日本で性教育が必要な理由とは?

反対派の声もまだまだ大きい性教育問題。前編に引き続き、中高生を対象に性教育×キャリア教育プログラム「LILY」を行うNPO法人ピルコンの代表、染矢明日香さんに、思春期に性について知ることの重要性について、お話を聞いた。

>>【前編はこちら】中高生への性教育が中絶率を下げる 10代に性の知識が必要な理由

「妊娠=中出し」ではない

――思春期の子どもには、性知識を与えるリスクより、与えないリスクの方が大きいと思うのですが……

染矢明日香さん(以下、染矢):そうなんです。正しい知識を教えないと、子ども同士の噂や不確かなネットの情報など曖昧な知識を信じてしまうことになります。コンドームの付け方にしても、最後(射精する直前)だけつければいいと思っていたり、「安全日だからコンドームなしでも大丈夫」だと思っていたり。中絶した人の4分の1がコンドームを使っていて、もう4分の1が膣外射精というデータもあります。海外ではコンドームは避妊具というより、性感染症予防のためのもので、避妊はより確実な低用量ピルが一般的という国も多いです。妊娠について正しい知識を知らなかったり、知っていても「自分は大丈夫」と思っているのではないでしょうか。

――有名人のできちゃった結婚が報じられるたびに、ネット上では「中出し婚」と書き込まれたりしますが、あれを見るたびに変だなと思います。膣外射精でもコンドームをつけていても妊娠することはあるのに、正しい知識のない子どもが見たら「妊娠=中出し」なんだと思ってしまうかも、と。

染矢:講義の際には、わかりやすさを求めるあまり「ピルを飲んでおけば大丈夫」「コンドームをつければ大丈夫」という言い方をしないように気を付けますね。絶対安全ということはないけれど、きちんとした知識を持ってその子自身が行動を選択できることが大事だと思っています。

女性が知らない男性の性の悩み

染矢:性知識の話に戻ると、男の子の場合、マスターベーションについてネガティブに思っている子って結構たくさんいるんですよ。「マスターベーションをし過ぎると死んじゃう」というのを信じてしまっていたり、行為自体に罪悪感を持っていたり。EDの原因となるような刺激の強いマスターベーションを行ってしまっていることもあります。

また、ポルノでは暴力的な表現のものも多いですね。それを「性行為はこういうものか」「拒否していてもポーズだから、無理やりしてしまえばいい」と思って真似してしまうと、女の子が嫌な目に遭ってしまいますね。ポルノの表現はフィクションであって、必ずしも現実の女性に当てはまるわけではないと教えないといけないですね。

――男子と女子で、お互いについて知らないことも多いでしょうね。

染矢:男子の場合でよくあるのが、極端な話だと生理が1日で終わるものだと思っているとか。ピルをどういうときに飲むものかわからなかったり、「女の子が妊娠についてどのぐらい不安に思っているかを知らなかった」という声も多いですね。実際に中絶した人や10代で妊娠・出産した人のエピソードを紹介すると「そこまで考えが及んでいなかった」と。

女子からは、「男の子ってそんなに性器やマスターベーションについて悩むんだ」という声がありますね。男子は性について悩んでいてもなかなか相談できない子も多くて、「こういう場合は普通」「こういう場合は病院へ行こう」と説明すると少し安心するようです。女子はそれほど男子が悩んでいることに気付いていないことも多いかもしれません。

――自分の体を知るように、異性の体や悩みを知ることも大切ですね。

染矢:相互理解は基本だと思います。恋愛をして関係が近くなると特にそうですが、恋愛をする相手ではないとしても、相手の体や気持ちを理解することや、また自分の気持ちを伝えることは人間関係の基本です。性教育はリスクばかり教えると脅しっぽくなってしまって、そうすると反発されたり、極端に消極的になってしまったりします。そうならないように恋愛や人間関係の良い側面も一緒に伝えて行くのが大事だと思っています。

学校では知識を、家庭では子どもの居場所づくりを

――19万件という日本の中絶件数は国際的にみて多いのですか?

染矢:染矢:国際的にはそこまで多い数とは言えないと思います。10代の中絶件数は過去20年ほどほぼ横ばいですが、日本国内全体での傾向としては減ってきています。ただ、出生数が少なくなっている中で、出生数の5分の1の中絶件数があるというのは問題かなと思います。また、早期の性行動によるトラブルや、性知識がなかったり、性的なことをネガティブに思ってしまうことで妊娠につながらなかったり……など、問題は多角化しているのではないかと思います。

――少子化の問題の1つでもあるということでしょうか?

染矢:日本の夫婦は40%以上がセックスレスと言われているそうですが、中には、性についてオープンに話し合えなかったり、性行為自体をポジティブに考えられないことに原因がある場合もあると思います。

――性教育を、親から子どもにするべきという声と、学校で授業として行うべきだという声とがあると思います。

染矢:基本的に両方が必要だと思います。ただ知識についてはすべての親が今から勉強して全部を踏まえて子どもに伝えるっていうのはやはりハードルが高いなと思っています。基本的には学校で知識を伝えていきながら、親としては子どもの居場所づくりをするということが大事ではないでしょうか。

性のことに限らず子どもからの悩みや相談があったら真摯に受け止めるとか、子どもに起こっている現状を知るとか、子どもが思春期になったら性について、おかしな介入の仕方はしないとか。たとえば、思春期の子どもがエッチな本や情報に興味を持ってしまうのを、強く禁止したり拒否反応を示すより、現実とメディアで発信される情報は違うことや、そういう情報でお金儲けをしている大人の存在があると伝え、子どもの判断力を育むことにつなげてはと思います。

また、学校での性教育でも、生徒と年齢が離れていたりするとやりづらかったり、先生の負担になる部分もあるのかもしれません。そういうときに、私たちのような年齢の若いNPO団体が役に立つのかなと思います。

LGBTへの理解も

――最近はLGBTへの理解も広がっています。LGBTの割合は20人に1人と言われますが、中学校や高校でLILYプログラムを行うときに、気を付けていることはありますか?

染矢:LILYではLGBTについて詳しく教えるわけではないのですが、最初に「今日はオープンに避妊の話や主に男女間の恋愛についての話をしますが、この中には同性を好きになる子や、人を好きになったりしないっていう子もいるかもしれません。それは別におかしくないことです」とか、「性感染症は同性間でもうつることがあります」という話はします。生徒さんからざわめきや笑いが起こることもありますが、「え? 別におかしいことじゃないよ?」と、あえて平然と続けます。

この活動を始めてから、性に関することってグラデーションであり、1人1人のセクシュアリティは本当に多様で、自分も自分らしくあっていいと思えるようになりました。(同性愛にしろ異性愛にしろ、性自認にしろ)誰もがいろいろな要素を少しずつ持っているのではないかと思います。だから「普通」っていうのは何か、わからないですよね。

――今後、重点的に行っていきたい活動を教えてください。

染矢:LILYプログラムや講演活動について、教えられる人を増やしていきたいと思っています。自分たちが講演を受けやすい地域は関東圏が多いのですが、それをのれん分けするというか、ゆくゆくは全国展開していきたいですね。届ける場所を増やすためにプログラムをある程度マニュアル化して、児童養護施設で暮らす子どもたちなど、リスクが高くなりがちな状況にいる子どもへ向けてのサポートも行っていきたいと思っています。

●染矢明日香(そめや・あすか)
NPOピルコン理事長。石川県金沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。自身の経験から、大学在学中の2007年に「避妊啓発団体ピルコン」を起ち上げ。2013年にNPO法人化。現在までに2000人以上の中高生に対してLILYプログラムを行う。医療従事者の監修のもと製作し、無料動画サイトに投稿した「パンツを脱ぐ前に知っておきたいコンドームの付け方」動画は2012年10月のアップ以来、130万回以上再生。『マンガでわかるオトコの子の「性 」』(合同出版)を2015年6月に発売。

小川 たまか/プレスラボ

この記事を読んだ人は答えてね!
人が回答しています