名古屋大学大学院准教授・内田良さんインタビュー(前編)

ドッジボールには暴力性があるのか? スポーツ教育につきまとう、目に見えない“悪意”のリスク

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ドッジボールには暴力性があるのか? スポーツ教育につきまとう、目に見えない“悪意”のリスク
ドッジボール論争を教育リスク専門家が解説

内田良さん

ネット上で大きな反響を呼んだ「ドッジボール問題」をご存知でしょうか? コラムニスト勝部元気氏の「ドッジボール、学校での強制参加を禁止にするべきでは?」という発言に端を発し、ドッジボールという競技自体にまで賛否が巻き起こりました。勝部氏によるとドッジボールの危険性と問題点は「ドッジボールには暴力性が内包されており、怪我やいじめの助長する可能性が極めて高い競技で、強制的に児童にやらせるのは問題なのではないか?」というのもの。この発言を受けて、ドッジボールの危険性に関するエビデンスを公表したのが、名古屋大学大学院准教授・内田良さんです。(参照:Yahoo!ニュース「ドッジボール ケガの実態から考える」)

新刊『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』(光文社)を上梓した内田良先生に、ドッジボールをはじめとする、「教育という善良なものに潜む危険性」についてお話しを伺いました。

ドッジボールは「危険なスポーツ」なのか?

――ドッジボールの危険性が議論の対象となっている今の状況をどのようにお考えですか?

内田良さん(以下、内田):どんなことでも危険かどうかを検証することはとても大事なことだと思います。ドッジボールの危険性について考えたこともなかったという人も多いので、そもそも危険なものなのかどうか、危険だとすればどの点に留意すべきかについて、議論することは重要なことです。

――ドッジボールの危険性というのは以前から問われていたものなのでしょうか?

内田:高校の養護教諭(保健室の先生)からは、ドッジボールでの怪我は多いと聞いたことはありますね。その学校ではボールを柔らかいものに変える対策をしたら怪我の割合がグッと減ったようです。小中ではあまり聞いた事がありません。やっぱり高校生は小学生や中学生と比べて力の強さが違いますから、小学生の頃の感覚でやってしまうと、力加減が分からず怪我につながりやすくなってしまいますよね。

――先生ご自身はドッジボールの危険性についてどう思われますか?

内田:柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツ(プレイヤー同士が接触する競技)っていうのは暴力が内包されていてもわからないんですよね。投げたりぶつかったりしているなかに、意図的な暴力が潜んでいても、その悪意が見えにくいわけです。でもドッジボールはコンタクトスポーツではないのでそういう悪意のある暴力はないだろうと思っていましたが、実はターゲットに向かって思いっきり投げるだとか、ボールが飛んでくるのが怖かったという人がいるわけですから、暴力的なもの、あるいはいじめ的なものが内包されている可能性があるというのが見えてきたのではないかと思います。

目に見えない「悪意」は防ぎようがない

――勝部氏の発言の中にあった「ドッジボールに内包される『悪意』」についてどう思われますか?

内田:教育現場において子どもたちの悪意のあるなしを判断するのは非常に難しいことだと思います。投げられた側の捉え方にもよりますから。投げた本人には悪意がなくても、投げられた側には被害意識が残ることも十分考えられます。いじめなどを回避するために悪意のあるなしを判断するのは非常に難しく、簡単に解決できるような問題ではないといえますね。

――ドッジボールを選択制にすべきという意見が出ていましたが。

内田
:選択制はとっても合理的な考え方です。苦手な子は他の種目を選択すればいいのですから、嫌な思いをする子は減りますよね。しかし、現状では、ほぼ不可能です。同じ授業の中で種目を2つに分けると、先生がもうひとり必要です。体育の授業を少人数にして、先生を割り当てていたらたくさんの人材が必要となります。僕としてはそれだけ人材を増やすんだったら、他の安全対策に回した方がいいと思う。だってドッジボール特有の動作で人が亡くなるということは、めったとないですから。体育よりも部活動指導で多くの児童・生徒が亡くなっているので、そっちの安全対策の方に人を回した方がよほど効率的に子どもの命を守ることができる。選択制にするぐらいだったら現状維持または廃止のいずれかだと思います。

「怪我をするのは当たり前」は思考停止

――スポーツには「怪我をするのは当たり前」という論調が多いように見受けられますが。

内田
:そもそも、「スポーツに怪我がつきものだ」というのは意味のない議論だと思っています。それってほとんど思考停止状態ですよ。それだったらどんなことでも「怪我はつきもの」になりますよね。柔道の死亡事故は毎年3、4人起きていて、30年間で118人の児童・生徒が亡くなっています。死亡事故が起きても「柔道は人が死んで当然だ」といわれたくらいなんですよ。組体操でも怪我はつきものだといわれるし。それは提起された問題に対して何も検証をしないという対応で、僕はそういう対応は意味のないものだと思っています。

生きている以上、死ぬ確率は100%

――それを変えるにはディスカッションしたり、問題点を考えるということが大切だということなのでしょうか。

内田:そうですね。ドッジボールに関しては、実際怪我のケースを見ても全然多くないし、唯一高校のドッジボールだけは考えなくてはいけないけれども、小中、とくに小学校のドッジボールを再考すべきかどうかはかなり疑問です。たとえば、サッカーでボールが顔に当たって怪我をするという事例がたくさんあります。サッカーの悪い側面を引き出そうとするといくらでも引き出せる。僕はいつも講演で話すのですが、人間は生まれた時点で死ぬ確率100%です。道を歩いても危険だし、椅子に座っていてもいつ転げ落ちるかわからない。リスクというものはどこにどれだけのリスクがあって、他と比べて多いのか少ないのかということをきちんと検証し吟味した上で、答えを出さなきゃいけないということです。その検証の結果として、ドッジボールについては、事故の側面から見れば、取りやめにするほどの理由はないと、僕は判断しているのです。

>>【後編はこちら】学校で怪我をしても感動話にすり替わる  リスクが美談で見えなくなる教育現場の病

(橋本真澄)

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