小熊英二監督インタビュー

デモは一時の“流行”で終わらないのか? いま日本人が首相官邸前に集う理由

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デモは一時の“流行”で終わらないのか? いま日本人が首相官邸前に集う理由
小熊英二監督インタビュー

小熊英二さん

安保法案反対、集団的自衛権反対などのデモに参加する人々が増えています。2015年8月30日の国会前デモに様々な年代の人々が多く集まったことを報道で知った人は多いでしょう。

この注目の現場をドキュメンタリーで紹介した映画『首相官邸の前で』が、今月19日から東京や大阪、名古屋、仙台、札幌、広島などで公開されます。この映画は、2012年夏、福島第一原発事故後の政府の対策に抗議する人々の官邸前のデモを映し出したもので、デモの現場にいた人たちが撮影していた映像、自宅に戻れない福島の女性がデモに駆り立てられた経緯や、菅直人元首相のインタビューにまで渡り、高揚した実際の現場を鮮明に映し出した内容になっています。

デモをしていったい何が変わるのか? 歴史社会学者であり慶応大学教授の小熊英二監督に、デモを通して見えてくるもの、社会の変化について聞きました。

デモは世の中の動きのひとつの表われ

小熊英二監督インタビュー

『首相官邸の前で』より

――この映画を見ると、政治への意識・感心が薄かった人でも心が動かされる内容だと思ったのですが、この作品を作られた理由は?

小熊英二さん(以下、小熊):いままで政治について考えたことがなかった人であっても、この映画を見ることによって、何かしらその人の気持ちが動くように作りました。こういうデモが行われていたこと、そのように世の中が動いていること、そういうことを知るだけで、意識は変わると思います。また人々が真摯に訴えている姿は、やはり人を動かしますよ。またメディアの方が見ることによって、彼等から世の中に発信される情報も変わっていくでしょう。

――また、この映画の映像に収められている2012年の夏、日本の政治は民主党が司っていました。そして2015年8月30日の国会前デモのときは自民党でした。政党によってデモへの対応は違うのですか?

小熊:デモというのは、社会の状態の表れです。たとえば、「年越し派遣村(※)」という事件がありましたね。あそこに集まっていた人自体は、さほどの人数ではありません。しかし、「彼らが社会の状態を象徴している」と思われたことで人々の認識や行動が変わった。デモもそれと同じで、社会の状態を、文字通りデモンストレーションしている。
そういう変化の兆候に対して、自民党は感度が少々鈍い。業界団体や町内会といった基盤の上にある政党なので、そこからの声には敏感に反応するけれど、その外で起きている事態には鈍いんです。小泉政権時代は、それでも無党派をつかもうと努力していたけれど、最近はそれもあまりやっていない。それに比べると民主党は、政党としての基盤が不安定なので、国民のいろいろな動きに敏感にならざるをえなかったという違いはあるでしょう。

(※)年越し派遣村(としこしはけんむら)とは、複数のNPO及び労働組合によって東京都千代田区の日比谷公園に開設された避難所。政治的意図を持った社会運動の側面もある。

派手なパフォーマンスは偏見を緩和させるため

小熊英二監督インタビュー

『首相官邸の前で』より

――デモに集まる人の中には、派手な格好をしたり、楽器を鳴らしてみたりというパフォーマンスをする人がいます。あれも彼等なりの抗議メッセージなのでしょうか? 見方によってはお祭り騒ぎみたいにも見えてしまうのですが。

小熊:2011年から2012年のときは、デモストレーションに日本社会が慣れていなかった。だから、デモは怖いものではない、センスの悪い人たちがやっているのでもない、と伝えたいという気持ちが、主催者に強かったと思います。“ちゃんとオシャレして来るように”と言う主催者もいたくらいですから。だからあれは、真剣な試みだったんですよ。

ただそれがどう見られていたかはわかりません。捉え方は人それぞれですから。主催者の中には“そういう派手なことをすると、真面目にやっていると見てもらえないからやめた方がいい”という方もいました。そういう議論や試行錯誤も含めて、真剣だったと思います。

――なるほど。そういうことなのですね。

小熊:今は、デモへの偏見が減ってきましたから。そういうことをする必要は若干なくなってきたかなとは思います。

あとは、アーティストの方も多く参加されていたので、そういう人たちが、デモに工夫をもたらしたという一面もありました。実際に参加してみるとわかりますが、太鼓が鳴っているほうが元気もでます。女性の参加者には、恥ずかしくて叫ぶのが苦手なので、ドラムをたたく方が気が楽だ、という人もいました。それは映画にも描かれています。

――様々な年代の方たちが政府への抗議デモで国会に集まって、海外でも報道されるほどに大きなデモになりました。でもちょっと心配なのは、これが流行みたいな一時期の盛り上がりで終わってしまわないかと思うのですが。

小熊:毎週何万もの人が集まるのが、ずっと続くということはないでしょう。寄せては返す波のように、多い時期もあれば少ない時期もあるでしょう。しかしこれからは、「デモのやり方にいろいろな流行がある」ということはあっても、「デモが一時の流行のように消えた」ということはないだろうと思います。選挙で代議士を選んで審議するという政治の形は、20世紀に発達しましたが、21世紀の社会の声を反映する制度としては不十分です。まったく新しい制度に移行するかどうかはわかりませんが、みんな満足してはいない。その状態が続く以上は、デモも、またそれ以外のいろいろな政治的表現も、増えていくでしょう。

――日本社会の未来について、何かやらないといけないと誰もが思うようになっているのですね。

小熊:みなさん、いろいろな不安や不満はあるのではないでしょうか。年金、社会保障、教育など、政治家に任せきりで大丈夫とは、みな思わなくなってきている。原発事故は、そのきっかけになったでしょうね。

もちろん、デモだけが表現ではない。社会福祉事業やNPOを立ち上げたりする方もいるでしょう。何にしても、政府はすべてをカバーするのは難しくなってきました。自分で動かざるを得ないし、自分で声を上げざるを得ない。それをしなければ、どんどん悪い位置に追い込まれていく。そういう状態になってきたということです。

“世の中を見る目”を将来的に養うべき

小熊英二監督インタビュー

『首相官邸の前で』より

――政治に意識を向けることは重要だと思うのですが、いまや情報が多すぎて取捨選択するのが難しい時代です。そんな中で、自ら情報を見つけて、必要なものを選択するにはどうしたらいいでしょうか?

小熊:自分が普段接触しないような情報を、できるだけ得るように意識した方がいいと思います。同じサイトばかり見たり、SNSで同じ話題の人とばかりやりとりしていると、どんどん視野が狭くなっていく。これから先、自分が好きな情報しか収集しない人と、幅広く情報を収集する人との格差は広がっていくと思います。

それから、ネットやメディア経由で情報を得るだけではなくて、現場へ行くことも必要。実際に見ると、情報の質と量が全然違う。そういうことを心がけるかどうかは、その人の関心の持ち方から、物事を分析する力、世の中を見る目などに影響します。望ましいことではないですが、それは結果として、収入やキャリアや人間的魅力の差となって、表れてくるでしょう。だから、ふだんは観ないような映画も、観てみるといいと思いますよ。

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