漫画家・今日マチ子さんインタビュー

戦争を知らない世代が戦争マンガを描く理由 漫画家・今日マチ子と考える戦後70年

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
戦争を知らない世代が戦争マンガを描く理由 漫画家・今日マチ子と考える戦後70年
戦後70年の今、戦争を考える意味とは

『ぱらいそ』(秋田書店)より

戦後70年を迎える今年、安保問題に揺れ動く日本において、少女の目を通して戦争を描いたシリーズの最新作となる『ぱらいそ』(秋田書店)を発表した人気漫画家の今日マチ子さん。美大で現代アートを学びながら、より多くの人に手軽に楽しんでもらえる表現をしたい、と漫画家の道を選んだ今日さんに、戦争を描き続けること、戦争を知らない世代が考える意味についてお話を伺いました。

戦争からは意識的に遠ざかっていた

――戦争と少女を描いたシリーズの第一弾であり、沖縄のひめゆり学徒隊に想を得て描かれた『COCOON』(秋田書店)についてお聞きします。この作品に取り組むまでに、戦争について深く考えた記憶はありますか?


今日マチ子(以下、今日)
:ないというか、むしろ意識的に遠ざけていたと思います。もちろん、平和教育の一環としての戦争には触れてきましたが、大人になってからも戦争には恐怖心しかありませんでした。ただ、『cocoon』の企画を提案してくれた編集者の話に納得できたので、迷いながらもお引き受けすることにしたんです。

その編集者は沖縄出身で、東京など沖縄以外の場所では沖縄戦についてほとんど語られないことに疑問を持っていたそうです。従来とは違った切り口で、ひめゆり学徒隊の少女の目線で戦争を描ける作家として私にお話をいただきました。お引き受けした後も葛藤は拭えませんでしたが、そうこうしているうちに沖縄に取材に行く日が来てしまって……。

でも、実際に戦跡を巡ったりする中で、「ここまで来たら戻れない」という覚悟ができました。ひめゆり学徒隊が亡くなった場所に足を運んだ時、「もし私の高校の同級生たちがここで亡くなり、自分だけが生き残ったのだとしたら」と想像してしまったんです。その時点でようやく、戦争は自分とは無関係の過去の出来事ではない、と考えられるようになったというか。

フィクション作品として戦争を描く

――戦争を描いたとはいえ時代背景をなぞるだけでなく、ファンタジックな描写もされていますよね。そういったアイデアは当初からあったのでしょうか?

今日
:あくまでフィクションとして描けるのが漫画の醍醐味なので、政治的、思想的な意味は込めず、戦争について今自分が思うことを“記録”し、漫画としてちゃんと面白く読める作品にしたいと思いました。もちろん体験者の方々の実話が受け継がれていくことはとても大事ですが、漫画は「たかが漫画」だからこそ色々な人に読んでもらうことができ、そこがいいところでもあるので。

――フィクションとはいえ、作品には取材をしてから取り組まれるそうですね。

今日:私は基本的に取材しないと描けないタイプなんです。でも、描き始めるとあまり史実にとらわれず、頭に残っているイメージで進めていきます。そうでないと歴史漫画や学習漫画になってしまうので。ただ、いくらフィクションとして表現するとはいえ、ちょっと一息ついたりした時に、多くの人が亡くなったり、今も苦しんでいる方がいるという事実にやはり苦しくなりますし、戦争を描くことの責任もすごく感じます。でも事実を知って黙ってしまうよりも、今の人たちに響くものを作るべき、という思いをモチベーションにしています。

戦後70年の今、戦争を考える意味とは

『ぱらいそ』(秋田書店)より

戦争被害者の人生を「かわいそう」だけで語るのは失礼

――『cocoon』の後に続く作品、『アノネ、』(※1)や『ぱらいそ』(※2)では、今日さんがご自分で戦争を描きたいと思ったのでしょうか。

今日:そうですね。『cocoon』では描けなかったことを『アノネ、』で、『アノネ、』で描けなかったことを『ぱらいそ』で描きたくて。『cocoon』を含め、戦争をテーマにはしているものの、人物を描くことに私は重点を置いています。誰かの人生の一部に戦争が関わってしまうと、その人の人生は戦争という一要素だけで語られてしまったり、かわいそうな人に見られがちですが、それは彼らにとって失礼だと思うんです。

――「失礼」というのは?

今日:そもそもなぜ自分が戦争から目を逸らしていたのかについて考えると、怖いという思いが強かっただけでなく、描かれている人物にあまり共感できなかった、というのもあったと思います。日本では戦争に対して不思議な郷愁を感じやすいというか、憧れることはないにしても、描かれている悲しみや叙情性に惹かれやすい気がしていて。それもあって、主人公も一方的な被害者として描かれるのかもしれませんが、そこが不満だったのかもしれません。

たとえば『アンネの日記』についても、特に日本では「かわいそうな頑張り屋の少女」としてのイメージのみですが、それはアンネ・フランク自身にとっても居心地の悪い評価のような気がします。もちろんそれが悪いことだとは思いませんが。

※1)『アノネ、』(上下巻)……『アンネの日記』より着想した、フィクションストーリー。隠れ家で生活する花子が、謎の少年、太郎と出会う。戦時中、現代と時空を超えた戦争ファンタジー。
※2)『ぱらいそ』……アトリエ「ぱらいそ」で絵画を学ぶ少女たち。窃盗、姦淫、嘘など、少女たちがそれぞれの思いを抱えた日常を、飲みこんでいく戦争を描く。

時代は変わっても、少女の“生き抜く強さ”は変わらない

――三作は全て主人公が少女でしたが、今日さんにとっての語り部はやはり少女なのでしょうか?

今日:語り部というより、女性のあり方や、少女が大人になる瞬間の変化に強く興味を持っていて、そういったものと社会の大きな変化とを結びつけています。大人になる瞬間って今でもすごく謎で、ある日突然大人に切り換わるわけではありませんよね。変わる部分、残る部分は何なのか、というのをいつも考えています。それから、戦争や災害を描いたとして、それをどうやって生き抜くのか、という強さも一つのテーマです。生き抜こうとする少女のあり方は恐らくいつの時代も変わらないと思うので、そこも面白いですね。

戦争が起こっても日常は続いていく

――最近、「私たちは戦争前夜を生きている」といった意見もありますが、それについてはどう感じますか?

今日:もしも近々、戦争が起こったとしても、いきなり世の中が真っ暗になるというよりは、私たちは日常生活を続けていくような気はしますね。実は『ぱらいそ』では、これから起こりうる戦争に対してどう生きるのか、というテーマも意識していて、戦時中の長崎を舞台にしながらも、あえて現代的な表現を取り込んでいます。

――ご自身として、特にこんな人に読んでほしい、という思いはありますか?

今日:戦争があったことを知らない世代ですね。10代、20代の読者から感想をいただくと、すでに祖父母でさえ戦争経験がないという世代で、私の作品から興味を持って戦争の歴史について調べるようになった、という人も多いんです。

それから普通に暮らしていると、やはり戦争に関する知識は得にくいですよね。体験しておらず、知識もないことについて語る資格はない、と若い人たちは躊躇してしまうのかもしれません。でも、過去には戻れなくても、10年後に世界はどう変わっているか、あるいは大惨事に巻き込まれてしまったら自分の人生はどうなるのか、そういったことを考えながら読んでもらえると、私としてもうれしいですね。今後は戦争で加害者でもあった男性側、あるいは現代もどこかで続いている紛争についてのストーリーにもチャレンジしてみたいです。

(美浜南)

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

戦争を知らない世代が戦争マンガを描く理由 漫画家・今日マチ子と考える戦後70年

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング
人が回答しています