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2015/09/09
【田房×小川連載】お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題
電車内痴漢はどうすればなくせるのか。漫画家・ライターの田房永子さんとライターの小川たまかさんが「お前らいつまで痴漢しつづけるつもりだ問題」と題して対談する。 田房さんは、『女子校育ちはなおらない』(メディアファクトリー)の中で高校時代の痴漢経験を描いたほか、雑誌『AERA』(2014年12月2日発売号)では、カウンセリングを受けた痴漢加害者に取材し記事を執筆。小川さんは、高校時代の痴漢経験を書いたことをきっかけに、性暴力問題について取材を行っている。
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田房永子さん

田房永子さん

自分が子どもの頃経験した痴漢被害が、今の子どもたちにも引き継がれてしまっている現状を知った田房さん。子どもたちのために私たちにできることは何なのだろうか。第2回では、小川さんが痴漢被害の実態について取材を始めたきっかけや、中学生時代の田房さんが警察に被害届を出した際の話をもとに、“電車内痴漢はどうすればなくせるのか“を考える。

>>【第1回はこちら】お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか

ブスだと「勘違い」 美人だと「自慢」

田房永子さん(以下、田房):小川さんはどういうきっかけで取材を始められたんですか?

小川たまかさん(以下、小川):田房さんもご存知だと思いますが、今年の1月に、あるニュースサイトの記事がプチ炎上したんです。「60代女性で女性専用車両を必要だと思っている人が○%もいる。痴漢する方も相手を選ぶと思いますけどね」みたいな内容でした。

もしこれが別の犯罪だったとしたら、こんな風に加害者側に立った書き方をしたり、茶化したりすることはまずないと思います。自分や家族の防犯を考えている人を揶揄するようなことを、他の犯罪では言わないですよね。で、性暴力についてはこういう風潮があるっていうのを以前から感じていました。ネットで有名な「私は特にどこでもいいです」の画像がありますよね。テレビの路上インタビューに「女性専用車両は必要」と言っている女性と、「どこでもいい」と答えた女性の外見を比較している画像です。(※)

ああいうのも内心では「嫌だな」と思っていたんですけど、何も言ってきませんでした。反発が怖かったんですね。ああいう画像に対して不快感を示したら「ネタにマジレス」って言われるかもとか、自分の被害や痴漢撲滅を訴えたりしたら、「同情されたいの?」とか「自意識過剰だ」とか言われるんじゃないかと。

(※)「私は特にどこでもいいです」と答えた女性、関口愛美さんはその後芸能活動を開始。ガジェット通信のインタビューに対して、自身も幼少の頃から性被害に遭っていたことを明かして、「私からしたらなんでそんな痴漢のために車両を移動しなくちゃいけないのって思って。もちろん何も言えない子にとっては有り難い車両だと思うんですよ」と、インタビューに「どこでもいい」と答えた理由を語っている。

田房:ブスだと「勘違い」、美人だと「自慢」とか言われて、どっちも信じてもらえないよね。

小川:そういう反応ばかりだから、スルーして「なかったことにする」女性も多いんだと思います。昨年結婚して、子どもを産むことを現実的に考えるようになったこととか、姪っ子甥っ子がどんどん大きくなっていくのを目の当たりにしたりとか、「痴漢する方も相手を選ぶ」の記事を見たときにいろんなタイミングが重なって「反発があってもいいから、この違和感を書こう」と思いました。

私は初めて痴漢されたのが小学生のときだったんですが、子どもでも被害に遭うことを身をもって知っているので、子どものためにできることをしなければというか。若いうちは言いづらかったけれどもういい年だし、どう思われてもいいや、というのもあるかも。

田房:この間見た映画(ロマン・ポランスキーの『おとなのけんか』)で、平和や正論を訴える女に「男が好きなのは官能的でクレイジーな女なんだよ、あんたみたいな女にはそそられない」って男が言うシーンがあって、うわあああって思いました。痴漢被害を訴える人への反発ってこれが軸にあるんですよね。

私もできれば男をそそっていたいし、官能的でクレイジーでいたいですよ。だけどやっぱり、言わなきゃいけないことがある。リアルタイムで被害に遭ってるときに言えなかったことが、30代になってやっと言える。本当は声を上げやすい環境を作って、そういう教育を男女共に受けなければいけないんだけど、今は、ひっそりとそういう被害に遭ってる人たちまかせっていう状況になってる。

「生理きた」と同じくらい「痴漢は、いて当たり前」

小川:高校時代を振り返ると「痴漢は、いて当たり前」って思っていました。田房さんも『女子校育ちはなおらない』の中で、先生に被害を伝えても「春だから(変質者が)増えてきたよね」ぐらいですまされると描いてましたよね。

田房:扱いが生理と同じなんだよね。「生理きた、うざい」っていうのと同じように「痴漢うざい」って教室内で語られていて、そういうのを思い出すと本当に異常なことだなと思います。それで、書いた記事の反応はどうだったんですか?

小川:「こんな女を痴漢するのはもうろくしたジジイだけ」みたいな嫌なコメントもあったんですけど、それ以上にたくさんの人から共感の反響がありました。「自分も何度も被害に遭った」とか「小学生の頃に一番被害に遭った」とか。怒っている人は実は多くて、やっぱりこれは見過ごせない問題だなと。男性被害者からもコメントをもらったし、「家族が悪質な痴漢被害に遭って犯人を絶対に許せない」という男性や、「知り合いが、痴漢した話を自慢げにしていて怖くてその場から逃げた」という男性もいました。

「被害届書く? 時間かかっちゃうよ」

小川:田房さんが仰っていた、日本の「痴漢を守る」社会構造というのはどういうことですか?

田房:たとえば警察。私は中学生のときに痴漢の被害届を出したことがあるんです。学校のそばに古本屋があって、ちょうどその隣が警察署だったんです。それで全然お客がいないその古本屋で立ち読みしてたら、後ろから尻を手で撫でられたのが分かって、エッ? と思って固まってたら、その触ったヤツが後ろから私の前に回ってきて、パッて顔を上げたら、宮崎勤みたいな顔のメガネの男が私の前に回ってきてニターッて笑いながら私を見下ろしてるんですよ。全身血の気が引いて、足が絡まりながらダッシュして警察署の前に立ってる警官に「痴漢! 捕まえてください!」って言ったら、その男が自転車に乗って爆走して行っちゃって。

小川:それで、警察は?

田房:「あいつです、あいつです、捕まえて!」って騒いだんだけど、警官は「あ~、あいつか!」って駆けだしてはくれたけど、どことなく「コラッ」みたいなテンションなんですよね。無線で指令してパトカー出動とかシリアスな感じではない。

それで、「被害届書く? 書いてるあいだに、追いかけておくから」と言われて、そのあと「他の警官が周辺を探しに行ったけど、見つからなかった」って報告を受けたような記憶がある。

小川:被害に遭ってすぐ、加害者からそういう態度を取られると、怖いですよね……。

田房:それまでも痴漢に遭ってたけど、顔を合わせてくる痴漢というのはいなかったから、ほんとに怖くてショックで、顔面蒼白でうつむいてました。被害届って書き間違えたりすると指紋を捺しまくるんですよ。とにかく延々と「ここも、ここも」って言われて指紋を捺した。犯人の指紋より私の指紋のほうが警察にあるってなんなんだろうってどんどん暗い気持ちになってきて、だけどなんか、そういう中学2年生に気を使ってるのか、警察の人たちの対応はほがらかなんですよね。

犯人の似顔絵(モンタージュ)を描いてって言われて、吐きそうになりながら描いたら警察の人たちが「絵が上手いね!」って盛り上がりだして「ホラ、うまいよ」って別の部屋の人を呼んできて、「きゃー、すごい上手い!」って大勢集まって褒めてくれて。こっちも悪い気はしないから、エヘへ……みたいな感じになったりして。帰りは車で送ってくれて、母がケーキを渡して「お世話になりました」みたいな。

小川:え、ほのぼの……?

田房:「三丁目の夕日」感がすごかったですよ。なんか妙だな~とは思ったけど、それで犯人が捕まればいいと思ったんですよね。

小川:捕まったんですか?

田房:全然。それでまたすぐに同じような被害に遭って、また警察に行きました。そうしたら警察の人がね、「また被害届書く? でも時間かかっちゃうよね」って。面倒だからなのかわからないけど、書かないように誘導するんですよ。1回目は対応したけど、2回目だしもういいじゃん、みたいな。確かに被害届書くのって2~3時間かかるんですよね。それでも「書く!」って言って書かせてもらったんだけど、前回のダイジェスト版みたいな感じでサラッと終わりました。モンタージュとか書かなかったし。そのあとはもう、警察に届けるという気持ちがなくなってしまったんですよ。

今も「警察に被害届を出せ」って被害者に言うけれど、実はそれが一番現実的じゃないっていうか、実際無理だって思いますね。そこを変えなきゃいけないんだけど……。

小川:昔よりは対応が良くなっていると信じたいし、きちんと対応してくれるところもあるとは思うのですが、被害者の方に話を聞くと、警察に対して不信感を持っている人もいますね。

>>続きはこちら:【第3回】加害者にとって「痴漢しやすい路線」とは? “大衆の無関心”が呼び寄せる性犯罪

(編集部)

●田房永子(たぶさ・えいこ)
1978年東京生まれ。漫画家/ライター。武蔵野美術大学短期大学部美術家卒。2000年漫画家デビュー。著書に実母との闘いを描いた『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)、自身の出産・育児を通して感じた違和感を赤裸々につづった『ママだって、人間』(河出書房)、心から「呪詛」を抜くことで自分の体を肯定的に捉える『呪詛抜きダイエット』(大和書房)など。女性漫画家8人がそれぞれの女子校時代を描いた共著『女子校育ちはなおらない』では、女子校時代の痴漢被害について描いた。近日中に、「なぜ電車内痴漢はなくならないのか」を考えるホームページをオープン予定。 公式サイト:むだにびっくり

●小川たまか(おがわ・たまか)
1980年東京生まれ。ライター/編集プロダクション・プレスラボ取締役。立教大学大学院文学研究科卒。大学院在学中にライター活動を始め、フリーランスとして活動。2008年から現職。雇用・教育・企業取材などを、日経トレンディネット、ダイヤモンドオンライン、ウートピなど主にWeb媒体で執筆。2015年1月に公開した記事「女子高生という子どもが、電車内という社会で、痴漢という性被害に遭うことについて」 への反響を受けて以降、性犯罪についての取材を続ける。 Yahoo!ニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる
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