハラ”扱い 部下と上司の世代間ギャップが生む悪循環を断ち切るには?

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職場で注意しただけで”パワハラ”扱い 部下と上司の世代間ギャップが生む悪循環を断ち切るには?

パワハラを考える

セクハラ、パワハラ、マタハラなど、近年では様々なハラスメント用語が作られ、多くの場所で目にするようになった。

そこで、良好な職場環境の整備に向けて、セクハラやパワハラなどハラスメント防止事業を推進している公益財団法人「21世紀職業財団」の河上隆さんに、現在のハラスメント事情を3回にわたって聞く。前編ではまず、近年のハラスメントの傾向や、最もグレーゾーンと言われる「パワーハラスメント」にスポットを当てる。

最近多い「セクハラとパワハラの合わせ技」

――セクハラ、パワハラだけでなく、最近では様々な“ハラスメント”という言葉を目にするように思います。社会全体的に増加傾向にあるのでしょうか?

河上隆さん(以下、河上):この1年、ハラスメントを取り巻く環境というものを振り返ってみますと、印象的なのは「都議会のセクハラ野次問題」ですよね。男女雇用機会均等法が1986年に施行されて、30年も経とうとしているのに、未だに東京都議会の議員さんがこういったセクハラをするということは、極めて残念です。しかも安倍首相が“女性の活躍推進”を重要政策のひとつに位置付けているのにもかかわらずです。

――近年で見られるハラスメントの特徴はありますか?

河上: 最近はセクハラ単独というよりはセクハラとパワハラの合わせ技みたいなものが増えているんです。セクハラの相談は、各都道府県の労働局雇用均等室で受けているんですが、ここ数年の間、件数は減っているものの、案件自体はすごく重篤化していて、パワハラとの合わせ技で「俺と関係を持たなかったら辞めさせる」などというものがあからさまに出てきています。パワハラって大声で怒鳴ったりとか周囲の証拠が残りやすいんですけど、セクハラは当事者間で行われるので、なかなか表面化しづらいという面もあります。

世代ギャップによってなくならないパワハラ

河上隆さんインタビュー

河上隆さん

――ハラスメントはやられた本人が不快感を抱いた時点でハラスメントと認定されるのでしょうか?

河上:実はそうではないんです。特にパワハラの場合は、大事な部下を活用して付加価値を高めて、会社に貢献しなくてはいけないという管理職のミッションがあるわけですから、実績を上げるためには指導というものを必ずやっていかなければならない。それがハラスメントとどう違うのかというと、やはりグレーゾーンなんですよね。基本的には「相手が不快に思う」ことに加えて、「社会的な相当性がない、業務としての範囲を逸脱している」、という視点からハラスメントと判断されます。ただ、感じ方が人によって違うわけですよ。ジェネレーションによっても全然違いますし、そこで受けた教育によっても全然違います。

――確かに、世代ぞれぞれの考え方によっても大きく違いそうですね……。

河上:変な話ですけど、30年位前までは、灰皿は投げるわ、怒鳴るわ、机は叩くわ、蹴るわ……それを受けてきた人たちが管理職で40歳、50歳になってきているわけです。また、この層って2つに分かれるんですよ。「僕も受けてきたんで次の世代にはやらないぞ」というきちんとしたコンプライアンス感覚を持った人と、「俺だってやられたんだから別にいいだろう」という人と。

そういう負の連鎖を断つことが求められているんですが、簡単には変えられない。加害者にインタビューすると、「100%そんなつもりはなかった」というんですよ。それがギャップ、認識の違いなんですよね。やってる側にしたら指導の一環で、「何を甘っちょろいこと言っとるんだ」となるわけですが、受けている方は、親にも先生にも非常に大事にされ、怒られてこなかった人たちなんですね。軽いつもりで叱責したものが、ハラスメントとして捉えられるという場合もある。

不平不満までハラスメントだと訴える若者も

――打たれ弱い若者、確かに多いと聞きます。

河上:管理職が管理職としてのミッションを果たしていくために、やらなければいけないことができないという時代でもあります。また一方では、なんでもハラスメントだと訴えるのも最近の傾向で、「自分の希望する部署に行けない」とか、「転勤希望が叶えられない」とか、「評価が悪かった」っていう不平不満までハラスメントだと訴える若い人たちがいるんですね。

その人の評価は直属の上司が個人単独でするわけではなく、組織として決めるわけじゃないですか。だいたい、企業において自分の希望が叶えられるなんてことは、ないといったらおかしいですが、非常にハードルが高いわけです。人に認められて成果をあげるということは非常に難しいことなんだという意識を持っていない人もいます。この人たちの思考回路は、「僕が失敗したのは僕が悪いんじゃなくて、周りが悪いんだ」なんですね。その「周りが悪い環境」から脱すれば、普通の状態になるから、会社を休んで海外旅行とか行ったりする。そういう人たちに今の管理職の人は対応していかなきゃいけない。こういった人材に悩んだ管理職がうつになって、会社休んで有意な人材を失っていくというケースももちろんあるんです。

「反論しない」「内向的」など、ターゲットになりやすい人がいる

――パワハラだ! と訴えた被害者がいたとしても、果たしてそれが本当にハラスメントに当たるのか、実態は見えにくいのですね。一方で、パワハラの被害者が自殺をしてしまうという悲惨な事件も起きています。

河上:昨年の11月に、福井の消化器販売会社で新入社員が自殺した事件に関して、ある判決がありました。遺族側が1億円を超える 賠償を求めた事案の判決で約7,200万円を認めたんですが、なぜこんなに高額な賠償判決が出たかというと、この方、19歳だったんですよ。ちなみに、パワハラ案件で、未成年が自殺するというケースはこの事案が初めてなんですが、若いが故に、生涯、被害に遭わなくて働き続けた場合に得られたであろう利益が失われたということ、つまり遺失利益が認められたからなんです。

――それだけ、そのパワハラというものが酷かったというわけですか?

河上:実態は、本当に酷いものです。毎日毎日、暴言は吐かれるは、暴力まがいのことまでやられるわ、職場で無視されるは……。

――なぜ、この19歳の少年がターゲットになったのでしょう。

河上:「反論しない」「おとなしい」「内向的」など、ターゲットになりやすいタイプの人というのがいるんです。「ちょっとそれやりすぎでは」とか、「職場環境を保持していこう」というような感覚がない事業主も実際にいるのは事実ですね。

――近年、ハラスメントにおける賠償金請求額は年々上がっているように思われますが?

河上:膨大なノルマを課せられた飲食チェーン店の店長が自殺してしまった事案では、社長個人の責任も問うことになりました。社長が見て見ぬ振りをして、店長の自殺まで追い込んだと。パラハラに限らずハラスメント案件は「重罰化」もしくは「賠償金の高額化」の傾向が強まってきていますね。

25年程前まではセクハラが認められても、賠償金額はせいぜい5万円とか、高くて30万円というようなレベルの時代でした。三菱自動車がアメリカで訴えられた時は数億円単位での賠償金が課せられています。アメリカの訴訟感覚は行き過ぎた部分もあるかもしれませんが、セクハラで一生を失うほどのダメージを負った女性に対して30万円でいいのかっていう話はありますよね。まだアメリカほどではないですが、ハラスメントに対する意識や、社会的な寛容度が低くなり、厳しい判決がここ2~3年続いていますね。

ハラスメントが抱える深い闇ーー中編では、職場でのセクシャルハラスメントについて詳しく話しを聞く。

>>中編へ続く…

(橋本真澄)

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