編集長に聞く『りぼん』60年間の変遷

今年8月、少女漫画雑誌『りぼん』が創刊60周年を迎えます。日本を代表する雑誌として確固たる地位を築いてきた『りぼん』ですが、じつは史上最大発行部数となる255万部を記録したのが1994年2月号。現在、アラサーにあたる女性が小中学生だった頃です。同号の表紙を彩ったのが『ママレード・ボーイ』(吉住渉)。ほかにも『天使なんかじゃない』(矢沢あい)や『ときめきトゥナイト』(池野恋)など、人気漫画家による作品が誌面を賑わせていました。

主人公の恋愛に胸をトキめかせ、登場人物同士の絆に感動する――。乙女のバイブルともいわれる『りぼん』は、長きにわたって多くの少女たちの感受性を育んだ漫画雑誌といえるのではないでしょうか。前編では、少女たちから絶大な支持を得てきた『りぼん』のこれまでと現在について、冨重実也編集長に話を聞きました。

創刊当時は漫画は3分の1だった

編集長に聞く『りぼん』60年間の変遷

冨重実也 編集長

――ちょうど60年前の8月3日に発行された『りぼん』ですが、初期の頃はどんな雑誌だったのでしょうか?

冨重実也編集長(以下、冨重):そもそものスタートは漫画雑誌ではなく、小学生の女の子向けの総合誌だったんです。伝記など教育的な読み物も多くて、漫画の掲載は全体の3分の1くらいでした。ただ、何年かすると漫画のウエイトがどんどん増えていき、漫画雑誌の色合いが濃くなってきました。ちなみに、手塚治虫先生や赤塚不二夫先生が描かれていた時期もあったんです。

そうした男性作家などが『りぼん』で活躍されていた頃とは異なり、ちょうど一条ゆかり先生(代表作:『有閑倶楽部』『デザイナー』など)が登場されたあたりから、わりと恋愛漫画が多くなっていったんじゃないかなと思っています。

――現在は、編集部が雑誌全体で恋愛漫画を推していこうと決めて、コンセプトに合う作家を発掘しているのでしょうか?

冨重:雑誌のコンセプトを編集部が最初に決めるということはないですね。基本的には、『りぼん』でデビューがしたくて投稿してくださるかたたちが、漫画家になっていくというシステムです。大好きな先生の漫画が掲載されている「りぼん」でデビューしたいという気持ちがパワーになっているんです。だから、自然と看板作家さんたちの絵柄や作品に影響されるということはあるかもしれません。そうやって雑誌全体のトーンが定着していくというかたちになっているように思います。

少女漫画家は「自分の日記を他人に見せる仕事」

――『りぼん』は、一条ゆかり先生をはじめ、矢沢あい先生やさくらももこ先生など、連載だけでなくコミック本でもヒットを飛ばす漫画家を数多く輩出しています。ちなみに、冨重編集長は『ご近所物語』『こどものおもちゃ』の編集を担当されていたとのことですが、そうしたヒット作を生む作家の共通点はありますか?

冨重:少女漫画家って基本的に「自分の日記を他人に見せる仕事」と私は思っているんです。より恥ずかしい日記であればあるほど面白いですよね。つまり、作家さんの内面がリアルに描かれているものに、人は面白さを感じるんだと思います。誰かに見られるかもしれないと思って書いてる日記って、読んでも面白くないじゃないですか。そういう意味では、皆さん自分の内面としっかり向き合われている方たちなんだと思います。そして、共通して言えるのは、みなさんキラっと光る物語をうみだす豊かな感性をもっていらっしゃるかたばかりだということです。そういう感性は、絵の技術とは異なり、努力だけで得られるものではないのかもしれません。

――最近の読者の傾向はいかがでしょうか?

冨重:昔に比べると、連載を楽しみにして毎号買い続けている読者の方の比率が低いように思います。「今月はこの付録だから買おう」という子たちが増えている印象ですね。

恋愛未経験の少女は、主人公の女子キャラに憧れ

――『りぼん』のお姉さん雑誌にあたるのが、中高生向けの『マーガレット』になるかと思いますが、どんなところに読者層の違いを感じますか?

冨重:一般的に、小学生の女の子は、まわりにカッコイイ男の子がいなくて、リアルな恋愛をしていない女の子が多いと思うので、『りぼん』では読者のみなさんが感情移入しながら読み進められるよう、主人公となる魅力的な女子キャラクターを強く打ち出しています。小学生の女の子たちが憧れているのは、あくまでも主人公の女の子なんです。ですので、例えば主人公の女の子が好きな男の子だったら、多少ビジュアルが劣っていても読者に許容してもらえたりします。

一方、『マーガレット』を読み始める中学生になると周りの男子がちょっとかっこよくなってくるので、男子のビジュアルがよくないと漫画自体の人気が出ないですね。それは、小学生のときに比べ、だんだん恋愛が身近でリアルなものになってくるからだと思います。

――ちなみに、私はまさに『りぼん』全盛期どんぴしゃのアラサーなのですが、『りぼん』8月号を久しぶりに読んでみて、知っている漫画の連載はなかったものの、すごく懐かしい気持ちになりました。

冨重:それはきっと、アラサー世代が『りぼん』を読んでくださっていた頃から続いている『りぼん』テイストのようなものがあるからだと思います。ちなみに、「誰がりぼんを買いましたか?」というアンケートに4分の1の読者が母親と答えたんです。もちろん、お財布的な事情もあるかもしれませんが、昔に比べたら親子で読んでいる割合がすごく増えています。サイン会を開催してもお母さんがついてきて、「私も読んでます」という声をたくさんいただきます。60周年記念ということで、8月号には「姫ちゃんのリボン」の復刻版新ストーリーを掲載していますが、小学生のたちにも知ってもらいたいですし、お母さんたちにも読んでもらいたいと思っています。

――60周年記念といえば、『BAILA』の8月号には、りぼんキャラのポーチやメモなどのコラボ付録も話題ですよね。『BAILA』は都会で働く女性をターゲットにされているので、ちょっと『りぼん』と遠いような気がしたのですが。

編集長に聞く『りぼん』60年間の変遷

『BAILA』8月号

冨重:じつはこのコラボは、『BAILA』の編集部から提案されたんです。8月号だけでなく9月号でもコラボ付録がつくのですが、ちょうど編集者の皆さんが全盛期のりぼん愛読者だったということで、どのシーンやキャラクターを使うかについても全部選んでくれました。

『りぼん』作品には、愛読していた頃のわくわく感やドキドキ感、そしてキラキラ輝く気持ちを蘇らせることのできるパワーがあると思っています。ですので、毎日仕事で忙しく過ごしている『BAILA』の読者たちが付録を手にしたときに、ふと忙しい現実を忘れて子供の頃に味わったわくわくドキドキした気分を思い出す、そんな時間を持ってもらえたらいいなと思っています。

>>後編へ続く

末吉陽子

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