『セーラームーン世代の社会論』著者・稲田豊史さん×『整形した女は幸せになっているのか』著者・北条かやさん対談(後編)

整形する女の幸せは誰が決めるのか 理想の顔に近づきたい女と反対する男の心理

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整形する女の幸せは誰が決めるのか 理想の顔に近づきたい女と反対する男の心理

「盛ってる私が本当の私」整形女の本音

左:北条かやさん、右:稲田豊史さん

>>【中編はこちら】「のび太系男子」が宮﨑あおいを好きな理由 未成熟な少女を支持する男性の本音とは

セーラームーン世代の社会論』著者の稲田豊史さんと、北条かやさんの対談後編は、北条さんの新刊『整形した女は幸せになっているのか』より、「顔を変えたい女性の本心」「女性の幸せ」について語っていただきました。

「顔がヤバイ」と「ブス」はどう違う?

稲田豊史さん(以下、稲田):北条さんのご著書『整形した女は幸せになっているのか』では、「他人が自分をどう思うか」ではなくて、「自分が自分をどう思うか」が整形のベースにあるとされていて、目からウロコが落ちました。

一方で、女性は自分の顔を「ヤバイ」とは言うけれど、「ブス」という言葉を使わないとも書かれていましたが、そこには重要な一線があるということでしょうか。おそらく多くの男性は、「私、顔がヤバイの」と「私はブスなの」に、あまり違いを見いだせないと思うのですが。

北条かやさん(以下、北条):まず、「セーラームーン世代」の女の子で言えば、セーラームーンたちは脚が長くて、みんな目がぱっちりした美少女。中学2年生にしては、身体も大人びている。それが理想だと刷り込まれているんです。上の世代ですと、中村うさぎさんはバービー人形が理想だと仰っていました。

私が『セーラームーン』シリーズを熱心に見ていた小学生当時、安達祐実さんや、前田愛・前田亜季姉妹、大沢あかねさんなど、可愛い子役やモデルたちが大ブームでしたし、少女マンガを見ても、みんな目がクリっとしていてかわいい。でも鏡を見ると自分は違う。多くの日本人女性は子供時代、お化粧をしないので、どうしても野暮ったい感じがあります。それがいつか、ムーン・プリズムパワーで綺麗になれるんじゃないかという幻想を持って育ち、中学生になると、憧れに少しでも近づきたくて、お化粧をするようになる。

稲田:何かしらの手段を講じれば、自分も綺麗になれるんじゃないかという期待。それが化粧であると?

北条:そうですね。私たちが中学生になった頃より少し前に「アイプチ」という糊状の化粧品が登場して、整形級のメイクができるようになりました。ムーン・プリズムパワー級とはいかずとも、理想の身体を手に入れる道具が揃ったんです。

その頃、浜崎あゆみというサイボーグ的なアイコンが登場しました。あゆは目がぱっちりしていて、ちょっとトラウマがあって。稲田さんの著作を読んで、セーラームーンも前世からの宿命を背負っていますし、多少なりとも彼女たちと「あゆ」は、似たような存在と言えるのかなと思いました。そういうキャラクターに、思わず共感してしまう女の子たちがいる。『整形した女は幸せになっているのか』を執筆するにあたって取材した中では、浜崎あゆみが理想という声が多かったんです。もしかしたら、彼女たちも幼い頃は「セーラームーン」が好きだったかもしれません。

「ブス」は決定的な自己否定

北条:そもそも「ヤバイ」という言葉自体、よく批判される語彙です。おいしいものを食べても「ヤバイ」、なんでも「ヤバイ」を使ってしまう。それを自分の顔に対しても女の子は使うんです。私もそうなのですが、「今日はまぶたが腫れていてヤバイ」「脚がむくんでてヤバイ」と。

稲田:「たまたま顔のコンディションが悪い状態」を含めて「ヤバイ」ということなんですね。ベストコンディションの顔は今は違う。だから「ヤバイ」。「ブス」はコンディションも何も、土台からダメだということですか。

北条:「ブス」という言葉には本質的に、女失格の烙印を押されてしまうくらいの破壊力があるんだと思います。

「盛った自分」がありのままの私

稲田:本書の中で、「一番自分になじむ顔=フィット」と表現されていましたが、整形は「改造手術」じゃなくて、本来こうあるべき自分に向かって修正を施していくということなんですね。

北条:一部の女性にとって、本来の自分とは、プリクラで盛ったり、二重メイクをしたりした後の自分なんです。「盛れた自分=ありのままの私」なんですね。その傾向は「整形メイク」と冠した本が売れていることにも現われています。セーラームーンで言うと、ムーン・プリズムパワーで「メイクアップした私」の方が強いし、美しくなっている。つまり「変身=盛り」だと思うんですが、そういった点が自分たちにとっては当たり前の認識なんです。セーラームーンでも、変身の後のシーンの方が、圧倒的に充実していますし、変身後こそ「本当の私たちの姿」ですよね。

稲田:『アナと雪の女王』でも、「ありのまま」のエルサは、氷の女王となってドレスアップし、魔法も使い放題の状態です。セーラームーンにしても、変身後のスーパーな形がエルサでいう「ありのまま」ということなんですね。

しかし、多くの男性にとって、機能変更・変形・合体などの「トランスフォーム」は理解できても、メンタルな意味を含めた「盛り」は理解しにくい。化粧は本来「盛り」なのに、全く別人に見えるので仮面のように捉える男性もいますから。そういう男性は、それこそ整形を「改造手術」だと思ってしまう。

    男の「今のままで十分だよ」発言に違和感

北条:男性は整形手術について、まず拒絶感がありますね。彼女が整形したいと言ったときに、もちろん、血が出る施術もあるので、スプラッタ的な恐怖もあるとは思いますが、「今のままで十分可愛いから改善しなくていい」「パーツを入れ替える必要はない」と言って反対する男性が多いですね。

稲田:男はよくそういう言い方をしますけど、これほど説得力のない言葉もないですね(笑)。『整形した女は幸せになっているのか』で、北条さんが1955年の小説、シャルル・プリニエの『醜女の日記』を引用して説明されている部分です。主人公のサヴィーヌが恋人ハンスのために整形手術を受けようとする。しかし、ハンスは「そのままの君が好きだ」と答える。

北条:付き合っている彼氏に、整形をしたいと申し出る女の子の思いは「本来の私は、すっぴんじゃなくて盛れてるほうの私で、あなたはそれを可愛いと思っているでしょ。でもどうして整形はダメと言うの?」なんですね。デートのときは綺麗に化粧をしている状態なのに、整形したいと言うと、とたんに「すっぴんがいい」とはこれいかに、とギャップを感じると、女性から多く聞かれました。

稲田
:男性側からしたら、もはや理解できない範疇なのかも。「ゴメン、整形は生理的に無理」と言いたい人もいるでしょうし。整形したい女子に、のび太系男子はずっと「ありのままの君が好きだ」とアホみたいに言い続け、女子は「ありのままの私をお前は本当に把握しているのか」と疑問を抱き続けるのでしょう。

整形は内面と外見を一致させること

稲田:本書の中村うさぎさんへのインタビューが面白かったです。うさぎさんのお顔は童顔で、彼女の内面とずれているから他人から誤解されている。だからそれを整形で一致させたとありました。それを読んで、それが整形の本質なんだと納得したんですよ。

北条:私は中村うさぎさんの大ファンで、今回、色々とお話を伺ったんですが、男性が彼女の童顔から推察して「本当の君は違うはずだ、無理している」と言われるたびに、男性の妄想に自分の外見が加担しているんだと思い、イラッとしていたと。で、内面に合わせて整形なさった。整形したらモテなくなったと仰っていたのですが、その代わり、外見が自我と一致して非常に幸せになったそうです。

稲田:それは性同一性障害の方が努力して内面と外見を合わせていくことと、本質的には同じですね。

北条:まさしくそうです。その過程で異形感が出るのは、個人的には仕方がないことだと思っています。性同一性障害の方で完全な中性になりたいという方もいらっしゃいます。そういう見た目だと他人からはギョっとされるかもしれない。しかし、それを目指して整形することは、その人にとっての幸福なんです。たとえ他人が異形だと思ったとしても。うさぎさんに対しても、途中からやりすぎだと批判する方もいらっしゃったのですが、私には多幸感に浸っていらっしゃるように見えました。

基準を内に置くか、外に求めるか


稲田
:僕は本書を読んで、「幸せってなんだろう」と考えてしまいました。唯川恵さんの小説『テティスの逆鱗』を引用した部分で、主人公は「美しさの基準を外に求めるのは不幸だ」と言っていますよね。それはかなり普遍的な話じゃないですか。教義を自分の外に求める宗教も同じこと。正しいもの、良いもの、信じるものが自分の中にあるなら、外部に教義を求める必要なんてないわけですから。

外に基準を置けば、それが権威を持って確立されたものであればあるほど、自分は思考停止できるので楽です。例えば「美の基準」が白人女性であると決めてしまえば、それに近づいていけばいいだけですから。こういうふうに、盲目的に外の基準に合わせることによって、幸せを得る人もいると思うんですよ。でも『テティスの逆鱗』の主人公は、自分の中にある美の基準に忠実になろうとする。それが整形ということなんですよね。だから幸せってなんだろう……と。

北条:それが今回、一番言いたかったところなんですよ。幸せの基準を外において幸せな人もいれば、他人に異形といわれようが追求する幸せもあるのではないかと言いたかったんです。それをフェミニズムはどう捉えるのか、私もまだ、答えを探っているところなんです。

(編集部)

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