遊び心で非常ボタンを押したら「前科者」になる 弁護士に聞く、いたずらと犯罪の境界線

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遊び心で非常ボタンを押したら「前科者」になる 弁護士に聞く、いたずらと犯罪の境界線

弁護士に聞く、いたずらと犯罪の境界線

先月、石原慎太郎氏の自宅をピンポンダッシュした男性が、警視庁の捜査員に取り押さえられました。ピンポンダッシュといえば、多くの小学生がやったことのあるいたずらでもありますが、犯罪として裁かれるにはどのような境界線があるのでしょうか? 今回、弁護士法人アディーレ法律事務所の篠田恵里香弁護士に、身近にある「いたずら」行為5つについて、犯罪となる境界線をお伺いしました。

複数回のピンポンダッシュは刑事処分に発展する可能性も

――ピンポンダッシュが犯罪として裁かれるのは、どのようなケースでしょうか?

篠田恵里香弁護士(以下、篠田):各都道府県の迷惑防止条例では、「他人に迷惑をかける行為」を列挙して禁止し、これに違反した場合の罰則を設けています。条例の内容は地域によって異なりますが、その中に、ピンポンダッシュに該当する禁止行為が定められていた場合は、迷惑防止条例違反として犯罪になるわけです。

例えば、東京都の迷惑防止条例の5条の2第1号では、一定の要件のもと、「つきまといや押しかけ行為を繰り返し行うこと」を禁止しています。なので、何度も同じ家にピンポンダッシュを行った場合は「つきまといや押しかけ行為」として、迷惑防止条例違反という犯罪になります。また、軽犯罪法1条28号は、「不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為」を禁止していますので、ピンポンダッシュが不安等を与えるような態様で行われた場合は軽犯罪法違反となる可能性もあります。

それ以外にも、ピンポンダッシュ目的で敷地や建造物に入ると、住居侵入・建造物侵入罪に問われる可能性があります。マンションの共用部分やアパートの階段部分でも、住居侵入に当たると判断されたケースがありますので注意が必要です。さらには、恋愛感情絡みでピンポンダッシュを行った場合には、ストーカー規制法違反として犯罪になる可能性もあります。ピンポンダッシュを繰り返して相手を不眠症にしたり、精神的な病に追い込んだような場合には、傷害罪等の成立の可能性も皆無ではありません。

――たった1回のピンポンダッシュでも罪に問われるのでしょうか?

篠田:現実には1回であれば、見つかってもイタズラとして厳重注意で終わります。けれど、軽い気持ちでこれを繰り返すと、実際に逮捕・起訴という刑事処分に発展する可能性も十分あります。

業務中の人に、嘘の道案内をすると「偽計業務妨害罪」

――例えば道を尋ねられた時に、ちょっとしたいたずら心で嘘を教えるのは犯罪でしょうか?

篠田:それを罰する法律はありません。嘘をつく行為は迷惑なことですが、これを直接取り締まる法律がない以上、原則犯罪とはなりません。「嘘をついたら偽証罪じゃないか」と言われる方もいらっしゃいますが、法律上の偽証罪は、法廷で「真実を述べます。嘘をつきません」と宣誓したにもかかわらず嘘の証言をした場合に成立する犯罪なので、日常生活の中で嘘をつく行為が偽証罪になるわけではありません。

また、「騙された。詐欺だ」とおっしゃられる方もいますが、法律上の詐欺罪は「相手を騙して財物を騙し取る、財産上の利益を得る」犯罪ですので、騙したことにより、「相手が困った。無駄な労力を使った」だけでは法律上の詐欺罪にも当たりません。

――それは、どんな相手であっても罪にはならないのでしょうか?

篠田:いいえ、道を尋ねた方が、なんらかの業務を行っていた場合ですと話は別です。例えば、運送業で荷物を運んでいる方や、出前やデリバリーで食事等を届けている、業務上の都合で取引先などに向かっている等の業務を行っていた場合ですね。その場合は、軽犯罪法1条31号の「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」に該当し、軽犯罪法違反となる可能性があります。ことさらに業務を妨害しようとして嘘をついた場合には、さらに重い犯罪である刑法上の「偽計業務妨害罪」に当たる可能性もあります。

非常ボタンの押し逃げで、逮捕者が出たケースは多数ある

――トイレによくある「非常ボタン」、これを押し逃げした場合はどうなるのでしょうか。

篠田:トイレ用非常ボタンの場合、どこに連絡がいって、どういった緊急対応がとられるかにもよりますが、少なくとも、警備員等が現場にかけつけるという対応がとられると予想されます。あたかも、110番の理由がないのに警察を呼んだり、けが人などいないのに救急車を呼ぶ行為等と似ていますね。いずれにせよ、緊急の事態があるかのように装って非常ボタンを押し、かけつける人員に無駄な業務を強いていることになりますので、偽計業務妨害罪(刑法233条)に該当する可能性があります。

また、大規模な店舗でトイレの非常用ボタンを押す行為を繰り返す、等を行った場合は、店舗自体の業務にも多大な支障を生じさせますので、そういった意味で偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。

――実際に逮捕者が出たことはあるのでしょうか?

篠田:はい、多数あります。「異常がないのに電車の非常ボタンをいたずらで押した」事例は、鉄道会社の業務を妨害したとして、偽計業務妨害罪で逮捕された事例が過去に多く見られます。「わくわくする」などと遊び心で行っているのかもしれませんが、場合によっては「前科者」となってしまう立派な犯罪になってしまいます。

他人を驚かすいたずらは、直接怪我を負わせなくても立派な犯罪

――では物陰に隠れて、他人を突然驚かすいたずらはどうでしょうか?

篠田:他人を突然驚かす行為自体を取り締まる法律はありません。なので、これ自体が犯罪になるわけではありません。ただ、驚かせる方法によっては犯罪になる可能性があります。

例えば、突然目の前に現れて「ワッ」と脅かす行為は、暴行罪に該当する可能性があります。暴行罪は、相手の身体に直接接触しなくとも、「相手の五感に直接又は間接的に作用して、不快や苦痛を与えるもの」であれば成立するとされているので、驚いてひっくり返りそうになったり、後ろにのけぞったりするような勢いであれば、暴行罪に当たる可能性があります。なので、驚かせようと耳元で大声を出すだけでも、暴行罪になる可能性があるんです。

――音ではなく、物で驚かせた場合も犯罪になりますか?

篠田:はい、実際に暴行罪となった例があります。驚かす目的で石などの障害物を投げつけた場合、実際に命中しなくとも暴行罪に当たる可能性があります。実際の裁判で、「相手の数歩手前に石を投げつける行為」や「いすを投げつける行為」について、命中しなくても暴行罪とした事例があります。

自転車に乗りながら大声で歌うと「傷害罪」となる可能性も

――深夜、自転車に乗りながら大声で歌ってる人、結構いると思うのですが、この行為は犯罪にならないのでしょうか?

篠田:深夜、大声で騒がれたら相当迷惑ですよね。一般に「騒音」を規制するものとして「騒音規制法」や「騒音防止条例」がありますが、これらは、工場や建築等にまつわる騒音や、深夜営業に関する規制を定めるもので、一般の生活騒音につき具体的規制をかけるものではないのが通常です。

かといって、このような迷惑行為を繰り返された場合に何ら手立てがないというのも問題です。たとえば、軽犯罪法1条14号では、「公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかける行為」を禁止しておりますので、警察や行政にかけあってもらい注意をしたにもかかわらずこれをやめないということであれば、犯罪として立件できる可能性が出てきます。

また、深夜に「大声でわめく」行為が連続して行われることによって、不眠症になった等の事情があれば、「傷害罪」などの犯罪が成立する可能性もあります。過去に、いわゆる「騒音おばさん」が、近隣住民を睡眠障害等に陥れたとして傷害罪で逮捕された事件は有名ですね。

●取材協力:アディーレ法律事務所(東京弁護士会所属)

(編集部)

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