田房永子さん×小川たまかさん対談(第1回)

お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】

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お前らいつまで痴漢し続けるつもりだ問題 電車内の性犯罪はなくせるか【田房永子×小川たまか】

警察庁の発表によれば、2013年における電車内での強制わいせつの認知件数は304件。迷惑防止条例違反として検挙された痴漢行為は3,583件だった(どちらも全国/2013年)。ただし、「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」(2011年・警察庁)では、被害に遭った中で警察に届けた人は10分の1程度という調査結果があり、実際の発生件数は認知件数の何倍にもなると考えられる。

痴漢問題

ウートピ世論が以前行った調査「実は過去に性暴力を受けたことがある?」のコメント欄には、「ないに入れたけど痴漢なら山程ある」「痴漢にあったことある程度だからないにした」など、女性自身が痴漢を「性暴力」と認識していない現状が垣間見えた。加害者側の「痴漢“ぐらい”いいだろう」、被害者側の「痴漢“ぐらい”ガマンしよう」という意識が、痴漢という性犯罪がなくならない理由の一つなのかもしれない。

電車内痴漢はどうすればなくせるのか。漫画家・ライターの田房永子さんとライターの小川たまかさんが対談する。

田房さんは、『女子校育ちはなおらない』(メディアファクトリー)の中で高校時代の痴漢経験を描いたほか、雑誌『AERA』(2014年12月2日発売号)では、カウンセリングを受けた痴漢加害者に取材し記事を執筆。小川さんは、高校時代の痴漢経験を書いたことをきっかけに、性暴力問題について取材を行っている。

電車内痴漢は絶対になくせる

小川たまかさん(以下、小川):この対談は私からウートピ編集部に提案しました。提案した理由は、田房さんが以前、「性犯罪をすべてなくすのは難しいかもしれないけれど、電車内の痴漢は絶対になくせると思う」と仰っていたのがすごく印象に残っていたからです。言われてみれば、そりゃそうだよねって思ったんですよね。だから、なくせるということを前提にして、なくすためにはどうすればいいかを田房さんと話したいと思いました。

田房永子さん(以下、田房):電車っていうのは、面積がとても限定的ですよね。1車両の中に混雑時は150人以上の老若男女が乗ってるわけだけど、電車内痴漢っていうのはその中で発情したり、他人に性的ないやがらせをしているわけですよね。道ばたで抱きつかれたり、体を触られたり、見せられたり、卑猥な言葉を言われたりとか、電車以外の場所でも「痴漢」と呼ばれる性犯罪や性暴力っていうのは起こっているけど、それらは範囲が広すぎてどこから出てくるか分からないし、やめさせることができない、っていうのは分かるんですよ。でも、電車っていう、人がたくさん乗ってる細長い箱の中ででも、やめさせることができないのは、単純になんでなんだろうと思うんですよね。

小川:夜、誰もいない場所で起こるわけではなく、多くの場合が朝や昼間、周囲にたくさんの人がいる状況で起こる犯罪ですからね。スリと違って痴漢は「相手に気付かれないように行う」犯罪でもないです。

田房:うん。でも私自身も、「電車内痴漢ってよく考えたら簡単に撲滅できそうなのに、どうして実現してないんだろう」と思うようになったのは、30歳過ぎて痴漢について調べ始めてからでした。子どもの頃から、「痴漢するような“変な男”がいるのは当たり前、女である自分は被害にあっても仕方ない」みたいな空気が充満していたから、「撲滅できるんじゃないか?」なんて考えたこともなかったです。でも実際は、そういう空気を作る世の中の認識と風潮が、痴漢犯罪を伝統のように守ってしまっている原因だと思うんですよね。警察や刑務所内での動き方も、鉄道会社の対応も、その伝統を守るのに一役買っちゃってると思う。だからその歪んだ仕組みに対してアクションを起こせば、電車内限定なら、痴漢犯罪はなくせるんじゃないかと思うんです。現実的に、50年くらいはかかるかなと思ってるけど。

私がばあちゃんになったときに孫世代から「えーっ! おばあちゃんの時代って電車の中で体触られたりしてたの? なにその時代? 信じられない!」と言われたいんです。夢物語かもしれないし、50年後に電車が今みたいにあるかわからないけれど。電車がなくなるちょっと前にでも電車内痴漢がなくなってほしいって、思ってるんですよね。

舘ひろしの禁煙CMに感化された

小川: 70年前まで女性には選挙権がなく、それが「当然」だったけれど、今は男女とも選挙権があるのが当たり前。時代によって常識は変わるので、それを考えると今の電車内痴漢があって当たり前という認識や状況も変えられるかもしれない、と私も思います。

田房:2010年頃から舘ひろしの禁煙CMがテレビで流れていたけど、痴漢について調べだしてから、あのCMを見て衝撃を受けました。ほんっとうにびっくりした。昭和の、タバコをバカスカ吸いまくる時代の、石原軍団の俳優さんが禁煙CMに出てるって、世の中の指向ってこんなにガラッと変わることがあるんだ! と思ったんですよ。痴漢犯罪も同じで、今は「そういう人(痴漢するような人)がいるのはしょうがない」という風潮になっちゃっているけれど、ガラリと意識が変わることがあるのではないかと。舘ひろしさんを見て感化されて(笑)、頑張ろうと思いました。

理解・共有されない痴漢被害

小川:田房さんが痴漢について調べ始めたきっかけを聞きたいです。

田房:2011年の2月、渋谷駅のホームで「痴漢は犯罪です」っていうポスターを見たんです。ずっと貼ってあるポスターだけど、そのときはなぜか目に入ったんです。「あれっ、これが貼ってあるってことは、今も痴漢犯罪ってあるってことだよね……」って思って。自分が子どもの頃から遭っていた痴漢被害、中高生時代は朝、登校すればクラスメートの誰かが「痴漢に遭った!」と怒ってて、そんな状況が今の子どもたちにも引き継がれちゃってるんだ、って大人になって初めて気付いた。痴漢に遭って怒っていたことを忘れていた自分にめっちゃくちゃ腹が立ったんです。罪悪感もすごかったし、それで調べるようになりました。

自分の痴漢経験や思っていることを周囲に話してみたら、痴漢犯罪って人によって認識が全然違うってことが分かったんです。全国どこでもある犯罪ではなくて、一部の大都市で被害件数が多い犯罪なんですよね(※1)。被害に遭う時期も10代~20代前半がやっぱり多いと思うから、私みたいに大人になると忘れてしまう人もいる。そもそも忘れたい記憶だし。被害者層が、ある程度限定的なんですよね。

だから電車に乗る機会があまりない地域出身の人は、そもそも電車内痴漢を「都市伝説」だと思ってる人もいる。男性は「本当にそんなことあるの?」と聞き返してくる人が本当に多いし、女性も電車内痴漢被害に遭ったことがない人は、実態が分からないんですよね。空き巣とか放火とか別の犯罪だったら、なんとなくどんな犯罪か、被害に遭ったらどんな気持ちになるかっていうのがパッと浮かぶけど、痴漢被害っていうのは遭ったことがある人とない人の認識の差がものすごく大きい。

(※1)前出の「電車内の痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」(2011年・警察庁)でも、インターネットによる意識調査の際、対象を東京・名古屋・大阪に居住する、通勤・通学のため電車を利用する16歳以上に設定している。

小川: Amazonで「痴漢」を検索してみたら、出てきたのはポルノ小説ばかりだったって以前、仰ってましたね。もしくは痴漢冤罪についての本だったり。痴漢に遭わないための対策について書かれているような書籍はなかったと。

田房:痴漢をする人の心理をまず知らないと動けないなと思って、そういう本を探したんだけど、強姦の加害者についての学術書や論文みたいな本は売ってても、一般人が電車内痴漢加害者の心理を気軽に知ることができる本、というのは当時1冊も見つからなかったです(※2)。私が書くしかない、と思って、出版社の人に「痴漢についての記事を書きたい」「本を出したい」って言っても「売れないから」と言われてました。確かに、私以外の誰が読むんだろう? っていうのは思ったけど。でも、去年くらいからネット上ではグングンと変化してるのを感じますよ。ネットで痴漢の話を書くと、必ず「冤罪のほうが大変なんだ」っていう人に絡まれて終わってたんだけど、それ以外の人たちに広がってる感じはしますね。実際、昨年の終わりに『AERA』で記事を書かせてもらえたし、痴漢についての漫画連載が決まったし。ちょっとずつ社会が変わってる実感はあります。

(※2)2015年7月に発売された『性依存症のリアル』(榎本稔/金剛出版)の中では、痴漢や露出行為を行う加害者とその被害者両方の視点が語られている。田房さんは取材時にこの書籍を持参していた。

>>【続きはこちら】生理と同じくらい痴漢は「あって当たり前」 世間がつくり出す、痴漢が許される社会

(編集部)

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